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33:そして、彼女も

SIDE IN~見切り発車した少女冷泉陽菜~


 「それでも、私は嫌だ」

 話を、終わらせないために、とりあえず口を挟んだ。

 新沼に言葉を継がせないために。

 だって、私は納得する気もなければ。

 このまま流されるつもりもない。

 「冷泉?」

 怪訝な顔をする新沼の目をしっかりと見て。

 意思はゆるがないと、言外に伝える。

 あの人は言った。

 自分の思う通りにしか生きるつもりはない。

 それは私も同じ。

 「あなたの話は解った。彼を追うのが駄目な理由も、私達がしなきゃいけないこともわかった。でも、それでも。絶対に私は、嫌だ」

 「お前・・・」

 驚いたように、彼は私を見つめ返した。

 予想外だった?

 私だって、驚いている。

 こんなに喋るのは久しぶりだ。

 でも、今は言葉を絶やさないように。

 思いついた言葉を並べていく。

 「これは子供のわがまま。でも私は子供だから。あなたの言う事はききたくない」

 「何を言っているのか、ちゃんと分かっているのか?俺の言葉を聞いていたか?」

 「分かってる。だから、皆を危険に曝すつもりはない。私は一人で彼を追う。それなら、迷惑をかけない」

 全部分かっていて、それでも嫌なんだ。

 だって、無理だ。

 私には無理なんだ。

 彼が私達の為に自ら断頭台に首を差し出すような真似を。

 黙って受け入れることなんか、できない。

 「それを、黙って見過ごしてくれればいい」

 今、貴方が私達にそうしろと、いったように。

 私が彼と同じ事をしようとしていようとも、黙って見逃してほしい。

 もっとも、私のはただの自分の我儘で。

 彼とはちょっと違うけれど。

 「・・・・・」

 彼は黙って。

 口元に手をやって、考え事をしている。

 何を、考えているのだろう。

 私が追うリスク?

 それによって起こるリターン?

 あとひと押し。

 何かがあれば、いけるかもしれない。

 「なにより」

 とっておきのカードを切る。

 「幸樹さんが霧島と二人きりだというのが、嫌」

 「はぁ?」

 本当に間の抜けた、声だった。

 口元に手をあてたまま、かすかに目を見開いて私を見る。

 「隠すつもりは無い。私は彼が好き。これは愛情。これは嫉妬。だから、無理」

 直後。

 ポカンと、口を開けて。

 大きく目を見開いた。

 それが次第に、細くなっていく。

 「くっ、あっははははははは!」

 彼にしては珍しく。

 大きな声を上げて、腹を抱えて笑いだした。

 少しだけ顔が熱くなる。

 私は何を言ってしまったのだろうか。

 話の方向性がずれてきている?

 とっておきに思えたカードが、実は花札だったみたいな間の抜けた、ずれた感覚を覚える。

 でも、もう止まれない。

 ひっこめるには、遅すぎる。

 「おかしい?こんなときに、こんなことっておもうかもしれないけど。私にとっては、何よりも大切なこと」

 考えたりはしない。

 もうなるように、なればいい。

 「何時死ぬかわからないなら、なおさら。私は後悔したくないから」

 「そうだな。いや、悪い。信じてもらえないかもしれないが、馬鹿だとおもって笑ったわけじゃないんだ」

 ひとしきり笑った彼が、楽しそうにこちらを見て。

 頭をがしがしとかきながら、困ったようにして。

 視線を皆へとうつした。

 「俺はどうすればいいとおもう?」

 「ここまできて、俺たちに聞いちゃうのかよ、それを」

 「いや、だってな」

 「分からないでもないけどな」

 「だろ?」

 雰囲気に暗いところは無くなり。

 灰田も新沼も、全然悩んでいる素振りはない。

 それどころか、私以外の全員は微笑んでいて。

 先ほどまでの空気が嘘のようだった。

 「でも、そうだな」

 また新沼は口元に手を当てて、今度は考えているフリをした。

 口元がにやついていて、あれはすでに、悪戯な事を思いついたような顔だったから。

 誰が見ても、一目瞭然だった。

 「反対はしない。この中でも冷泉は飛びぬけているからな。さっき言った支障もそれほどないかもしれない」

 急に彼は掌を返す。

 内心では、そんなことはどうでもよくて。

 というか、あんなに恥ずかしいカードを切ったのだから、上手く事が運んでくれなければ割に合わない気がする。

 「おいおい、それでいいのかよ」

 「確かに、陽菜ちゃんは強いけど」

 「ええ、一人で追いかけさせるのを認めることはできません」

 自然、皆は反対する。

 後、ほんの少しなのに。

 すごく、はがゆい。

 何かないだろうか。

 背中を押してくれる、何かが。

 「藍、馬車の用意をしてくれないか」

 「明人?」

 突然彼は立ちあがったかと思うと、私の前に来て。

 ぽん、と頭に手をおこうとした。

 まあ、髪を触られるのを無意識に嫌った私が反射的に払いのけてしまったけれど。

 呆れるように彼が笑ったから、それほど気にすることもないか。

 「一人が駄目なら、俺が一緒に追いかけよう」

 「ずいぶんと、あっさりと。先ほどまでそれをさせなかった人と同じだとはおもえないですね」

 そうまるで、始めからそのつもりだったみたいだ、と佐藤は捨て台詞のように投げてから、部屋を出て行った。

 確かに。

 皆の視線が彼に集まる。

 「もうちょっと違う形で旅立つはずだったんだがな。予定が大幅に狂ったな」

 しれっと、そんなことを言って。

 掌をこちらに向けて、お手上げのポーズを取る。

 それは、誰に対してなのか。

 何故、私をみているのか。

 「いろいろ下準備をしていたのに、ほとんど水の泡だ」

 別に私のせいでは、ないのではないだろうか。

 「本当に、そんなことばっかりやってると信用なくすぜ、明人さん」

 「ええ、あんなに無駄とか、馬鹿とか言ってたくせに、本人は初めから追いかけるつもりだったなんてね」

 灰田が半ば呆れ気味に言い。

 同調するように小山田が嘆息した。

 「俺は半端でもなければ、あいつの望みとか考えなんか、知った事ではないからな」

 それに対して彼は。

 それがどうした、と笑うだけ。

 「でも、すげぇ演技だった。まじで説得力あったし」

 「全部本当の事だからな。俺に適応されないだけで、お前らには言える事なんだ」

 だから当然だな、とふいに、真剣な表情をした。

 「あれこれ言って、掌を返したみたいになったが、忘れてくれるなよ。アレは別に嘘じゃないんだ。俺と冷泉があいつを追っても、お前らは追ってくるなよ」

 「それぐらい分かってるわ」

 「お前たちは安心して、俺たちに任せればいいんだ」

 「ええ、そうするのが一番良さそうです」

 「それでいい」

 彼は微笑んで。

 「土産なら買ってきてやらんでもない」

 「なんだそりゃ」

 まるで子供を相手にするような、そんな。

 笑顔を見せた。

 「話はまとまったようですね」

 雑談に発展しそうな展開を、止めに入るようなタイミングで佐藤が戻ってきた。

 「ああ、上々だ。そっちの首尾はどうだ?」

 「馬車はもうすぐ準備出来るでしょう。けれど、使用許諾を得るために条件がつけられました」

 「なに?」

 「私も同行するように、とのことです」

 「直達の世話は誰がするんだ?俺はお前をあてにしていたんだが」

 「それならば、心配する事はありません。条件を提示する代わりに、ある御方が引きうけてくださりました」

 「誰だ?」

 「わたくしです」

 扉の向こうで、待機でもしていたのだろうか。

 40も近い初老の女性が、入ってくる。

 その様はまさに優雅そのもの。

 まるで武道でも齧っているかのような身のこなし。

 長い髪は毛先まで手入れが行き届いていて。

 人目を引く、年相応の美しさを持った人だった。

 「貴方は?」

 「霧島椎名の母。秋奈と申します」

 「椎名ちゃんのお母さん?!」

 「本当は手を出さないように言われていたのですが、状況が状況です。私が娘に変わって、皆さまをフォローさせていただきます」

 「なるほどな。それなら、安心だというわけか」

 「ええ、その通りです」

 その時、ドアがノックされ。

 兵士が扉を開けて、馬車の用意が完了した事を告げた。

 私はすぐに、部屋を出ようとして。

 後ろから声がかかった。

 「陽菜様、明人様。そして、藍。どうか、よろしくお願いいたします」

 何を、なんて聞かない。

 恋敵になったら仲良くはできないかもしれないけど。

 「皆をよろしく」

 答えの代わりに、そう言って。

 私は部屋を、出た。

 「早速、行きましょうか」

 「ああ、早い方が良いからな」

 すぐに佐藤と新沼が来て。

 私達の追走が始まった。


 SIDE OUT

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