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4:語らい

 SIDE IN~歩き疲れた維新幸樹~


 「こちらに2部屋。少し離れた場所にもう4部屋ご用意させていただきました。何しろ本来ご用意していた部屋は1部屋のみで、急遽用意したのですが4部屋は場所的にも離れてしまいました。申し訳ありません」

 「仕方ないよね。じゃあ、誰がここにする?」

 小山田さんが振り返って、ちょっとした相談タイムが始まった。

 皆我関せず、というか考えていなかったようで、誰でもいい、という感じだった。

 いい機会なので、ちょっと考えていたことを話す。

 「霧島さん。二人部屋とかはないの?」

 「二人部屋ですか?二人以上の部屋は、あいにく三部屋別々の場所にしかありません。一応この部屋は広く出来ていますので、二人部屋に改装するぐらいできますが、少しばかりお時間を頂かないと。明日の昼間を利用すれば可能ですが、今すぐというのは無理です。それから、4部屋のほうは、御一人で過ごすには広く出来ているのですが、二人でとなると、少しばかり心もとなくなってしまいます」

 「大人数の部屋でもいいのだけれど」

 「申し訳ありません。これ以上の大部屋は使用人の部屋か、既に他のお客様が使用中でございまして、ご用意できませんでした大々的にお披露目したわけではないのですが、人の口に戸は立てられません。どこかから漏れ出した噂を頼りに、隣国のお客様が勇者様目当てに来訪していらっしゃって、あまりお部屋を用意できなかったのです」

 申し訳ありません、と丁寧に謝られると、なんだか悪い気がしてきた。

 軽い気持ちで提案しただけだったので、ここまで必死になられると逆にちょっとあれだった。

 「別に一人部屋でいいんじゃないか?」

 みかねたのか、平蔵さんが言う。

 実際、そうなのだけれど。

 「ここは僕たちの世界じゃない。何があるかわからないでしょう?御城の警備とかが悪いってわけじゃないんだけど、心配しすぎるってことはないんじゃないかな」

 そうできない訳も、ある。

 「私は大人数に賛成だけれど、今日は仕方ないよ。急だったんだもの」

 そこでおずおずと霧島さんが一歩前にでる。

 提案があるようだ。

 「なんとか一部屋だけなら今日中にも改装できるかもしれません。お時間をいただけるのなら」

 「まだ少し話もしてみたいし、とりあえず隣の部屋で雑談でもしてるよ。お願いしていいかな?」

 「かしこまりました」

 皆は口出しはしない。

 大したこだわりはないみたいだ。

 何か僕一人やっきになっているこの感じ・・・まあ、実際そうなのだけれど。

 では、ごゆるりと、と霧島さんは僕たちと別れた。


 僕たちは提案通りに隣の一室でくつろぐ。

 部屋は本当に広い、家族用マンションの一室くらいありそうなほどだった。

 質素とはいえ、見栄えのする調度品はなかなか高そうだ。

 良い部屋なのだろう。

 小山田さんからちょっとした歓声があがって、皆思い思いの場所に居着く。

 元々、小さな御茶会でも開ける場所なのであろうこの部屋にはソファーやらテーブル、椅子といった家具も充実していて、座る場所には困らなかった。

 衣装部屋やバスルームなども付いている。

 僕ら6人丸ごと住んでも大丈夫なんじゃないか、これ。

 「で、異世界なわけだ」

 内装に気を取られていると、直が言った。

 ちょっとだけ、気落ちしているのか、声はカラ元気に聞こえた。

 まあ、当然といえば、当然か。

 「異世界なんだね」

 「異世界ですね」

 「異世界」

 「だな」

 皆もしみじみと、意味もなく言葉をつなげている。

 皆の表情は様々だった。

 何故か笑顔の小山田さん。

 溜息をついている平蔵さん。

 クールが抜けない冷泉さん。

 だる気が抜けない明人さん。

 なんだか、平凡っぽくてもキャラかぶらないメンツが召喚されたものだ。

 うち二名(僕含む)は巻き込まれただけなのだけれど。

 過半数は勇者として正規に呼ばれているのだから、驚きである。

 PT的にも安定している感じがするな。

 イメージとしては。

 剣士の直。

 拳士の小山田さん。

 僧侶の平蔵さん。

 魔法使いの冷泉さん。

 だがしかし、だ。

 忘れてはいけない。

 あの冷泉さんの剣捌きを。

 魔法剣士に格上げだ。

 となると僕達はどうなるかな。

 まあ、巻き込まれただけだからたとえる必要はないのだけれど。

 明人さんは情報屋っぽいよな。ライターだし。関係ないけど。

 僕はさしずめ、村人Aだよな。

 って、言わないといけない気がした。

 そんな悲観はしていないけれど、まともな職業ではないことだけは確かだ。

 何故ならちょっとひねくれた奴だから。

 流行なんか知らないぜ、が標語である。

 我が道まっしぐらだった。

 流行遅れまっしぐらだった。

 「・・・どうなってしまうのでしょうね」

 冷泉さんが、似合わないほど不安げに漏らす。

 唐突に、場の空気が重くなった気がした。

 天使が通ったばかりだから、その降下速度は崖から飛び降りた猫さながら。

 なんで猫かって、そりゃ思いつきさ。

 あいつらなら、崖から飛び降りたぐらい平気そうじゃないか。

 「どうするか、だよ」

 シリアスな展開に内心ドキドキしながら、ぽつりと応えのつもりでつぶやいた。

 「僕は死ぬ気もなければ流されるつもりもないよ。こちらであろうと、何処でだろうと、自分で考えて、自分の思う通りに生きるつもりしかないから」

 「私も、帰りたい。毎日が大変で、嫌になることも多かったけど、悪くなかったもの。そのためなら、魔王でもなんでも倒してやるわ。それが出来る力があるみたいだからね」

 賛同するように力強く、それは誰にでもない言葉だった。

 座っている椅子を、軽く握っていたのは僕の場所からは見えていた。

 「私には、自信がありません。30数年です。平凡すぎるほど平凡な人生でした。落ちぶれることも、誰かを蹴落とすこともありませんでした。そんな私に何ができるのか」

 眼鏡をとって、眉間の皺をほぐしている。

 だれも責めることのできないことが、それは普通だという証拠。

 そこで、窓際に立っていた明人さんがおもむろに窓を開け放つ。

 皆の視線を独占して、煙草に火をつける。

 絵になる人だと思った。

 「この状況下なら、特別じゃない俺と坊主よりかは、役に立つんじゃないか?」

 自嘲するように、本気で笑っている明人さんが、ちょっとだけ煙草の煙でむせる。

 たしかに、と自然と頬はほころんでいた。

 皮切りをしたのは僕だけど、勇者ではないんだった。

 「弱気でいられるかっての」

 ちょっとすねるように、僕と明人さんを見ながら直は言う。

 ばつの悪そうにしているのをみて、なんとなくだけれど、食事の時が思いだされた。

 ちょっとは気にしているのだろうか。

 「・・・・・」

 ここで、ようやく、である。

 果たして、僕が皮切りをした原因が解消された。

 そこには、幼い笑顔で笑っている冷泉さんがいた。

 とはいっても、こころなしか、笑っているように見えるだけである。

 少しでも解消できたのなら、よかった。

 「皆さま、お部屋の準備が整いました」

 機を見ていたかのように、ノックが響き、続いて霧島さんの声が聞こえてきた。

 「はいはーい」

 あ、そういえば。

 小山田さんが応対して、ようやく部屋決めをしていないことに思い至る。

 僕の中では決まっているのだけれど。

 皆のあの様子では、文句が出るとは考えにくいけれど、それでも確定させていなかったことを失念していた。

 必ず決めようって部屋の前では思ってたのに。

 なんたることか。

 小山田さんに続くように、僕たちは部屋の入り口まで集まった。

 第二次相談タイムである。

 たっぷり時間はあったのだが。

 その談義の結果は、やはり当然として、僕の案がすんなりと受け入れられた。

 出来た二人部屋には小山田さんと冷泉さんが住むことに決まった。

 明日改装される部屋には暫定的に、二人に何かあったときに対処できそうな平蔵さんが今日は泊まり、明日からは直が共にすることになった。直は今日のところは僕らと同じ離れた場所で寝る。

 僕と明人さんは少し離れた部屋で暮らすことにした。

 これで、ひとまず。

 僕達の偶然と奇跡にまみれた、一日が終わったのだった。


 SIDE OUT

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