1:渡り
カレンダーの6月がめくられて、真新しいページへと移った日。
世間様が夏と呼ぶ季節。
太陽が働きすぎて、蝉が元気一杯になるかわりに、人間がしんなりとしてしまって。
誰も彼もがシャキッとする根性を溶かされてゆらゆらと歩きたくなるような。
クールビズで陽にさらしている肌が、日焼け止めごしにでもわかるほど焼けてしまうような、熱い暑い、夏のこと。
都会の何処かの立体交差点で、それは起きた。
信号が青になって、追われるように人が渡っていた。
道路は、水があふれるように人で埋め尽くされていった。
その、丁度真ん中にある交差された横断歩道の、交わる場所。
白いラインが消えている四角い菱形の、その中で。
突如として複数の人間が、姿を消したのだ。
神隠しが起こったのである。
それも白昼堂々と多くの目のある中で、だ。
しかし。
さらに異常な事態が起きた。
信号は点滅し赤になり、皆渡り切った道路を、車が走り抜けていく。
歩道を渡り切った彼らは、何事もなかったかのように、各々の目的地へと向かって、黙々と歩いていく。
誰もが。
事に気付かずに。
日常へと戻っていった。
非日常が、認められなかったのだ。
それは夏の暑さによる蜃気楼のせいだろうか。
それとも、ただ目の前で起きたことが白昼夢だとでも思ったのだろうか。
いくら考えたところで、水掛け論なのだけれど。
この日世界から、誰にも気づかれることなく、姿を消したという事実だけが。
たった一つの結論として、残った。