41:目が覚めて
SIDE IN~維新幸樹~
目を開けて、最初に見つけたのは彼女の寝顔。
やっぱり彼女は僕のベッドに倒れるようにして寝ていて。
また、と思った。
言葉を置いて、溜息ばかりが先に来る。
情けないとは思わない。
彼女の強さも、僕の弱さも全部認めているから。
それでも納得できないのは、意地なんだ。
「ごめん、ありがとう」
少し乱れていた彼女の髪を梳いてなおしてあげる。
焼け爛れた内臓が熱くて痛いのはもう当たり前で、気にもならなかった。
折れずに無事でいてくれたこの左手に今は感謝しよう。
そうしながら辺りを見渡すと、見覚えのない寝室だった。
まあ、当然かな。
御城で与えられた部屋よりは少し汚くて、少し狭い。
これも、当然かな。
それでも充分な広さの二人部屋だ。
それは彼女に対しての配慮だったのだろうか。
未使用のベッドが、余計に整って見えた。
キィィ、と無遠慮にドアが開かれる音がした。
古くもない木が軋む音に、掌の下で反応があった。
それに気が付いたから、そっと手をどける。
「起きてたのか」
「僕はね」
入室してきた明人さんがそのままベッドまでいって腰を下ろした。
「・・・・・」
彼女はむくりと体を起して、その様を見ていた僕と目があった。
そして、深く息を吐く。
彼女にしては珍しく、見てとれるほど安心した顔をした。
「話は聞いた」
会話の無い僕らに、丁度良いタイミングで入ってこれるのは、おそらく彼だけだろう。
やりとりだけをみて機をてらうのが難しい事は、僕自身にもわかっている。
変えるつもりはないけどね。
「お前と魔王との取引。これは完全に遊ばれていると見て、いいのか?」
声を思い出す。
悪魔と話すのは、きっとあんな気持ちだ。
怒っている母さんと話す時もあんな気持ちだった気がする。
声が何処か、心のどこかを撫でていく。
それはおそろしさだったり。
それはこわさだったり。
それはおびえだったり。
凄い、と単純に思った。
こんなのが相手なのかと、笑わずにはいられなかった。
「明人さんはどう思います?」
「俺にはまだ分からない。ただ、状況だけを見ればそう取れなくもない。魔物との追いかけっこ、一日だけのセーフゾーン。ルールや賞品まであるときた。否定する材料の方が、ないくらいだ」
子供のような提案だった。
鬼ごっこをしよう。
そう言われた。
それは必要のない遊び。
だからこそ、不気味だった。
でも。
ゲームの間は他の人間には手を出さない、と。
悪魔は囁いた。
「そうですよね」
彼女は口出しをせずに、ずっと僕の顔を見ていた。
僕らにはよくあること。
相手の何かが知りたいときは、必然的に口数の少ない僕達はこうする。
単純に眺めることも、半々だけど。
思わず、顔をそらして口をつぐんでしまう。
彼女にはわかっているだろう。
だけど、迷う。
「僕にもわかりません。でも」
これは、考え違いかもしれない。
ただ僕は恐怖して、臆病になっているだけなのかもしれない。
「アレはただ遊ぶ奴には、到底おもえなかった」
それでも僕には、そう思えて仕方がなかった。
ふわり、と頭に心地よい感触がした。
さらさらと撫でられる。
「大丈夫」
はっきりと、彼女は言う。
ああ、また。
急に恥ずかしくなって、顔が上げられなくなる。
熱い心臓が、さらに血流を良くしていく。
絶対に今は、顔を見せられない。
まったく、もう。
「俺たちは脇役だからな。臆病が丁度良い。俺もお前も、考えなきゃ死ぬ場所にいるんだ」
「・・・・・はい」
本当に二人が居てくれて、よかった。
そう思うよ。
SIDE END