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14:勝敗が混在した終わり

SIDE IN~口が開きっぱなしの灰田直~


 戦いは鎮静化してきて。

 戦場にはもはや残党狩りのような空気が漂い始めていた。

 その端のほうで、俺達は動けずにいた。

 何度、飛び出そうかと思ったか。

 優勢に見えていた冷泉が敗れたときに、一度。

 幸樹が飛び出してきたときにも、一度。

 そこから、幸樹が戦っている最中に、何度も飛び出そうと思った。

 けれど。

 俺に、何が出来る。

 リザードマンにすら殺されかけた俺が、手助けできるのか。

 そう思うと、体が動かなかった。

 「くそっ」

 とても歯がゆく。

 それでもこのまま終わるのを、俺は待つだけ。

 隣の小山田さんも、いつのまにか俺の服を強く握っていた。

 同じ気持ちなのか、それとも。

 ただ、怖いだけなのか。

 どちらだとしても、俺にはわからないし、せめることもできない。

 俺は勇者に選ばれているのに。

 こんなにも、非力だ。

 「あっ」

 間抜けな声が、いつのまにか出ていた。

 危ない、と叫ぶつもりが。

 その前に事は終わってしまっていた。

 土煙りが収まりつつある向こう側で、幸樹がうってでた。

 そして、そして。

 瞬の事だった。

 剣を押さえつけて、幸樹が足を踏み出した、その瞬間に。

 鰐が剣から手を離し、拳を固めて引いていた。

 その事に、あいつは気が付いていない。

 声を出そうとした、その瞬間に。

 あいつは吹き飛ばされていた。

 4~5mは軽く飛んでいた。どこか人間らしくない飛び方。人形を子供が空に放り出したように。

 倒れたあいつはピクリとも動かない。

 袖が強く引っ張られる。

 叫び出しそうになるのを、抑えるように。

 俺が飛び出していかないように、止めているかのように。

 でも、そんな必要はない。

 身が竦んで、動けなかった。

 ああ、ああ、ああ。

 こんなところで俺は、何をしているのか。

 だれか、あいつを助けてくれ。

 なんで誰も、何もできないんだ。

 誰か。

 誰か・・・!


 SIDE CHANGE~失意の底にいた冷泉陽菜~


 声を求めて、顔を上げた私が見つけたものは、絶望だった。

 息をするのも忘れて、その光景を食い入るように見つめる。

 何故彼はあんなところで、倒れているのか。

 どうして、あの鰐は、あんなに勝ち誇るように笑っているのか。

 これは、きっとまだ私の悪夢の中に、違いない。

 なのに、なぜ。

 こんなに体が痛いのか。

 心のどこかで、せせら笑う、声が聞こえた気がした。

 うるさい・・・!

 腹の底から、ぶわっ、と熱いものが湧き上がった。

 なんで、なんで、なんで、私は・・・!

 やるせない気持ちが沸き起こるけれど。

 それを飲み込みながら血が沸騰する錯覚を覚える。

 喉の奥から、息があふれてくる。

 吐き気が、した。

 けれどそれを、私は噛み殺して。

 頭の中へと、沸騰した血を、流した。

 

 SIDE CHANGE~心の底から笑っている鰐クロウ=ダイン~


 「あああああぁぁぁああっぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 力を抜く寸前で、視界の隅に黒い物が飛んできた。

 反射的に左腕でそれを防ごうとして。

 ずぷり、と。

 左腕から剣が生える。

 そして、危険を感じる間もなく。

 それが、なんの抵抗もなく、振り抜かれた。

 「がぁぁぁぁぁぁ!」

 気がついた時には、痛みが全身を駆け巡り、不気味な感触に背筋が冷えた。

 何が起こった。

 何故俺は吠えなければならなかった。

 とっさにその場から離れて、左側へと向き直る。

 なんで。

 どうして、この小娘がそこに立っている・・・!

 肩で息をしながらこちらを睨むその様は、まるで手負いの獣。

 その手に持つのは先ほどまでとは違う、どこにでもあるような剣。

 かくあるべき人の姿を、すてたような姿で。

 幼き少女が立っていた。

 いつのまに、意識をとりもどしたのか。

 それほど軽い怪我ではなく。

 良い手ごたえは、確かにあった。

 肋骨すらへし折った感触が、今でも思い出せる。

 そして、この少女は心が折れているはずだった。

 もはや立てぬその身と心で。

 それで、どうして。

 そんな場所で、俺に刃向かっているのか。

 「ぁぁぁぁぁあぁやあぁぁあぁ!」

 獣が吠えて、襲いかかってくる。

 先ほどまでは、綺麗な剣筋だったものが、見る影もない。

 乱雑だった。

 右腕一本でも、全て受けきれる。

 単純で、粗暴で、陳腐だ。

 ただのやつあたりのような、何も考えていない太刀筋。

 愚直で読みやすい。

 だから、いくら速かろうと、届かない。

 その一つを取りこぼし、身に受ける。

 また一つ取りこぼし、顔に受ける。

 ・・・?

 そんなはずはないと、頭を過った瞬間に、腕が裂ける。

 全部軽い傷。

 しかし、負うはずのない、怪我だった。

 そんな、馬鹿な。

 俺は、目を疑った。

 「ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 2、4、6。

 そいつが一度剣を振るうたびに、二つの剣戟がとんでくる。

 8、10、12。

 それが止まることなく回数を増やす。

 なんの冗談だ。

 ありえない。

 こんなことがありえては、いけないのに。

 「グガァァァァ!」

 思わず。力を込めて突き飛ばそうとした。

 それは、反射的な行動だった。

 その、瞬間に。

 獣が理性を取り戻して。綺麗な剣筋で、半分ちぎれかけていた左腕を、切り飛ばした。

 その返り刃で。

 俺の、首元を。

 切り裂いた。

 はずだった。

 俺は動けずに、その剣の軌道は、確かに確実に、命を狩るものだった。

 ぼんやりと、そんなことを思っていると、放り投げられ、ぼす、という生き物に抱きついた感触がした。

 そこで、我を取り戻す。

 そうか、お前か。

 愛騎のウィーフィンウルフが、辺りをいつのまにか囲んでいた兵士を蹴散らしながら空へと飛び立つ。

 その背中にしがみつき。

 意識が遠くなりそうになりながら、俺はその少女の姿を目に焼き付ける。

 いつか必ず、リベンジさせてもらうぞ。

 そう、思いながら飛ぶ空は。

 苦々しいまでに、青く澄み渡っていた。


 SIDE OUT

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