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11:私が

SIDE IN~剣の保持者冷泉陽菜~


 「がぁぁぁぁぁ!」

 突然の咆哮だった。

 その声に身を竦ませながらも、私は鰐から視線を外さない。

 右手で担ぐだけだった大剣に両手でつかむ。

 のっしりとした初速だった。

 余裕を持って、その間合いから外れた。

 つもりだった。

 のっしりとした初速から、爆発的な加速を見せて、大剣は振るわれる。

 それをぎりぎりでのけぞりながら、掠らせてよけきると、私は止まらずにそのまま後ろに飛び仕切りなおす。

 地面に突き刺さったそれを、鰐は軽々と抜きさると、すぐに構えなおして突撃してくる。

 下段構えから、地面すれすれを這わせるように、振り抜いてくる。

 それは私の寸前まで来て。

 爆発する。

 角度を変え、跳ね上がり、私のひきちぎらんばかりに、せまってくる。

 そのタイミング。

 加速。

 それを感覚だけで予測してまたのけぞるようにして今度はわざとかすらせてかわす。

 今!

 私は体を捻って、相手の腕を狙って切る。

 切り落とすつもりだった。

 だが、そう甘くもない。

 鰐は振り上げた反動に乗せて腕を振り上げ、切れたのは骨まで達さない程度。

 それも、相手には気にも留めない程度である。

 そのまま鰐は上段で構えて振り下ろしてくる。

 それは分かっていた。

 振り上げた次の攻撃に予測できるのは、そう多くない。

 だから、よけきるのは簡単だ。

 やれる。

 これなら、私にもやれる。

 そっと。

 今にも私に喰らいつかんばかりの大剣を眼の端でとらえながら。

 私は笑った。


 SIDE CHANGE~女はやっぱり怖い灰田直~


 戦場に、異質な空間が出来上がっていた。

 小さな女の子と、鰐だけの特別な空間。

 重苦しい。

 誰も近寄ることのできない。

 封鎖空間。

 あれは、誰だ。

 俺は、彼女を、本当に見たことがあるのか。

 自分の目を、疑った。

 その姿は正に勇者そのもの。

 敵の大将と一騎打ち。

 ここまで剣の風圧が届きそうな剣圧の中で、彼女は笑っていた。

 本当に選ばれていたのは、彼女だけじゃないのか?

 そんな思いさえ抱いてしまう。

 「凄い・・・」

 隣で小山田さんも呆然としてその様を見ていた。

 助けにいこう、なんて傲慢だ。

 相手にもされずに、ただ火に入る虫になる。

 「大丈夫ですか!」

 荒げられた声に振り向けば、霧島さんと平蔵さんが、こちらに駆け寄ってきていた。

 「私達は大丈夫よ」

 「冷泉のおかげでな」

 そういって、その言葉が誇らしげに思えた。

 威風堂々。

 そんな言葉が似合う、俺たちの勇者を。

 その姿に霧島さんは眼を輝かせ、平蔵さんは息を呑んだ。

 当然か、と思う。

 その姿は霧島さんが待ち望んだ勇者の物で。

 その姿は平蔵さんの予想も出来ないものだっただろうから。

 一緒に訓練していた俺たちですら、唖然としている。

 無理もない。

 その姿に安心してしまうのも、無理もない。


 SIDE CHANGE~独りぼっちの冷泉陽菜~


 機会を待っていた。

 大きな隙が出来る、その時を。

 余裕などとうになく。

 じわり、と胸が焦がされているのが、頭の端にひっかかった。

 もう幾度切り結んだだろうか。

 戦えている。

 それは間違いない。

 かわす毎に増えていく鰐の傷はもはや数え切れるものではなかった。

 けれど、致命傷はひとつもない。

 かすり傷が、増えていくだけ。

 何時まで経っても、相手を倒せる気がしない。

 勝てない。

 負ける。

 脳裏に過る不安が、次第に胸へと広がっていく。

 連想が、止まらない。

 そう、私は焦っていた。

 荒れ狂う大剣を避けながら、あと何度こうすればいいのかが分からない。

 果てのない、死神との追いかけっこ。

 ゴールのないマラソン。

 早く、早く、早く・・・!

 いつまでもかわし続けられるはずない。

 絶対なんてない。

 だから、それよりもはやく、最善の決着をつけなければ、いけなかった。

 その時、一際大きく、速く大剣が振るわれた。

 私の想いを汲んでくれたかのように。

 ここだ!

 「はぁぁぁぁぁああ!」

 これで終わらせるつもりで。

 剣を引くつもりも、相手の大剣を避けるつもりもなかった。

 ただ、振り抜いて。

 それで、最後。

 終わった、と心の中で喜びながら。

 剣を相手の横腹へと打ち込んだ。

 それが、愚策だと気付いたのは、剣が届いた、その時だった。

 目の端で捉えた鰐の顔に、絶望などなく。

 悔しさなどなく。

 敗北などなく。

 意味を知る。

 焦れて、勝負を賭けに来たのだと思った。

 相手にとっても終わらない攻防。

 それを疎ましく思い、強攻してきたのだと、思った。

 果たして。

 それは違っていたのだけれど。

 「ふんっ!」

 気付いた時にはもう遅い。

 焦れていたのは、私だけ。

 剣が、振りきれない。

 隙だらけだった筈の鰐の腹を。

 両断するつもりだった。

 それが、ちょうど剣の両刃が収まるその程度しか、剣は進んでいない。

 引き抜こうと力を込めるが、それもままならない。

 敵の目の前で。

 恐慌におちいった私は、力任せに剣を動かそうとした。

 早く抜けて・・・!

 早く・・・!

 「このぉ・・・!」

 不意に、軽い金属音と共に動かなかった剣が動いた。

 パキン。

 本当に、軽い音だった。

 そんな音だけで、剣は。

 その刃の大半を、失った。

 頭の中に、空白ができる。

 「がぁぁぁ!」

 瞬間。

 跳ね飛ばされる私の体。

 腹部に走る激痛。

 どうなったのか。

 わからなかった。

 ただただ、頭の中を埋め尽くす後悔。

 こんなはずじゃなかったのに。

 やっぱり、私では駄目だったのか。

 ああ。

 あぁ。

 悪い夢だったら、良かったのに。


 SIDE OUT

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