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29:揺れない心

安定しません。

短いです。

迷走中。

 SIDE IN~気分爽快霧島椎名~


 厭らしく笑っているオオカミを前にしても心は微かにしか揺れなかった。

 反比例するように周りの木々がざわついて、その音に紛れて子オオカミ達がポジションを取り始めた。

 時間はない。

 けれど。

 それでも私には足るだけあった。

 心は静かに。

 魔法を描き出す。

 今までよりも、ずっと巧く。

 綺麗に。

 早く。

 自然と紡ぎだして、準備を続々と終えていく。

 水が流れるように、体から、溢れた。

 「ほう、隙あらばとおもうたが、なかなかどうして」

 「良かった」

 思わず声に出した。

 「なに?」

 私の言葉に怪訝な顔をしたのを確認して、可笑しくなった。

 「今ここに居られる事が、です」

 「・・・・・」

 「そうですね。貴方にはわからないでしょうね。まだ何も知っていない私がこんなことがいうのが、不審じゃないはずがない」

 怪訝な顔はすぐに真剣なものへと変わって、何かを言おうとして、止めた。

 「でも、もう充分なんです。詳しい話はいりません。いろいろ疑問もありますが、それも後回しです。今はただ」

 一拍置いて、一つ一つ言葉を選んでいく。

 高ぶっているときこそ冷静にならなきゃいけないから。

 「彼を独りで危ない目にあわせなかったことを、良しとします」

 ぐちぐち悩んでいた事が、馬鹿らしく思えた。

 彼だけが出来る時間を得る方法を、私だけが考え、それを実行してもらおう、なんて考え自体がまず馬鹿だった。

 それは、真っ先に彼がやりそうなことで。

 そんなことにもに気が付かなかった自分をけなして。

 だけど、結果的に無自覚にでも独りにしなかった自分を褒めてあげよう。

 「幸樹様!」

 「はぃ!」

 私の後ろにいるだろう彼を呼び。

 彼は唐突に振られたことで、声を裏返らせて応えた。

 「あとでゆっくりとお話をしましょう。ですが、その前に。すみませんでした」

 「え?」

 「私は貴方という人となりを思い違いをしておりました。そのことをあやまりたくて」

 「いや、なんのことだか」

 「その事も後でお話しましょう。ただ今謝っておきたかっただけなのです」

 「ふふっ、余裕だな。お前達はもう後のことを考えているのか?」

 意識を前に戻す。

 紳士的なオオカミは、私達を待っている間に暇を持て余していたようで。

 少しだけ退屈そうに見えた。

 だから、だろうか。

 そんな退屈な質問をしてきたのは。

 「ええ、先を見据えなければ、今どのように動かなければならないのかがわからないでしょう?」

 ですが、答えて差し上げましょう。

 こちらとしても。

 魔物と話をする機会

 「たしかに、だが、無い先を見てもしかたあるまいよ」

 「貴方こそ、ありもしない先を見て、呼び水を追いかけていらっしゃるのでは?」

 「どちらが夢まぼろしか」

 「それほど長い戦いにはなりはしないでしょう。所詮はただの魔法士ですので」

 「それとただのオオカミでしかない私か」

 「その通りです」

 「フフ、フフフ、面白いぞ、人間風情が!」

 「貴女はいささか口がすぎますよ、獣如きが」

 アァァォオオオオオオオオォォォォン!

 背中をひとなで、悪寒が走る。

 恐れることなんてない。

 怖がることなんてない。

 だけど。

 この恐怖は、ぬぐえない。

 でも、それでも私は。

 余力を残しておく事は考えずに、この後倒れてしまうだろうと分かりながら。

 自分の全てを、魔法へと注ぎ込んでいく。

 「僕にできることはある?」

 「ええ、もちろん」

 振り向かず、微笑む。

 貴方にしかできない事がある。

 それは。

 「後の事は頼みます」

 倒れた私の、介抱です。

 

 SIDE OUT

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