22:奇妙な襲撃
SIDE IN~独りぼっちじゃなくなった冷泉陽菜~
時間をかけるつもりはない。
もう様子を見る必要もなければ、相手を待つ必要もない。
完全に地面に魔物が着くのを待って、駆け寄る。
地面すれすれで剣を滑空させて、走り寄り。
目前で急停止。
反動を利用して。
剣を切り上げた。
見た目よりも、軽い手ごたえだったように思う。
一気に上まで持ち上げて、肩に担いで次へと走り出す。
ただ、一番近い魔物へ。
肩を支点に、思い切り振りおろせるように、力を溜める。
接近したら、一息に顔面を断ちきって。
また、次へ。
アガアァァァァ!
走り出した瞬間に、近くに居るトカゲも、まだ空を飛んでいるトカゲも鳴いた。
うるさい。
なんだろうと、知った事じゃない。
飛びかかってくるなら、そうすればいい。
私はただ、斬るだけ。
そして、これで。
三匹目。
そこで、一瞬だけ足を止めて。
楽しくなって笑ってしまった。
「陽菜!」
後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえてきて、近くなったらまた駆ける。
すぐに、灰田が横に並んで。
息を合わせて、これで5匹。
切った刃を返し、飛んでくる一匹を迎え撃とうとしたが、それは必要が無くなった。
「はぁぁぁあぁ!」
凄い。
息を呑む。
なんていうか。
様になっていて。
綺麗。
無駄のない動きで、小山田が魔物に近寄り。
右拳を叩きこんで、吹き飛ばす。
瞬間。
空に閃光が奔り、轟音が響く。
後ろをちらりとみると、平野が笑って、空を見上げていた。
「まったく。二人とも、私を置いてかないでよ」
隣に彼女が並んで。
「これで、全員だ」
灰田が、私を見た。
なるほど。
貴方は――――――。
「もう独りになんて、させやしない」
口元が、緩んでしまう。
「行くぜ!」
自然、彼に皆がついていく。
動きの幅が、断然違う。
何の不安も、心配もなく。
何匹相手でも、負ける気がしなかった。
それに。
体が・・・軽い!
剣はより力強く。
足はより速く。
脳はより回転し。
感覚はより敏感になり。
自然と、動ける。
視界が広く、どこにいたって分かる。
楽しくなってしまうほどに。
加速していく。
SIDE CHANGE~違和感がぬぐえない佐藤藍~
目の前で繰り広げられる混戦に、感嘆した。
悪くない。
冷泉様が切りこみ。
灰田様が指揮をとり。
小山田様がペースを作り。
平野様がサポートする。
良いバランスだ。
たとえ、私が相手をするとしても手こずってしまいそうな強さ。
その中でも、際立って才能を発揮しているようにみえる。
彼は。
嵐の中心で、的確に指揮をとり、戦況を操っている。
流石は、勇者というべきか。
これがこの間まで剣を握ったこともない人間だとは、おもえない。
ほとんど初陣だなんて、ついつい忘れていた。
剣の柄を握って、嵐の中へと歩いていく。
彼らだけに任せるつもりだったけれど、どうも様子がおかしい。
集団で街を襲う事は、多くはないがある事だ。
けれど。
その場合、こいつらがこんな風に街の空を巡回するように飛んでいる事はない。
手当たり次第に得物を見つけては、降下していくはずなのに。
ここ以外では、被害という被害もでていないように思える。
何かが、違う。
剣を抜き、すぐに戦いを終わらせて、他の場所の状況も確認しなければいけない。
そう思った、刹那。
目の端に、影が映り。
「ガァァァァァァァァァァァァ!」
嵐が、静まった。
空で何かが吠え。
戦場に大きな剣が、突き刺さる。
それに対して、彼らは困惑して動きを止め。
魔物達は怯えるように、空を仰いだ。
終わってしまった戦場かのように、静けさが辺りを埋め尽くし。
それは遠くからの魔物の遠吠えと同時に、終わりを告げた。
戦場に居た魔物達が、一斉に遠吠えのあったほうへと、飛び立ち始めたからだ。
空を見上げると、巡回していた魔物も同じ方向へと流れていた。
何だ?
私は、その流れる方向へと目を向ける。
今回の襲撃は、やはり何かが違う。
私の中の違和感が、大きくなる。
「追うべきか?」
気を取られている間に、私の周りには彼らがいて。
私は少しだけ悩んだ末に、危険だと判断した。
「いえ、一度城に戻って報告しましょう。それから、調査隊を編成します」
首を横に振って、そう伝え。
気持ちを引きずったまま、城へと歩き出す。
何かが起こっている。
そう、心の中は不安で一杯だった。
SIDE OUT