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18:PTウォーキング

 SIDE IN~頬が緩んでしまいそうな冷泉陽菜~


 今日の散歩は新鮮だ。

 初めて歩く場所。

 初めて見る景色。

 初めての空気。

 初めてだらけの、城下町。

 どこか西欧っぽくて、私は観光旅行に来ている気分で。

 少しだけ楽しい。

 本当に、少しだけ。

 「この前はあのお店に寄ったんだけど、おいしかったよ」

 「ほう、それは興味をそそられますね」

 「そうだな、昼になったら寄るか」

 私達の前を佐藤と並んで歩いていた小山田が振り返って食事どころを指さす。

 何故か私の両端に立つ灰田と平野がそれに頷いて。

 私は黙って見ていた。

 興味がないわけじゃない。

 美味しい物は好きだ。

 甘味だって、大好き。

 けれど。

 そこまで大げさに興味を示すほどじゃない。

 「今日はどんなところを案内しましょうか」

 佐藤は振り返らずに、ゆっくりとしたペースをつくって歩いている。

 おそらくは、私にあわせたペースずくりを心がけて、歩いているのだろう。

 勝手な推測だけれど。

 「んー、そうだね~。私は服が見たいかな」

 「長くならないなら、それでも良いが」

 「私としてもそれは不安ですね」

 「買うわけじゃないし、ひやかし程度ならすぐ終わるわよ」

 話半分に聞きとめながら、私の興味は景色へと移る。

 現実世界と、そう変わらない景色。

 観光旅行のようだ、と私は思った。

 そう。帰ってから、フランスあたりの町を歩けば、こんな景色がみられるのではないだろうか。

 そして、ここは平和そのものだった。

 それは、当たり前で。

 まだ、この街は渦中に入り込んだわけじゃないのだから。

 でもなんだか、もうちょっと違う物を私は思っていた。

 ふと、目の端に。

 一見のお店が止まった。

 こういうところだけは見られないかも、と心の中で呟いた。

 「あ、俺は後であそこによってみたいな」

 灰田も同じ店を見て。

 私の意見を、代弁した。

 ちらりと振り返って見てみると、ただ純粋に自分の意見を言っているだけなのが分かった。

 目を、輝かせすぎ。

 「私も是非」

 平野までもが、テンションを上げている。

 なんなのだろうか。

 「ああ、武器屋ですか。いいですよ」

 「私はあんまり興味ないけど、まあいいかな」

 当然として、武器を扱うことのない小山田は興味がなく。

 あんまり楽しそうではなかった。

 「あ、あれおいしそう」

 それからすぐに彼女は食べ歩きが出来るような甘味を見つけて。

 「食べたいです」

 こちらを振り返り、強く提案する。

 「お昼まではまだ時間がありますし、私は賛成です」

 すぐに佐藤が乗り。

 全員が同意する。

 もちろん、私を含めて。

 近くに寄ってみると、それはアイスクリームのようで、様々な味があった。

 中にはリーシュ味があり、他は知らない物ばかりだったから、私はそれにする。

 小山田と平野は佐藤にお勧めを聞いてから、買っていた。

 灰田はなんでもいい、と適当に選んでいた。

 「はい」

 手渡されたそれをすぐにほおばる。

 冷たさと、酸味の弱いリーシュの味が口の中に広がっていく。

 それほど酸っぱくもなく、適度な味がして、とてもおいしい。

 「おいしいね~」

 皆で口々に感想を言いながら、ぶらり、と通りを歩いていく。

 そこで、ふと。

 城に残った彼の事を、思い出した。

 今、何をしているのだろうか、と。


 SIDE CHANGE~ちょっと憂鬱な維新幸樹~


 誰も居ない訓練場の、訪れると決まって座る木陰にもたれて。

 いつもとはうってかわって静かな景色を眺めた。

 小鳥が、さえずりながら中央辺りを歩いている。

 餌を探しているのか、それとも、散歩しているだけなのか。

 それは分からない。

 風がざわめくと木々が揺れて、その度に木の葉が降ってくる。

 そんな落葉を眺めながら、溜息を一つ。

 左腕が治ってから一人になる時間が増えたなぁ、と変な気持ちになる。

 あ、やらしいっていみじゃないから、ここ重要。

 怪我をしてからは片時も離れなかった彼女が、次第に離れていくのが、なんだか少しだけ、寂しい気もして。

 でもそれは当たり前かな、とも考えて。

 なんだか弱気になりそうな自分を、笑った。

 不意に。

 風が巻き上げてきた砂の匂いが、鼻をつく。

 すると、芋づる式に。

 思い出される、戦場の記憶に、考えを巡らせる。

 偵察。襲撃。噂。軍議。明人さんの話。そして、予想。

 情報が錯綜する。

 導かれた答えは、最悪で。

 そこから僕がすることは、一つしかなく。

 死んでは意味がないと、さらに考えを巡らせていった。

 「俺に相談してみるかい?」

 唐突に、ふって湧いた声に、驚いて当りを見渡すけれど、姿は見えなかった。

 けれど。

 最近覚えたばかりのあいつのもので。

 「なんだったら、力も貸してやってもいいんだぜ」

 木を挟んだ反対側から聞こえたその声は。

 楽しそうに、少し笑っているようだった。


 SIDE OUT

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