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10:遭遇戦

SIDE IN~埃っぽいのは苦手な灰田直~


 戦線は苛烈を極めた。

 土煙りが舞い、息が苦しい。

 増援の兵士はすぐさま駆けつけてきたが、敵の数もどんどんと増え続ける。

 訓練場は戦場と化していた。

 「せぇあぁ!」

 その端で俺たちは自己防衛に励んでいる。

 単一であたることはなかった。

 俺が相手の得物を防ぎ、小山田さんが相手の体勢を崩してから、最後にとどめをさす。

 まるで、餅つきのような流れ作業。

 一応護衛はついたが、彼らも手一杯。

 許容以上だと判断したら俺達もそちらに加勢して、手勢を増やす。

 二人以上であたっているためか、それほど危険だと感じることもなく、だんだんと慣れが起きてくる。

 頭の中が、停滞していった。

 あと、どれくらい続けていけば、いいのだろうか。

 それが、どれほど危険な行為だったのか。

 「灰田君後ろ!!!」

 小山田さんの叫び声が聞こえてきて、振り返る。

 息が、出来なかった。

 剣を上段に構えているトカゲ。

 ああ、やべ。

 死んだ。

 「やぁぁぁぁ!」

 止まった息が、別の誰かの威勢の良い掛け声によって吹き返す。

 へたり、とその場に尻もちをつく。

 後ろから小山田さんがすぐにやってきて、俺の腕をとって戦線を下がらせてくれて。

 ようやく。

 その間際、誰が助けてくれたのかを知る。

 冷泉・・・?!

 トカゲの上からすぐに飛び起きて、こちらに駆け寄ってくる。

 その手には彼女の剣が抱えられていた。

 「もう!本当に危なかったんだよ!」

 小山田さんが、隣で怒っていた。

 ここにきて。

 実感が体中を駆け巡った。

 背中をじとり、とぬらす冷たい汗。

 呼吸は荒くなって。

 涙がにじむ。

 怖い・・・!

 一歩間違えば死んでいた。

 戦場で、なにをやっていたんだ、俺は。

 「大丈夫です」

 大丈夫、と今一度呟いて冷泉が剣を鞘から抜いて俺達の前に立つ。

 その無骨な剣は、到底彼女には似合わない大きさ。

 それが今はどうだ。

 その無骨な姿は機能美とでもいえばいいのだろうか。

 とても頼りになる剣に見えた。

 それを持つ彼女に、安心をおぼえる。

 震えていた手が止まった。

 目に滲んでいた涙はもう零れ落ちていなかった。

 そこに立つ勇者の姿に、ただただ見惚れてしまっていた。


 SIDE CHANGE~勇者がーる冷泉陽菜~


 味方を背中に庇い、戦場を見渡した。

 未だに味方に死者はでていない。

 細かな怪我をしたものはいるが、一騎で敵に当たる者が少ないおかげか、それとも敵のレベルが低いのか、重傷者すらいない。

 先ほど体当たりで転ばせたトカゲ男は、既にその隙をつかれて絶命している。

 混戦といっても良いほど混沌とした戦場の空にはまだ獣たちが飛んでいる。

 続々と増える敵の増援に、怖気づく。

 多すぎる・・・!

 いずれは、こちらにも死者がでるのは間違いない。

 何か、私にできることはないのだろうか。

 仮にも私は、勇者なのだから。

 思考に明け暮れながらも、襲いかかってくる敵を薙ぐ。

 眼はしっかりと見えている。

 動き。軌道。狙い。

 私が先生から教えてもらったことは、相手の動きをよく見ることだった。

 何処を狙って、どの軌道を描いて、どう動くか。

 剣の扱いは満点に近く、あとは戦い方さえ覚えればなんとかなる、という。

 実感を抱きながら、私は歓喜した。

 体に染みついた舞が、今役にたっていた。

 怖くないといえば、嘘になる。

 でも、本当でもある。

 今は、それよりも嬉しかった。

 一歩、また一歩進む。

 その度に剣を振り、敵を薙ぐ。

 最初に襲ってきたのはライオンに似たケダモノ。

 私を押し倒して捕らえようとしてきたところを、潜りざまに首筋から足まで一閃。

 剣は軽かった。

 思い通りに、動く。

 潜りぬけると、近くで背中を向けたトカゲ男が見えた。

 隙だらけのその背中をまた一閃。

 鎧を着込んだその間を狙って、降りぬいた。

 斜め前から、斧を持ったトカゲ男が襲いかかってくる。

 その目線。その動き。その構え。

 袈裟切りにしようなんて、誰でもわかる。

 そして、斧の扱いがなっていない。

 そんなところで振り上げていたら、遅すぎる。

 私はその腕を切り落とし、反す刃で胴を切り払った。

 到底、私は負ける気がしなかった。

 だから、だろう。

 調子に乗ってしまった、と苦虫をつぶした。

 一気に熱が冷めるのを感じる。

 剣についた血を振り払いながら、目の前に降り立ったケダモノを見る。

 ひときわ大きな、犬のような生き物だった。

 その背から下りてくるのは、大きな刀ともとれる得物をひっさげた、二足歩行の鰐だった。

 明らかに、この状況は不味い。

 そして、呼びこんだのは私。

 私が異質を撒き散らしてしまったせいだ。

 忘れていた。

 彼らの目的を。

 視線をそらすことができないけれど、おそらく他の皆は手一杯で応援は厳しいだろう。

 そして、背を向ければ、あの犬が襲い掛かってくるだろう。

 それ以前に、私の足は動いてはくれなかっただろうが。

 怖い・・・!

 足が竦んでいる。

 周りとは違う。

 先ほどまで漏れてこちらにきていた雑兵が、明らかにこちらを避けてすらいる。

 私は自然と剣を下段に構えて動きを止めた。

 それにも関らず、鰐は大剣を背負ったまま、動きを見せない。

 相手の、手の内が見えない。

 私は非力だ。

 力はない。

 だから、その見えない手の内を図り損ねていた場合、それがそのまま死につながる。

 稽古の時に、後の先をとるスタンスを教えられたのは、その為だった。

 不利な状況を力でねじ伏せることができない。

 だから、私は常に自分の有利な状況を自分で作り出す。

 そう教えられている。

 深く、息を吐く。

 私を見定めている鰐。

 ああ、ああ。

 湧き上がってくる不安を抑えつけながら。

 陸で溺れそうになりながら。

 私は静かに、相手が動くのを待った。


 SIDE OUT

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