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閑話2:お姉さん

 SIDE IN~ベッドの上でまどろむ小山田梨奈~


 あー、うー。

 起きてすぐはまだ眠いから、私はベッドの上でしばらく過ごす。

 仕事がないのは最高で。

 これで訓練とかなかったら、最高なのに。

 んー、と背を伸ばし。

 しばらくころころしたあとに起き上がって、隣を見た。

 ベッドの上には、誰も居ない。

 また朝早くから訓練しているのかな、とここにはいない直君のことを考えた。

 陽菜ちゃんが部屋を移動してから、私は彼と同室になった。

 襲撃があっても、対応できるようにという心配りで、こうなったのだが。

 新沼さんと平蔵さんのコンビで大丈夫なのだろうか。

 なんとかなるだろうとは言っていたけれど。

 とてもなんとかなるとは、私には思えなかった。

 それに、最近の私は強くなった。

 この世界はおかしい。

 訓練次第で、どこまでも強くなれる気がする。

 この前なんかは、大岩を素手で砕いてしまった。

 現実世界ではできないことも、ここでなら出来るのだ。

 それは直君にだって当てはまって、彼もすごくなっているのだけれど。

 それでも彼は、必死になって訓練をし続けている。

 何処か焦っているようにも、見える。

 大丈夫、だろうか?

 そこで、ふと思いつく。

 なら、私が。

 ふふふ、と少しだけ楽しくなって。

 私は勢いよくベッドを飛び出した。



 いつも遠巻きに見ていた街は、近くでみると思った以上に活気があった。

 私達の街とは違う。

 整理整頓されつくした、人情味の欠片もない、都会のコンクリートジャングルなんかとは、全然違った。

 商品を載せた荷馬車が時折道を駆けていく姿も、新鮮だ。

 果たしてそれを引いているあれが馬かと言われたら、苦笑いしてしまうけれど。

 「良く許可が下りたな」

 少し驚いた様子で、隣を歩いていた直君が言った。

 彼は物珍しげにキョロキョロしていて。

 その様子が子供らしくて笑ってしまう。

 「私達の事って知られてないし、このとおり、護衛がいれば大丈夫だって」

 その反対側を、私服姿の護衛さんが歩く。

 しゃきっときりっとした美人さんで、部隊を率いているやり手らしい。

 彼女なら大丈夫と霧島さんの太鼓判つきの腕前らしい。

 私達は三人で、賑やかな町並みを眺めながら、当てもなく歩いていく。

 「案内役も兼ねています。なんでもお聞きください」

 「うん、よろしくね。えーと」

 「佐藤藍です。藍と御呼びください、梨奈様」

 「分かりました、藍さん」

 ちなみに新沼さんと平蔵さんはお留守番だった。

 新沼さんはよく姿を消す。

 結局私には見つける事が出来ずに、連れ出す事が出来なかったのだ。

 平蔵さんは、興味を示していたけれど、断念。

 今何かがつかめそうだから、訓練を続けたいんだそうだ。

 真面目な人である。

 「あ、藍さん。あれ食べたい」

 心根に忠実だと自分でも思うが。

 どうにも、おいしそうなものを見ると食べたくなってしまうのは仕方ないよね。

 特に甘い物なら、なおさらだ。

 クレープとか、大好物ですよ。

 「ふむ。お昼も近いのですが」

 「あれぐらいなら大丈夫ですって」

 「そうですね」

 やはり藍さんも女の子なんだな、と思った。

 軽い抵抗だけで、すぐに折れる。

 隣でずっと直君があきれていたのは言うまでもなく。

 私達はクレープをゲットした。

 「ん~」

 「うむ」

 そして二人して満足。

 堅苦しい人だと思ったけれど、なんだか親しみやすくなって良いな。

 「っていうか、なんでいきなり街になんか」

 「ん」

 食べ終わる頃を見計らって、彼が切りだした。

 浮かない顔で、彼は遠くを見つめる。

 何を考えているのかがまる分かりで。

 その顔をじっと見つめた。

 そのまま近づいていき。

 その目を覗きこむ。

 「な、なんだ」

 「駄目だよ」

 彼の眉間に指を当てて。

 彼が後ろに引こうとするのを、反対の手で止めた。

 「なにが駄目なんだよ」

 「皺がよってる。顔が笑ってない。余裕がなさすぎ」

 一つ言うたびに一度突っつき。

 その度に彼は目をつぶる。

 「直君は最近焦りすぎだとお姉さんは思うな。出来ることも出来なくなっちゃうよ。潰れる人の顔してる」

 彼の目が真剣に私をみつめてくる。

 何が言いたいのかわかってくれたようで、結構。

 手を放して。

 今度は両頬を引っ張った。

 「何もできなかったのが悔しいのは、わかるけどさ。それを気に病んでつぶれちゃったら、もともこもないよ」

 最後に、頭をくしゃくしゃにしてやる。

 悩むのは良い事だが、下手な悩み方はするなよ、青年。

 そう思って。

 それを最後に、私達は街の散策に戻った。

 

 

 「ありがと」

 寝る前。

 良いお姉さんができたかな、と。

 良い気分で私は夢の中に落ちて行った。


 SIDE OUT

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