表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/55

31:彼の諦め

 SIDE IN~いろいろと限界が近い維新幸樹~


 遠吠えは既に絶え。

 陽は完全に昇るどころか、既に沈みかけ始めた頃にようやく。

 道がひらけた。

 森を抜けた先は平原が広がっていて。

 なだらかな丘陵地帯に道が続いている。

 記憶の中にある地図でこの風景を知ってはいた。

 けれど。

 日蔭から脱出したばかりで、目を細めながら。

 その景色に感嘆した。

 夕景色も相まって、自然の雄大さというかなんというか。

 心に沁みるものがある。

 「んっ、・・・・・んん~」

 感動していると耳元で、小さな呻き声が聞こえてきた。

 背中で寝ていた彼女が、まるで計ったように。

 目を覚ましたのだろうか?

 もぞもぞと動いた感触がして。

 ちょっとだけ、悲鳴をあげる。

 その、柔らかさな感触に。

 「おはよう」

 だから、だろうか。

 ちょっとだけ、声が裏返った。

 内心では、その事に焦りながら。

 叫ばれないか、心配する。

 「・・・・・?」

 しかし、予想に反して応えは無く、ただただ彼女は呆けていた。

 寝起きは良くないようだ。

 低血圧、なのだろうか。

 足は止めずに、しばらく反応を待つ。

 すると、再び体にずっしりと重みを感じて。

 もう一度、今度は声に出して小さく悲鳴を上げてしまった。

 変態チックな自分を殴りつけたくなった。

 でも、仕方ないよね?

 片手で支えるには、しっかりと背中に担がなきゃいけないわけで。

 彼女は女性な訳で。

 結果は、わかるよね。

 まあ、そういうわけで。

 いろいろと、嬉恥ずかしい、というよりも神経がすりへって大変です。

 規則的な吐息がすぐ近くから聞こえてきた。

 ひぃぃ。

 ただ、息をしているだけなのに。

 なんでこんなに、意識してしまうのか。

 というか、これは。

 二度寝しちゃったのかな。

 「んー、あー。ちゃんと、私達生き残れましたね」

 と、思った瞬間に、声をかけられた。

 すぐに答えようとして、今はまずいと一度言葉を飲み込んで。

 「おかげさまで」

 もう一度吐き出した言葉は、やっぱりまだ裏返っていた。

 「いえいえ。ところで、もう降ろしてもらっても平気ですよ。よく寝ましたから」

 立ち止まって。

 このまま乗ってていいよ、なんて強がりはしない。

 そろそろ、体力的に限界だったし。

 彼女のやわらかい暖かさが、名残惜しくないと言えばうそになるけど。

 でも、まあ。

 恥ずかしいからそんなことも言わずに。

 しゃがんで、彼女を背中から降ろす。

 彼女はしっかりと地面に足をつけ。

 背中を思い切り伸ばした。

 「ん~~~、はぁー」

 こうやって気持ち良さそうな彼女を見ていると、平和だな、と束の間に感じてしまって、まだ現実感の無い自分に笑ってしまう。

 あんなことがあったのに、だ。

 なんてボケた頭をしているのだろうか、僕は。

 ふと、心臓の辺りを手で押さえて。

 見た。

 なんだか少し、気持ちが悪い。

 コレのせいで、狂ってしまったオオカミをおもいだす。

 気高く、賢く。

 ただ森で平穏に暮らしていただけの、はずだったオオカミさんの一族。

 それなのに。

 ―――こんなにも殺したいと思うなんて。

 そう、言っていた。

 あれが、コレの効力なのだろう。

 彼女から受けた呪いなのだろう。

 だから、気持ちが悪い。

 必要のない、戦いだったはず。

 それなのに。

 巻き込んだ。

 これ以外に本当に方法は、なかったのだろうか。

 今になって、思う。

 「どうしました?」

 「いや、なんでもないですよ」

 ふと降ってきた声に、ごまかすように笑って顔を上げる。

 彼女に相談すれば、もっと巧く事が運べたのではないだろうか。

 そう、ちらりと頭を過って。

 意味がないと振り払う。

 それでも、じわりとした気持ち悪さはぬぐえなかった。

 「そうですか」

 そこには、先ほどまでとは一転して真剣なまなざしで彼女が立っていた。

 気付かれたわけではないだろう。

 ただ、オオカミさんとの一件で、彼女もまた僕の事を少し知ってしまった。

 彼女もまた、巻き込んでしまった。

 ずしり、と後ろめたさがふってくる。

 「聞きたい事が、山ほどあります」

 言わなきゃいけないことが、山ほどある。

 けれど。

 言いたくない事も、山ほどある。

 これ以上巻き込むわけには、いかないのではないか?

 そう思った、瞬間だった。

 「覚悟してくださいね」

 ぎくり、として。

 彼女をみると彼女はやんわりと、笑った。

 その瞳は強く光って見えて。

 ああ、と思う。

 「全部、言わなきゃいけない、のかな?」

 「当然です」

 隠し通すのは、多分無理だ。

 そう、思う。

 それに。

 もう、隠すつもりは無くなっていた。

 だって、ほら。

 男は女に敵う訳無いし。

 男が女に隠し事が出来るわけ無いし。

 本気で来られたら、何をしても無駄なんだ。

 死ぬつもりも、ないし、ね。

 「それじゃあ、歩きながらでいいかな。ゆっくりはしていられないから」

 心を決めて。

 道をまた、歩き始めた。

 「ええ、それでも構いません」

 それに隣り合って、彼女はついてくる。

 いや。

 二人で、道なりに歩く。

 街はまだ、少し先。

 道の先はまだ、地平線しか見えはしない。

 あと、何時間かかるだろうか。

 「時間はたっぷりとありそうですね。ゆっくりと聞かせてもらいますよ」

 「あんまりゆっくりとは、していられなさそうだけどね」

 何せ、この身は餌で。

 お腹をすかせた獣たちが、今も僕を目指しているのだから。

 鳥が鳴き、抜けた森がざわめいた。

 気温が下がり、太陽は地平線の向こう側へと沈み始めて。

 世界に夜の帷が、落ちようとしていた。

 

 SIDE OUT

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ