20:PTエンカウント
SIDE IN~もはや呆れている霧島椎名~
「本当に、維新様の場合は特に危ないのです」
「あはは、はい。そうですね」
案の定、というか。
門兵は彼を通してしまって。
すぐに見つけられたから良かったものの、頭にきてしまった。
危険意識がなさすぎます・・・!
「左腕が治ったとはいえ、満足に抵抗も出来ない状態で一人で出歩かれるのは危険すぎます!」
「はい」
彼を先導しながら、人の流れにのって街中を歩いていく。
お昼時の通りは、仕事休憩に食事処へと人が流れていくためか、人通りが多かった。
彼の外出の目的は、灰田様達との合流だった。
あまりに暇だったから、今からでも合流しようかと思って、というのは彼の言。
それを聞いた時は唖然としてしまいました。
けれど、今更戻るわけにもいかず、先導するに至った訳で。
藍なら何処へ行くか、という考えは、すぐに結論にいたる。
彼女がお勧めする場所など、私には分かっていた。
彼女が城下町を訪れる事はあまりない。
宿舎は城内にあるし、彼女は長期の遠征などが多く、めったに国内にすらいないことがある。
だから、なのか。
お気に入りにしている場所は、全て私が教えた場所だった。
まあ、私が中途半端な場所など教えるはずもなく。
彼女が気にいるのも当然と言えたのだけれど。
「それも、こんな危険な時に、のんきに出歩くなんて」
「反省してます」
思いついた言葉を並べたてていく。
少しばかり声が荒れてしまったのは仕方がない事でしょう。
「せめて一言声をおかけくだされば、これほど声を荒げることもないのです!」
「・・・ごめんなさい、霧島さん」
怒っていますよ、と無言で先に進んでいく。
彼も何も言わなくて。
少し言い過ぎたかもしれないと思った。
だんだん頭から血が下りてくる。
元をたどれば、きっと責任は私のところに来るのではないだろうか。
そう、対処できなかった私の落ち度のはずだ。
それを彼にぶつけてしまうのは、なんだか違う気がした。
けれど、彼の落ち度も確かで、謝る事はしないと決めた。
でも、怒るのもこれまでだろう。
丁度目の端で、行き付けの食事どころを見つければ、ガラス越しに中で食事をしている藍達を見つけた。
「本当に今後は気を付けてくださいね、維新様。勇者とか関係なく、もはや貴方も大切な方だと私は考えているのです。心配だったのですよ」
返事はなく。
やはり言い過ぎてしまったかな、という想いで振り向いた。
「え?」
目を疑った。
辺りを見渡すけれど、彼の姿を見つける事ができなくて。
見えたのは、どんどんとおしよせてくる、雑多に流れる人の群だけ。
私のすぐ近くを、馬車が一台通っていった。
カラカラカラカラカラ。
車輪が地面を踏んでいく。
それを危険だと、感じることもなく。
ただただ、状況を理解することができなかった。
SIDE CHANGE~まだお腹が空いている佐藤藍~
直前まで和気藹々と食事をしていた空気が一変する。
きゃぁぁぁぁぁーーーー!
店の外から、一際甲高い女性の悲鳴が聞こえて、咄嗟に席を立った。
けれど、今は護衛の最中だと、踏みとどまった瞬間。
すぐ隣から、灰田様と冷泉様が飛び出していった。
驚いて、私は残っていた小山田様と平野様をつれて、追いかけていく。
「下手に動きまわらずに、私の傍を離れないように」
流石にうろちょろとされてはかなわない。
店の外に出ると、人が城のほうへと流れていた。
何かから、逃げるかのように。
流れてくる方向を見た。
その空に。
鳥にしては大きな生き物が、飛んでいる。
魔物だ。
それも、複数。
今にも降り立とうとしているのか、ゆっくりと降下していた。
目線をおろすと、案の定、彼らは人の流れの外からその流れを登っていた。
「人の流れに気をつけて、ついてきてください」
置いていこうかと逡巡した後に、それよりも傍にいてくれたほうが安心できると、改める。
彼らの辿った道を、通っていく。
次第に人の流れが途切れていき、ついには誰もいなくなったスペースに出る。
その先で、剣を抜き、魔物を迎え撃とうとしている彼らの横に並んだ。
「せめて私を供にしてください。置いていかれては困ります」
「そんな余裕なかったろ?」
魔物が低級だから、こんな余裕があった。
これなら、彼らでも問題はないかもしれない。
一歩下がって、私は姿勢を解く。
「あれ?藍さん?」
「良い経験になるでしょう。それを奪ってしまうのはおしいと思いまして」
命の危険はないと判断した。
数は中々いるが、それも彼らなら大丈夫だろう。
もし、これで死ぬようなら、護衛する価値などはなく。
いい機会かもしれない。
「なるほどね~」
「いいでしょう」
私のすぐそばで待機していた彼女達は、ゆっくりと彼らの横へと歩いていく。
小山田様は歩きながら、ポケットに手を入れる。
そこから保護手袋を取り出して、はめた。
平野様は特に何をするでもなく。
彼らの、一歩後ろで待機した。
タイミング良く、魔物たちは地面に降り立った。
その刹那。
小さな黒い影が。
先陣をきった。
SIDE OUT