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36:追いかけて~3~

 SIDE IN~佐藤藍~


 街は既に起きていた。

 行きかう商人達。

 それは忙しそうに。

 どこか活き活きと、次の商談をかぎつけて行く。

 何処にでも足を止め、雑談をしている主婦達。

 それは楽しそうに。

 どこでも活き活きと、次の噂をかぎつけて行く。

 子供はその合間を縫って、元気に走り回り。

 どこかの子飼の坊主は、おつかいを任されているのか、少し急ぎ足で私達の目の前を通り過ぎて行った。

 私達が何故城を出てこんなところにいるのかが、不思議に思えてくる。

 つまりは。

 「平和そのものですね」

 「本当に」

 抑揚のない声。

 さも、どうでもいいといった。

 興味すら持っていない。

 ただ意味のない相槌。

 元から彼女にとってこの世界の平和なんてあまり興味がないだけなのか。

 それとも。

 今はそんな余裕もないだけなのか。

 「居ませんね」

 「そう」

 彼女は真剣に、人ごみを観察していた。

 右、左、右、左、そして右。

 こんなことに意味は無いと、私は思う。

 それは彼女も同じかもしれない。

 聡い子だ。

 けれど、これは感情論なのかもしれない。

 何もせずにはいられないという。

 だから、私達はここで。

 こんなことをしているのだろう。

 「本当に好きなのですね」

 ただの言い訳だと、思っていた。

 少しだけ。

 そう、思っていた。

 まだ彼女は子供だから。

 必死で考えた、彼を追いかけるための言い訳なのだとおもっていたのだけれど。

 いや、だからこそ。

 子供だからこそ。

 「好き」

 本当なのかも、しれませんね。

 こちらを一度も振り返らない彼女の表情が、見ずとも分かる事が私にはおかしかった。

 「そうですか」

 「そう」

 「どんな所が、良いんですか?」

 「・・・・・」

 ついつい。

 私も女だから。

 こういう話は嫌いではない。

 むしろ。

 ケーキと同じ。

 大好きだ。

 「私はこんなだから。人からは強く見えるみたい」

 そんなことはないのに、と小さく呟いた。

 子供らしくない。

 それは彼女にとって、似合ってしまう言葉だ。

 落ち着いた外見。

 落ち着いた表情。

 どこか大人びていて。

 自然。

 そう見える。

 「今まで、家族でさえ、そう見えていたみたい。だから、私は余計にそうなったようにおもう」

 淡々としていた。

 あるはずのかげなんかなく。

 それどころか。

 ないはずの誇りがみえた。

 「凄いね。流石ね。敵わないな。羨ましい。どれもこれも、私には冷たくて、欲しくもない言葉ばかり」

 私達は、そんな彼女に何を強いていたのか。

 責められている訳ではない。

 けれど。

 思わずには居られなかった。

 「頼られる存在。それが私。だから純粋に、誰かに助けられたのが嬉しくて、好きになった」

 ああ、それは。

 惚れてしまうのも、仕方がないかもしれませんね。

 「きっかけはそれだった。それから一緒に居ると、彼はやっぱり特別で。唯一、私が弱くなれる人なんだと、おもう。今のところは」

 よく分からない、最後にそう呟いて、彼女は黙って作業に戻った。

 先ほどよりも、熱心に見える。

 でも。

 くすり、と小さく体を折って笑った。

 その視線はキョロキョロと。

 あまりにまわりを見ていなくて。

 照れてるのでしょうか、と。

 やはり見えない彼女の表情が、それでもわかってしまうことが。

 やっぱり、おかしくて。

 私は笑う。


 SIDE OUT


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