閑話3:馬鹿の為に
SIDE IN~絶賛禁煙中新沼明人~
俺は煙草の箱を取り出して。
元の場所に戻した。
溜息をついて。
耐えきれない、と席を立つ。
窓際まで行き、休憩がてら換気もする。
部屋の中に溜まっているカビ臭い空気が、一新するイメージが頭の中に沸いて、少しだけすっきりした。
窓の外を覗いていると、直と小山田と知らない奴が外へと出て行くのが見えた。
あー、なるほど。
もうしばらくしたら何かしてやるつもりだったが、これなら必要ないか、と懸案が一つ減った事を喜んだ。
それと同時に、これは良い兆候だと考える。
彼らは仲間だ。
背中を預け合うパーティーになるはずだ。
なら、信頼を置けるほど仲良くなっておく事に、越したことはない。
思わず顔が綻んで。
また煙草の箱を取り出して。
同じように元の場所に戻した。
もう、何度目だろう。
気がつけば同じ事を繰り返している。
どうしても我慢できなくなったときのために、これは取っておくと決めたのに。
吸いたいと感じてしまうと思わず取り出してしまう。
ちっ、手持無沙汰になると、どうにも吸いたくなるな。
あーあ、早く、煙草を思い切り吸いたいな、と呟いて。
俺は窓を閉じて、机に戻った。
暗くなった廊下を歩いていると、窓のそとに何かを見つけた。
目の端で捉えたそれを確認すると、どうやら魔物らしい。
またか、と。
しばらく見ているとそれは飛び去っていく。
数日前から、飛んでくるようになった。
いや、気がついてなかっただけで、ずっと続けられている事なのかもしれないが。
「どうかなされましたか?」
飛び去った後もまだ見続けていると、知らない奴から声をかけられた。
振り返ると、見た事はある奴だった。
「別に何でもない」
そいつは俺の隣まできて、俺の見ていた窓から外を覗いた。
「何か面白い物でも飛んでましたか?」
分かっていて、言っているのか。
「月を見ていただけだ」
「ああ、本当に。綺麗な月」
俺もまた窓の外を覗いて。
癖のように箱を取り出しては戻した。
「それはなにを?」
「ああ、いや。言っても分からないだろう」
口で説明するのもめんどくさく、今度は箱から中身を取り出した。
「嗜好品なんだがな。先っぽに火をつけて煙を吸う物だ。残りが少ないから我慢しているんだ」
「なるほど。そちらの世界の物でしたか。さわってみても?」
「かまわないが、最後の一本だから大切にしてくれ」
「ありがとうございます」
そいつに手渡すと、手に取って眺め、臭いをかいでいた。
もう一本あったらくれてやってもよかったんだがな、とおもうほど。
楽しそうだった。
「ふむ。ありがとうございました」
「やれれば良かったんだがな」
「いえ、お気づかいなく」
煙草を箱に戻して、しまう。
会話が途切れ、再び視線は窓の外に向かった。
それでもそいつは傍を離れなかった。
中々切り出してこないことに焦れて。
「何か聞きたい事でもあるのか?」
俺は訊いた。
「いえ・・・はい」
「なんだ?」
「貴方達の意思を」
好奇心が旺盛なのか。
それとも。
「私は迷っています。本当に貴方達にこの世界を託していいのかを。私が命をかけて守るべき人たちなのかを」
「それは俺に聞くべきではないな。俺はお前の守るべき人たちとやらのなかには入っていない奴だ」
「知っています。その上で、私は貴方に聞いているのです」
「ふん」
そいつはまっすぐとこっちを見て。
真摯な瞳をしていた。
だから、興が乗ったんだろう。
「あの二人はもう見てきたんだろう。俺たちは皆、乗り気だよ。どっかの馬鹿のおかげでな」
そう。
もう、尻込みしているだけじゃ終われなくなっていた。
互いが互いに。
触発して絡み合い。
火をつけた。
冷泉が責任感から皆を守ろうとして。
幸樹が冷泉を守ろうとして俺達に見せた。
特に幸樹だ。
勇者でもないあいつが戦って。
皆に火がついた。
「あんたが守るかどうかなど、知らない。だが、俺達は多分。もう止まらない。皆一直線に魔王退治に走るさ」
当然俺だって。
馬鹿をやるあいつを見捨ててのうのうと生きていられるほど、子供じゃない。
大人何だ、俺は。
そうですか、とそいつが伏せたのを後目に。
俺は自室に戻った。
SIDE OUT