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3:食事

 SIDE IN~出迎えの女性~


 私達はいま食事をしている。

 怯えさせてはいけないと、私一人であたった出迎えであったが、それを功を奏したのか、出迎えは難なく終わった。

 彼らも余程衝撃が強かったのか。

 知らない世界に呼び出されたというには、混乱していなかった。

 一番小さな女の子がおちついているからかもしれないけれど。

 ときおり彼女は、私のことを見つめており、その瞳は本当に綺麗な色をしていた。

 卓を囲み、皆黙々と食事をしていた。

 お腹がすいた、とその女の子が口にしたことから、今につながる。

 そのきっかけとなったのは、女性のお腹が空腹でなったことなんだけど。

 「まあ、成ってしまったものはしょうがないよね」

 女勇者が場を和ませようと話を切り出す。

 これに乗らない手はない。

 出迎える側としては、丁重におもてなしをしたい限りなのだから。

 「勇者が4人もいらっしゃってくれるとは、私としても嬉しい誤算です」

 最初は認めていなかった彼女が認めてくれたことも、嬉しいことだった。

 他の男の勇者たちは、少し、いや、かなり不服そうにしているが。

 女の子は話に興味がないのか黙々と食事をしている。

 小さく、啄ばむようにして、ゆっくりと食べていた。

 巻き込まれた方々は、隣同士で座ってやはり興味がないのか、食事に一生懸命になっていた。

 「自分たちで、なんとかできなかったのかよ」

 「本当です」

 そこで、男の勇者達がきりだした。

 全て手を尽くしたのか、といわれたら、私達にも有余はあったようにも思えるが、実際に私達には打つ手がなかった。

 そこに神の啓示である。飛びついてしまったことには、かわりない。

 「それほどまでに、魔王という存在は絶対的だったのです。防衛一方で、国は疲弊していくばかり。まだ幾ばくかの余裕はございますが、それも尽きていくだけの蝋燭でしかないのです」

 実際に隣国から何度も討伐隊が出されたという話は聞いていたが、半数は全滅。残りは半壊だった。

 もちろん、私達がなにもしなかったということはなく、結果は言わずと知れている。

 「でも、巻き込まれたこっちの身のもなってほしいぜ」

 「ただでさえ一般市民なのですよ」

 返す言葉もなく、私は口をつぐむしかなかった。

 確かに。

 私達が事を済ませられたなら。

 勇者は必要なく。

 彼らが巻き込まれることはなかったのだ。

 そのとき、一際大きく、食器が鳴った。

 そちらを向くと、巻き込まれた方の男の子がおとしてしまったスプーンを拾っているところだった。

 「あ、ごめんごめん」

 こちらがちょっと驚いていることに対して謝罪しているのか、話を中断していることに対して謝罪しているのか曖昧な謝罪を受ける。

 私達三人以外に、女勇者にも目線を配っているということは、驚いていることへの謝罪なのだろう。

 それほど謝られることではないと思うけれど、なんなのだろうか。

 「そういえば、自己紹介がまだだよね。私は小山田梨奈おやまだりな。24歳のぴちぴちのOLよ」

 急な話題転換だった。

 気を使ってくれたのだろうことが、わかる。

 つくづく、彼女には感謝をしなければならない。

 ちなみに、私を指さしているから、次はあなた、ということなのだろう。

 「私は、霧島椎名きりしましいな。18歳。ぴちぴちです」

 ぴちぴちという言葉がよくわからなかったけれど、響きが良かったからとりあえず真似してみると、スプーンを落とした男の子がちょっとだけ笑っていた。

 おかしなことだったのだろうか。

 お返しに指さしてあげる。

 「僕は維新幸樹いしんこうき。どこにでもいる16歳の高校生です。ちなみに、あそこらへんの住民ならわかるかもしれないけど、平泉高校です」

 それから、隣で黙々と食べていた男の人を指さす。

 「俺は新沼明人にいぬまあきとだ。歳は27だったはず。ライターをやっている」

 少し考え込むようにして、男は女の子を指さした。

 「冷泉陽菜れいぜいはるな。13。平泉中学。本は嫌いじゃない」

 最低限しか喋らないのに、何故か遠まわしに趣味を言ってから女の子は隣の男勇者を指さした。

 「ああ、私ですか。平野平蔵ひらのへいぞうです。36になりました。会社員をしております」

 眼鏡を直してから、残った男の子を指さす。

 「・・・灰田直はいだなお。翠が丘高校の3年だ」

 どこか仕方なしに自己紹介をした直様は、少しの間自分の指を見て、うなっていた。

 そして、おもむろに梨奈様を指さす。

 「へ?もっかい私?」

 「いや、なんとなく」

 自分も誰かを指さしたかったのだろうか。

 少しだけ、かわいらしく思えた。


 SIDE CHANGE ~ぴちぴちの小山田梨奈~

 

 おお、再び私にまわってきた。

 これはちょっと予想外だぞ。

 「えーと、じゃあ・・・質問たーいむ?」

 ちょっと自信なさげになってしまったけれど、次に維新君にまわす。

 私に切り込ませたちょっとしたお返しだ。

 「はいはい、彼氏彼女はいましたか?ちなみに僕は居たこともありません」

 その指は真っ先に私に返ってきた。

 リターンはなしじゃないのか、な?

 「えーと、お姉さんも実は居たこともありません」

 見栄を張っても仕方がないので、正直に答える。

 良い出会いがなかったのよね。

 高校時代も大学時代もいい男がいなかったんですもの。

 もうちょっと青春したかったわ。

 と、思いながらも目の前の平野さんを指さしてみた。

 ちょっと気になる。

 指を確認したところ、指輪はなかった。

 「・・・・・。×が一個。これでいいでしょうか?」

 わぉ。

 ちょっと罪悪感。

 でも、予想通りだった。

 女の感は当たるもんだな。

 平野さんは灰田君へと渡す。

 「彼女は居る」

 灰田君はすぐに新沼さんへ。

 「最近別れた」

 新沼さんは最後に陽菜ちゃんに渡す。

 「前居た」

 がた、と椅子をゆらす音がした。

 居たのか・・・!

 予想外の事に、バトンを渡した新沼さんは呆けていた。

 しかも、前って、まだ中学生でしょう・・・?!

 私ですらいなかったのに、なんたることか!

 平然として陽菜ちゃんは皆の視線を受け止める中、椎名ちゃんにまわす。

 「え、あ、え、と。わた、わたしも、おりません」

 まわってくるとは思っていなかったのか、ちょっとだけ動揺していた。

 そんなくだらないくだらない雑談は、しばらく続いたのでした。


 SIDE CHANGE~少し眠たくなってきた維新幸樹~


 しばらく馬鹿な質問も混ざりつつ、タイミングをはかってやめた。

 「今夜の僕たちの寝る場所はどこでしょう?」

 という質問で半ば無理やりに終えさせた。

 いやいやいや、どっかのライターさんが初体験は、とかいいだしたからそろそろやばかったよ。

 そろそろいい時間だったので、顔を真っ赤にしていた霧島さんもすぐに了解してくれて、僕らは部屋に案内された。

 直が悪乗りし、平蔵さんまで過激な発言をしだしたから、どうなることかとおもった。

 小山田さんすら少し恥ずかしそうにしていたというのに、流石というかやはりというか冷泉さんは動揺すらしていなかった。

 知らない単語ばかりで、知識が足りなかっただけだと信じたい。

 僕ですらちょっと引いたぞ。

 僕らは部屋に案内されながら、いろいろと質問をする。

 僕らが転移したのは、御城だった。

 御城の地下にある、教会に似た場所だ。

 そこに座標であるあの剣をほかんしていたのだという。

 大陸の名前だとか、場所だとかを説明してくれたけれど、対して理解できず、この御城がなかなか立派な有力者の物だということしか、覚えていない。

 名前ももちろん、覚えていない。

 それでも、この御城が本当に立派な事だけは移動しただけでもわかる。

 移動に10分以上もかかるのだ。

 食堂から客間までの、である。

 ちなみに地下から食堂までも同じぐらいかかっていた。

 移動の間、皆は思い思いに過ごしている。

 それを僕は一番後ろで観察しながら歩いていた。

 余裕が出てきたのか、直と小山田さんは霧島さんのすぐ後ろでやたらとキョロキョロしていた。

 その後ろには興味なさげにすたすたとあるく冷泉さんと平蔵さん。

 しかし、冷泉さんも平蔵さんも自分の興味のあるものにだけはしっかりと反応していた。

 冷泉さんは気になる調度品をみつけては釘付けになっていた。

 平蔵さんは、時折すれ違う女官さんを見つけては釘付けになっていた。

 何なんだ、この違いは。

 大人すぎるぞ冷泉さん。君はこの間まで小学生だっただろうに。

 ちなみにそのすぐ後ろにいて、気だるそうにしているのは、僕と明人さん。

 こちらに来て以来、煙草を吸っていなかったので、気になっていると、残りが少ないから大切にしたいのだと言っていた。

 たしかに、この世界じゃ煙草補給できないかもしれない。

 でも、それに準ずるものがあるんじゃないかな。

 「あればいいがな」

 期待はしないほうがよさそうだ、とクツクツと笑っていた。

 そんな観察も飽き始めて、石造りっぽい壁とかの材質は僕らのところのものと同じなのだろうか、などとくだらないことを考え始めていた矢先に目的地についたようだった。

 

 SIDE OUT

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