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23:逃亡する者

 SIDE IN~逃亡する者維新幸樹~


 門の近くで、息をひそめる。

 曲がってから人が散り散りになり。

 あたりはもう、ほとんど誰も居ない。

 建物の中まで魔物が侵入してこないことに気がついた住民は避難していて、残っているのは荷馬車を引いた商人達だけだ。

 その商人達もすぐに街から出ていこうと、目的の門へと詰め寄っている。

 彼らの様子を、散り散りになっていった人にまぎれて隠れた路地から視る。

 商人たちを事情の分かっていない門番が引き止めていて、彼らは口論となっていた。

 おそらく、この調子なら彼らもすぐに脱出できるだろう。

 門番達があわただしくなり始めた。

 そう判断するや否や、気付かれないように、そっと最後尾についている荷馬車の中に身を潜める。

 積まれている商品の間で、どこからも死角になるように気をつけて隠れる。

 そこで息を殺し、じっと祈るように待った。

 気が付かれないように。

 馬車はすぐに動き出す。

 これじゃあまるで、海外逃亡する犯罪者みたいだなぁ、なんて。

 することが祈る事しかなくなったから、いろいろな事が頭を過る。

 今頃皆は何をしているかな。

 やっぱり街に行った皆は巻き込まれているかな。

 なんだかんだいって、彼らもトラブルメイカーだし。

 怪我しなきゃいいけど。

 陽菜ちゃんもいるから大丈夫かな。

 この間は凄くて、本当に笑っちゃったな。

 もう僕じゃヒーローになってあげられないかも。

 そのてん、直なら彼女に追いつけそうだ。

 小山田さんだって、本当に強くなってた。

 唯一、平蔵さんだけ、見てこれなかったけど、きっと上手くやっているだろう。

 なんだかんだで、順応性が高い人だったし。

 藍さん、だったか。

 護衛に彼女もついているから、皆平気だよね。

 少しだけ、心配だ。

 そうそう、藍さんといえば、明人さんはまた資料室に籠っているのかな。

 何かを熱心に調べているみたいだけど、結局答えはわからないままだったな。

 そして、最後に。

 ついさっきまで一緒に居た彼女の事を思い浮かべる。

 もう慌ただしい音は止み、急ぎ馬が走る音しか、聞こえてこない。

 もう少しだけ、ここにいて、それから出ていこう。

 過ぎ去った喧騒を思う。

 彼女は、僕を探しているだろうか。

 心配してもらって。

 怒ってもらって。

 説教すらしてもらったのに。

 こんなことをした僕を、彼女はどう思うだろうか。

 ひょっとしたら、呆れちゃうかな。

 そんで、僕の事なんか居なかった事にしてくれれば。

 それが一番いいのかもしれない。

 皆も、きっと逃げてきた僕を怒るだろう。

 でも。

 これしか、なかったから。

 ふと、馬の足音が変わった。

 渇いた土を踏む音から、少しだけ沈んだ音に変わる。

 荷から外をのぞくと、木々が空を阻んでいる道を走っている事がわかった。

 すぐに馬車を降りる準備をする。

 ここは地図で見た、森の外れだ。

 身を隠すだけなら、なんとかなるかもしれない。

 荷台の後ろへと行き、様子を見る。

 荷を引いているからから、飛び降りられない速度ではない、と思う。

 少しだけ無理をすればだけれど。

 やったことがないのに簡単そうに見えるってことは、きっと難しいってことだから。

 あんまり自信はないけど、このままじゃ巻き込んでしまう。

 はぁ、と溜息一つ。

 意を決して馬車を、飛び出した。

 着地するときに踏ん張りは効かせずに、左腕を下にして回転する。

 体を孤にして、上手く回転から立ちあがる。

 地面が湿ってやわらかかったこともあり、どこも打ちつけずにボールのように転がる事が出来た。

 しかし、勢い余ってもう一度前によろめいて、膝をつく。

 手に着いた土の感触が、ひんやりとしていて。

 森の匂いを、あらためて感じた。

 気持ちいいな。

 思わず苦く笑う。

 今はそれどころじゃないのに。

 まったく。

 何をしているんだ、僕は。

 立ちあがって、手と服に着いた土を払って、森の入口まで戻った。

 遠目に、街を見る。

 空には結構な数の魔物が飛んでいて。

 何匹かは既に街を離れ始めていた。

 その時。

 ガァァァァァァァァァァァァ、と。

 遠吠えが聞こえてきた。

 うわ、聞き覚えがあるなぁ。

 彼も来ていたのかと、力なく笑って。

 服の中に確保しておいた物を取り出した。

 先ほどの隠れるときに荷馬車の中で見つけたリーシュだ。

 少しだけ傷がついてしまっていた。

 それに心の中で謝罪しながら、かぶりつく。

 思わず、顔をしかめた。

 「すっぱいなぁ」

 幸先はいいのかもしれない。

 でも、明人さんはいっつも当ってたなぁ。

 あんまり出過ぎて当りって感じがしないけど。

 なんて、笑いながら。

 踵を返し、道を歩き始める。

 行くあてはない。

 ただただ、逃げるだけの。

 曖昧な目的だけの旅だ。

 さぁ、これからどうしようか。

 どうすれば、逃げ切れるのか。

 ―――なんとかしてやるよ。

 悪魔のささやきを思い出して、笑う。

 そういって、彼女は状況だけを用意して。

 あとは僕次第だった。

 君も、僕を追いかけてくるのかな?

 そう心の中で問いかける。

 

 SIDE OUT

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