21:勇姿に奮う
SIDE IN~座りこんでしまいたい小山田梨奈~
直君の横で息を整えながら、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
本当は内心では酷く怯えていて。
手が小さく震えてしまう。
こんな調子では体が思い通りに動かせるとは到底思えなくて。
それでまた、自分で恐怖心を煽ってしまう。
マズい。
まだなもしていないのに。
動悸が激しくて苦しいし、舌の根が渇いて上手く息も出来ない。
落ち着かなければいけないのに、時間がない。
魔物が、地面に降り立った。
翼の生えた、ライオン程もある大きなトカゲだ。
四本の足でずっしりと、お腹を擦らせながら地面に降り立ち、一際大きく翼を広げてから背中にたたんだ。
チロチロと舌を出しながら、こちらを見る。
自然、どう対処すればいいのか考えて観察していたから、目があってしまった。
大きな爬虫類みたいな体に見合った鋭い眼光に、射抜かれてしまった。
視線が外せなくなる。
体が小さく震えて、一歩足を下げてしまいそうになった、その瞬間。
勢いよく、黒い影が魔物たちへと向かって飛び出した。
「陽菜!?」
大声で驚いたように直君が名前を呼ぼうが彼女は止まらない。
振り返らない。
躊躇わない。
トカゲは彼女に視線を移し、臨戦態勢をとった。
大きく翼を広げて、ずらりと並べた鋭い歯をむき出しにして威嚇する。
いけない!
そう叫ぼうとして、声が出なかった。
必要が、なかったから。
下段に剣を構えながら近づいたと思ったら、いつのまにか剣が肩に担がれていて。
その刹那でトカゲは何も出来ずに頭部を切り裂かれた。
目を疑った。
瞬きをしていないのに、見逃したのかと思った。
けれど、きっと違う。
それはあまりに速くて。
全ての軌跡を見せず。
点と点が繋がらず。
ただ結果だけを残した。
そして、呆けている間も彼女は止まらない。
肩に担いだ剣をそのままに、次の得物へと走り出す。
それに気がついた魔物達が、次々と彼女の元へと降下し始めるが、それを気にもとめない。
ただただ、彼女は狩る。
「ちっ、震えてらんねぇなぁ!」
「男ですからね、貴方も、私も!」
その様を見て、直君は叫びながら飛び出して、平蔵さんが呟き始める。
その勇士を見て、私は。
一つ、大きく息を吸って、上を向いて瞼を閉じた。
治まれ。治まれ。治まれ!
三度目呟き。
目を開け。
前を見据えて息を吐く。
体の震えはいつのまにか止まっていて。
心の中が滾って熱い。
大丈夫だ。
うん。
もう、大丈夫。
「行くよ」
小さく一度。
自分に声をかけ。
強く地面を、蹴った。
SIDE IN~また独りぼっちの維新幸樹~
「・・・ごめんなさい、霧島さん」
前を歩く彼女に、本当に申し訳なく思って謝った。
今までの事で、いろいろと心配させてしまった。
それから。
これからの事。
きっと、馬鹿な僕のせいで、今度こそ泣かせてしまうかもしれないな。
でも、もう賽を投げてしまったから。
前を歩く彼女に背を向けて、今とは反対向きに出来ている人の流れに乗った。
急ぎ足で、どんどんと前の人を追い抜かしていく。
ひらけた十字路で、遠くに街の外へと続く門が見える通りへと曲がった。
その時に、ちらりと来た方を見ると、空に黒い影が見えて。
甲高い悲鳴が聞こえてきた。
どきり、とした。
もしかして、と思う。
誰かが、もうあの黒い影に襲われたのではないか。
急いでいた足が、とまった。
悲鳴の方向へと、振り向いて足を向けようとして。
頭を振って考え直す。
悲鳴の辺りは、僕が向かっていた方向だ。
なら、きっと。
大丈夫。
それに、たとえ彼らが居なくても。
何が起きていても。
どんな惨状になっていたとしても。
僕が行けば、逆効果にしかならない。
だれも救えない。
誰も助からない。
なら。
頭の中で割り切って、僕はまっすぐに門を見た。
僕にできることは、急ぐことだけ。
僕はもう、この街に居てはいけないのだから。
自分に、そう言い聞かせて。
強く地面を、蹴った。
SIDE OUT