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35:追いかけて~2~

 SIDE IN~冷泉陽菜~


 また、人影が門から街へと入ってきた。

 また、私は彼らを黙って見送る。

 さながら銅像の如く。

 旅の安寧を祈る女神像のように。

 ただ何もせずに見送った。

 ため息が出る。

 でも、他にやらなければならないこともなく。

 やりたいこともない。

 そして、私は銅像のまねごとを続けた。

 

 SIDE CHANGE~新沼明人~

 

 ベッドから起き上がり、窓の外を見ればまだ小鳥が鳴き始めたばかりで、独特の色合いをした景色が見れた。

 傍まで寄り、開け放って深呼吸をする。

 悪くない。

 自然。

 口元がゆるんでしまう。

 なんて、暢気な。

 そう考えても、気持ちは全然変わらずに、ただ穏やかだった。

 まあ、そういうものか。

 直面していようが目の当たりにはしていない問題を考えたところで、焦りなど出るはずもなく。

 考えるのを止めた。

 「おはようございます」

 それを待っていたかのように、タイミング良く藍から声がかけられた。

 いつから、見られていた。

 思い返して、何かやらかしていないかを確認する。

 大丈夫。

 「何か良い夢でも見られましたか?」

 大丈夫じゃなかったか。

 そんなににやけていただろうか。

 「いや、別段夢見は良くなかったな」

 「やけに楽しそうに見えますよ」

 「それは、楽しいからな」

 「そうですか」

 「ああ」

 何故か、なんてくだらない事を彼女は訊いてこない。

 さて、困ったな。

 どうにも、こいつには―――――。

 「ところで、陽菜は何処に?」

 何を言ったものかと巡らせていると、急に話題を変えられて、思考が止まった。

 「ん、あぁ・・・朝早くから散歩らしい」

 言葉が一度途切れて。

 その合間に立ち直る。

 「それはまた」

 「落ち着いているようで、落ち着かない奴だからな」

 「大人っぽい子供らしくて、良いですね」

 「さて、何が良いのかは知らないが、そうだな。子供らしくない子供よりかは、はるかに良いかもしれないな」

 「貴方はどんな子供だったんですか?」

 「俺か?想像通りだと、言っておこう」

 「そうですか。随分と卑猥だったのですね」

 「どんな想像をしたんだ」

 「私はやんちゃでしたよ。思い出すと懐かしいですね」

 「・・・そうか」

 「遠目で見ているのとでは、大分印象が変わりますね。やはり」

 「陽菜の場合は、特別だ。そう、つい最近ようやく、見た目と中身が違い始めた」

 「すると以前は?」

 「ああ。見た目通りだったな」

 「なるほど。子供らしくない子供ですか」

 ならば、やはり、と彼女は微笑んだ。

 窓の外を見て。

 大きく一つ伸びをする。

 「大人っぽい子供らしくなって、良かったですね」

 「・・・何が良かったのかは知らないが」

 その隣で壁に背を預けて、今は無い煙草を頭の中だけで吸いながら、ごまかした。

 ―――――弱いみたいだ。

 「心配しなくて済むのは、良かったかもしれないな」

 彼女はくすりと笑い。

 俺は苦笑いを、一つ。


 SIDE CHANGE~冷泉陽菜~


 何度溜息をついたか、わからない。

 街に着いた時から、気持ちがそわそわして、なんだか落ち着かない。

 分かっては、いる。

 私が急いたところで何も変わりはしない。

 でも、待つだけなんて、出来なかった。

 あと、一組。

 あと一組違ったら、宿に戻ろう。

 そう思ったのは、いつだったか。

 もう陽は昇り始め、少しだけお腹がすいてきた。

 いや、大分・・・。

 お腹にやっていた目を、上げると丁度門から若い男が入ってきた。

 でも、違う。

 彼なら、すぐにわかる。

 それが少しだけ誇らしくて。

 今だけは忌々しくて。

 少しでも長く期待していたいのに、なんて。

 意味のない事を、考えた。

 次の一組。

 次の一組が違ったら。

 本当に宿に戻ろう。

 また来ればいい。

 今日は日がな一日ここで潰すのもいいかもしれない。

 うん。

 そうしよう。

 そうして。

 門に目をやって。

 彼女はくるりと、反転した。

 小さく、息を吐きながら。

 宿へと、戻っていった。


 SIDE CHANGE~佐藤藍~


 彼と食堂へ向かうところで、陽菜と合流した。

 扉を開けたところで鉢合わせ、そのまま共に食事する事に。

 「今日の予定はどうしましょうか。維新様と椎名様が到着するまで、特にやっておくことはないのですが」

 「買い出しとかはいいのか?」

 「ええ、まだ荷は減っていない。余計なモノは邪魔になるだけだ」

 「確かに、そうだな」

 「散歩」

 朝に引き続き、陽菜は散歩がしたいらしい。

 「何か気になる場所でもありましたか?」

 「特にない」

 ただ、落ち着かないだけだろうか。

 「俺は宿で門番が来るのを待つ。行ってくるといい」

 「あとは私ですか」

 二人は自由だ、と思った。

 それは遠からずも、近からずかもしれない。

 さて、どうするべきか。

 「陽菜と一緒に行ってきたらどうだ?」

 私は何がしたいのか。

 朝食のパンを口に運びながら、少し思案する。

 気持ちの向くままに。

 行動しよう。

 私の隣で、同じように、パンをついばんでいる少女を観察する。

 散歩、ですか。

 なんだか、ちょっと。

 気になった。

 だから。

 私は決めた。

 「そうですね・・・良いですか、陽菜」

 「良い」

 彼女は即答して。

 私はそれが、おかしくて。

 笑った。


 SIDE OUT

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