閑話6:私と彼
重くて二重投稿になってしまいました。
タイトルだけ変更して中身前話そのままです。
消し方とか分からないから応急処置。
一時間後までこのままで。
SIDE IN~趣味は観察冷泉陽菜~
私が起きてまずすることは、彼の寝顔を確認すること。
どれだけ私が間近にいても、彼は起きない。
髪をさわっても、頬をつついても、彼は寝ていた。
かなり、寝付きがいい。
ただ、彼は唐突に目覚めるために、何度か私は肝を冷やした。
たとえば、顔を覗き込んでいたときとか。
思いつきで彼の鼻をつまんでいたときとか。
起きてきた彼はきまって不思議な顔をして、もう一度目を閉じる。
ああ、夢ではないのに。
「おはよう」
その言葉で私は活動を開始する。
ここ数日で、私の介護スキルはかなり上達した。
片手で彼を抱き起す事まで出来るようになった。
基点とか、支点とか利用して、こう、くいっ、と起こす。
熟達してきたといっても、過言ではないんじゃないだろうか。
食事の選択スキルだって、上がっている。
まずは前菜のサラダをいれて。
次にその日のおかずを運び。
ご飯を詰め込み。
最後にスープを流し込む。
あの時はスープの後におかずを入れていたけれど。
今はちゃんと、最後にスープを選んでいる。
見事な腕前だと、ちょっと自信がある。
食事の後は彼と散歩が日課となっていた。
彼の話は面白く、いつも聞き入っている。
そして、彼の行動も面白い。
ダイナミックな身ぶり手ぶりとか。
楽しませてくれようとしているのが、手に取るように分かる。
だから、私は彼との散歩が好きだった。
その日は珍しく、訓練場を通った。
そこではいつも通り、灰田と小山田が訓練していた。
それを、私達は遠巻きに見る。
邪魔をしないように。
その光景を眺めながら私は思い出していた。
久しぶりに握った柄の感触に、ざわざわと心が騒いだ。
あれ以来。
私の中には獣が住み着いた。
けれど、決していやなものじゃなく。
あたたかくて、優しい獣。
自然、体が軽くなり。
力が湧いてくる。
前のように、舞のような綺麗な太刀筋はもう必要無く。
体が勝手に動いて。
その全てを私は支配する。
今ならきっと、あの鰐からだって彼を守る事が出来る。
そう思って隣を見ると、彼も私を見ていた。
何を考えているのか、わかりやすい人だ。
きっと次はどうやったら私を守れるのかを、考えているのだろう。
そんな必要はないのに、とちょっとだけふてくされて。
それでも嬉しくて、顔をそらした。
夜にベッドにはいって、まどろみ始めたときに来客があった。
私は特に気にせずにそのまま眠ろうと、目を閉じる。
「なんだ、冷泉はもう寝てるのか」
どうやら灰田のようだ。
「うん。っていうか、もう遅いし」
椅子に座って、彼と話を始める。
ついつい、その内容が気になって。
私は眠る事が出来なかった。
「そういえば、すっげぇ強くなってたな。冷泉のやつ」
「ぼろ負けだったね、直」
ちょっとだけ、私は私が誇らしい。
「俺はあの、鰐の時さ。冷泉だけが本当の勇者なんだって、思ったよ」
小声で彼らは話を続ける。
小さい。
トゲが胸をつく。
「かっこよくて、勇気があって、強くて。俺には無理だって思った。誇らしくもあったし、憧れた」
ちくりちくりと、苦しい。
「でさ、そんな冷泉が負けたとき、俺は呆然としてさ。動けなかった。殺されそうになってるってのに、怖くてさ、本当に」
「僕も怖かった」
「でも、お前は飛び出した」
「きっと、あの熊で一度経験したから。その差だよ」
「違う。周りの奴らだって、手出しできずにいたんだよ。あの時、皆気付いていて、やらなかったんだ」
「それは考え過ぎじゃない?」
「そんなことないさ」
「でもまあ、僕だけで勝てるとは思ってなかったんだけど」
そこで、会話が一度途切れ。
私は耳を澄まして待った。
「本当は陽菜ちゃんを奮い立たせて、なんとか逆転、ってつもりだったんだけどね。ふと。本当にふと気付いたんだ。彼女の小ささに」
すらすらと、彼は話す。
「こーんなにちっさいのにさ、僕はなにをしてるんだろうっておもって。守ってあげなくちゃって思って。まあ、駄目だったんだけど」
直も静かに聞いている。
彼の次の言葉を待っている。
「あー、なんて言えばいいのかな。ほら、僕って男だし。かっこつけたくなっちゃったのかな。可愛い女の子の前に立っちゃった訳だし。王子様になりたかったのかも」
「なんだそりゃ」
直が声を殺して笑った。
私も頬が、少しだけ緩むのを抑えられなかった。
トゲも無くなった。
もう、痛くない。
「結局、駄目だったから。次はかっこうつけられるといいなぁ。なんて、そんな場面がこないほうがよっぽどいいんだけど」
「おいおい、冷泉は強いぜ」
「でもまあ、女の子だってことに、変わりはないから」
「惚れてんの?」
「どうだろ。まだわかんないけど。皆のことだって守りたいって思うし」
「勇者じゃないくせに」
「一緒に巻き込まれた仲じゃない。やれることはやるし、守りたいっておもうのは、僕がやっぱり男の子だから」
「ちっ、これだからお前は」
「直だって、今必死になって頑張ってるじゃない」
「ばーか。俺は勇者で、さらには男なんだぜ。当たり前だろ」
「かも」
そう、彼らは笑って。
すぐに直が去っていった。
「惚れてるのか、なぁ?」
彼は最後にそう呟いて。
私は笑って、眠りについた。
SIDE OUT