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28:推測

 SIDE IN~道化になりきれなかった新沼明人~


 空気が固定化される。

 考えている事をあらかた言って、話は次の段階へと進む前で空気ごと止まった。

 誰も何も言葉にしない。

 直、平蔵、小山田は一様に伏し目がちに、何かを考えている風体だが、おおかた俺の言った事の真偽でも結論づけているのだろう。

 冷泉は、落ち着きを完全に取り戻して、ただただ話が終わった今も俺を見続けている。

 藍は静かに目を閉じて壁に背を預けている。

 俺達の問題だ、と静観を続けるようだ。

 卓に座り、様子を眺めていると、ふと手に持つ煙草の灰が、床へと落ちた。

 そこでようやく。

 いつのまにか、煙草の殆どが灰になっていたことに気が付く。

 あー、もったいねぇな。

 最後の一本だったんだがな。

 ぼやいても仕方がないか、と潔く短くなってほとんどフィルターしか残っていない煙草を捻り潰して、ケースに入れる。

 「あいつが逃げ出したのは、俺達のためだっていうのは、信じてもいいのか?」

 そこでようやく、空気は進みだす。

 直が、進めた。

 「そういうことなんじゃないかと、俺は思っている」

 「自信たっぷりに曖昧なんだな」

 「辻褄合した推測だからな。自信はあるが、確信ではないということだ」

 「ここにきて、そんな言い方はやめてくれよな」

 「嘘を言った手前、確信的な物言いよりかはずっと良いだろう?」

 「ったく」

 そこでようやく、直は笑った。

 「でもさ、よくわからないわ。なんでそんな考えになるの?」

 軽くなった空気に、質問が湧いてきた。

 小山田が、話に加わってくる。

 良い調子だ、とほくそえむ。

 「確かに。今ここにある事実はあいつが居ない事だけだからな」

 「それに、彼が何度も死にかけているってことも、新沼さんとの会話のこともあるんじゃない?」

 「どちらも事実だが、それは考慮するに値しないな」

 「どうして?」

 「前半は怪我の理由から。後半は俺の嘘が混じっているからだ」

 「嘘だったのかよ!」

 楽しくて口元が自然とつりあがってしまった。

 それに気が付いたのは、彼らの顔が半ばあきれてしまっていたから。

 「それっぽい話はしたがな」

 「はぁ、貴方は胡散臭いですね」

 ようやく、眼鏡を触りながら平蔵も参加して。

 役者はそろったと言ってもいい。

 「あれも違う。これも違う。俺達の参考にしたことは全て嘘のようなもの。なら、何をもとに考えたら良い?」

 「お前達には少し難しいかもしれないがな、これは冷泉と俺ぐらいにしかできないとおもうが」

 ちらりと彼女を見ると、少しだけ表情が動いた気がした。

 急に指名されて驚いたか?

 「今までのあいつを、事実に付け足せばいい」

 「今までの幸樹を?」

 「そうだ。まあ、冷泉の場合はそこから来る信頼だけを頼りに否定していたみたいだがな」

 「・・・・・」

 「逃げた、という前提すらなくなっているから俺には騙しきれなかったわけだ」

 睨みあうような形になって。

 それがおかしくて笑ってしまう。

 「そもそも、何故騙そうとしたの?」

 「必要だと思った。中途半端なままにしておくよりも、どちらかに傾かせた方が余程良い。そして、天秤は悪い方が傾きやすい。それだけだ」

 「悪い方に傾かせても、良い事にはならないんじゃないの?」

 「いや、今回は感情の対象が一人だったからな。悪い方でもいいと考えた。共通の嫌な奴が居る二人は仲良くなれる、っていう話がある。嫌いな奴談議は面白いからな。自然と相手に好印象を抱くんだろう。それを応用しようと思ったんだがな」

 「幸樹に怨まれてもしらないぞ」

 「その前に冷泉が我慢の限界に達しそうだがな」

 だんだんと。

 不機嫌になっていく冷泉がおかしくて。

 少し大人げなかったと反省した。

 「さて、話を戻すか。まぁ、たかだか一か月程度だが、それだけであいつに関しては充分だろう。お前らにも分かる例でいくと、約一ヶ月前の大きな戦いだな」

 「あれか・・・」

 「冷泉が死ぬのを見ているのが嫌で、誰かに頼るでもなく、怪我を抱えたまま敵の大将に突っ込んでいくようなやつだ。今更逃げ出したりはしないと、考えても不思議ではないだろう?」

 「たしかに、そうね」

 「なら、死ぬのを恐れたという理由が無くなった。そこで、新しい理由が必要になってくる。それにあたっての心当たりもある」

 「それは?」

 「一つ。これはつい最近の出来事だ。城を徘徊する魔物達。これは明らかに偵察だ。それじゃあ、何を偵察に来ているのか」

 「私達じゃないの?」

 「勇者の探索、ということはあっている。じゃあここで質問だが、お前らの中で魔物と遭遇してない奴はいるか?」

 誰も手を上げないのを確認して、にやり、と心の中だけで笑う。

 冷泉は会っていないと思っていたが、これなら、余程やりやすいな。

 「全員遭遇している。それでも、偵察は終わらなかった」

 「まさか、幸樹か?」

 「たぶん、それだ。これもあの戦いに基因することだが、一番目立ったのは誰だ?一番勇者らしかったのは?全部、あいつじゃないか?勇者だと魔物に認識されてしまっていても、おかしくはないことだ」

 誰も何も答えないが、話は止めない。

 次だ、と一息入れて、続けていく。

 「二つ。これは本来良い事だった。お前ら4人のことだ。俺から見ても、お前らは勇者たる雰囲気がでてきているといってもいい」

 「そうですね。私から見ても、特別を感じました」

 静観していただけだった藍が輪の外から付け足した。

 分かって、やっているのだろうか。

 怪訝に思いながら。

 とにかく、これで俺の言の信憑性が増した。

 「それがどうして原因になるの?まさか、嫉妬心とか?」

 「馬鹿」

 思わず、暴言が口をついてしまった。

 それほどまでに、予想外な、阿呆な回答。

 「まあいい、続けるぞ。その答えは三つめで分かる。お前達は前の偵察を覚えているか?」

 「前の偵察?」

 「最初は幸樹が、次は俺が怪我をした、初日と二日目の事だ」

 「覚えているわ」

 「さて、ここで問題だ」

 一拍だけ、わざと間を置いて。

 「俺達が見つかった後、どうなった?」

 「・・・本格的な襲撃を受けた」

 「それが答えだ」

 「だから、俺達の為なのか」

 「そうだ。あいつが捜され続けて、いつか見つかったとしても、お前らが勇者だと確信されても、最悪の事態が起こるだろうな」

 「でもまって、でも、幸樹君が居なくなったとしても、偵察がなくならなかったなら、意味がないんじゃないの?」

 「当然の疑問だ」

 「まさか」

 会話の合間をぬって、藍が言葉を発して、俺達の会話も途切れた。

 皆の視線を身に受けた藍が、口に手を当てて、深刻そうにこちらをみている。

 「さっきの街の襲撃はそういうことなのですか?」

 「だろうな」

 「じゃあ、椎名様を探しても無駄だと言うのは」

 「目を離すな、と助言してやった」

 そこでようやく、全てが分かったのか、彼女は何かを諦めたかのように溜息をついた。

 分かっているのかいないのか、他のやつらは黙ったままだ。

 「何故、私ではなくて椎名様を?」

 「都合の問題があってな。俺にも、あいつにも」

 「それでも、事前に言っていただきたかったですね」

 「悪いな」

 「貴方は本当に、まったく」

 自分から言う前にばれてしまって、少し予定がくるってしまったが。

 彼女は怒っていない。

 呆れてもいない。

 ただ、ただ。

 笑った。

 「何なんだ?」

 事情の分かっていない直が、皆を代表して。

 まだ説明は終わっていないな、と口が寂しくなって、煙草のカラ箱を見て。

 溜息を、一つ。


 SIDE END

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