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27:問いかけ

 SIDE IN~怒髪天の霧島椎名~


 遠目に赤い魔物が彼に飛びかかったところを、捉えて爆発を巻き起こした。

 戦闘の停止、あわよくば、戦闘の勝利を狙った。

 手ごたえは、あったようにおもう。

 だけど、そんな希望的観測だけで動くわけにはいかない。

 今は、そんなことよりも。

 戦場に、急ぎ乱入する。

 陽が傾き始めた森の中の視界は悪い。

 それを、さらに爆煙が悪化させて。

 まるで、雨雲の中にいるようだった。

 記憶だけをたよりに、彼のもとへと急ぎ。

 「え?あれ?」

 間抜け面が見えて。

 ふつふつと湧き上がる怒りを、思い切りぶつけた。

 ここまで追ってくるとは考えていなかったのか、唖然として。

 ぽかん、と口をあけっぱなしになって呆けている所に。

 渾身の右ストレートを、打つべし!

 うん、爽快。

 ここ最近で、一番の右ストレートが決まった。

 彼はまるでサンドバッグのようにそれを受けて。

 ぐったりと、倒れた。

 「貴方は、何を考えているんですか、本当に!」

 ぐったりと倒れた彼の胸倉をつかんで、ゆする。

 それはもう、ぐわんぐわんと、ゆする。

 「ちょ、苦しい。酔う。やめてっ!」

 もちろん、わかっていてやっている。

 刑罰執行状態だ。

 ああ、楽しい。

 「こんなところで、また死にそうになって!心臓が止まるかと思ったわ!」

 「ごめんなさい!それは謝るから、っていうか、今それどころじゃないから!」

 そんなことも、わかっていて。

 頭をぶつけるだろうとおもって、急に手を放して、立ち上がる。

 まあ、案の定。

 土が軟らかかったのが、残念だけれど。

 くるりと振り返って、睨みつける。

 「邪魔をするのか、たかが人間如きが」

 雨雲が晴れていき。

 それは姿を見せた。

 子たちをひきつれながら、悠然と。

 私の魔法を受けたにもかかわらずに、平然と。

 真っ赤な、私の一回りもふたまわりも大きな、魔物が睨み返してくる。

 だから、なんだというんだ。

 「ええ、邪魔をします。貴方こそ、そのたかが人間如きに、何を必死になっていらっしゃるのか」

 「そいつはもう、ただの人間じゃない。私達の獲物と成った者だ」

 「それは先ほどまでの話。私と対峙してなお、彼を獲物とするほど貴方は愚かではないでしょう?」

 「自信家なことだ。だが、先の魔力。なるほど、言い分もわからないでもないな」

 「なら、引きなさい」

 「だが、引けぬ。例え、相討ちになろうとも、な」

 「今は獲物でも、たかが人間だという前提は変わらないのに。本当に、変なプライドをお持ちなのですね」

 「ふふっ、違うさ。もはやそんな問題ではない。すでにプライドがどうという話ではない」

 銀色の瞳が、楽しげに細まった。

 自然、疑問が沸き起こる。

 彼は一体、何をしたのだろうか。

 ちらりと後ろを見ると、左頬をなでながら、困ったように笑っている彼が居て。

 もう一発殴りたくなった。

 「むしろ、引いたほうがいいのは、お前の方だ、人間」

 「私は彼を守る義務のがあるのです」

 「全てを賭けてまで、か?」

 「貴方達に負ける気はありません」

 「ふん、何かお前は勘違いをしているな」

 「いいえ、勘違いなどではありません。たとえ貴方がいようとも、私は倒しつくしてみせます」

 「だから、勘違いだというのだ。お前は私の一族の事しか考えていない」

 「それで充分でしょう?」

 「それを守りたいと言うのなら、それだけでは足りないな。それはすでに、そんなことでは守れない。この世界にいる全ての魔物から、命を常に狙われているのだから」

 「言っておきますが、彼は勇者ではないのですよ?」

 「ふふっ、そんなことは既に私達は知っているよ。そうではないんだよ」

 「要領を得ませんね」

 「鬼ごっこだと思えばいい。これは遊びだ。鬼は私達魔物。獲物はソレだ」

 そこで、ようやく。

 意味が理解出来た。

 「それに何の意味が・・・?」

 それでも、わからない。

 「私達にもわからんよ。アレのやることは。ただ、そういうルールがこの世界の魔物には既に出来あがってしまっているというだけの話だ」

 そんな、理不尽な事が、あるのだろうか。

 「理不尽だと思うか?」

 反射的に顔を手で覆って。

 魔物がそれに反応して笑う。

 「だが、その理不尽はソレも望んだ事だと聞いているぞ?」

 いやらしく、哂う。


 SIDE OUT

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