第93話:噛み合わない共闘
中央広場の白石を、漆黒の影と銀の刃が同時に切り裂いた。
アルフが放つ影の杭は、既に男を貫いたという結果を未来から引き寄せ、アズライトの羅飢王は、今この瞬間を削り取ることで成立させた絶大な圧力を伴って振り下ろされる。
白装束の男を挟み撃つ、回避不能の同時攻撃。
だが、その二つの暴力が交差する直前、空間そのものが悲鳴を上げるような不協和音が響き渡った。
逆行する二つの力
「……チッ、邪魔だ! どいてろ、アルフ!」
アズライトが叫ぶ。彼の放った斬撃は、アルフの影が通り抜けるはずの空間を、現在という時間に無理やり固定してしまった。
「お前こそ、俺の算段を狂わせるな。その場当たり的な資産運用が、市場全体を冷え込ませているんだよ」
アルフの影は、未来側へと踏み出す戦い方だ。世界が事象を確定させるよりも先に、結末を無理やりねじ込む。
対してアズライトは、崩壊しそうな現在を削り、自分という存在を限界まで研ぎ澄ますことで成立させる戦い方だ。
一方は時間を追い越し、一方は時間を凝縮する。
この相反する位相のズレが、味方であるはずの攻撃を互いに弾き、打ち消し合わせていた。アズライトが刃を振るえば、アルフの影が届くべき未来の座標が書き換えられ、アルフが影を伸ばせば、アズライトが依って立つ現在の均衡が崩れる。
強い。個々の戦力は間違いなく白装束を圧倒している。
だが、同時に動けば動くほど、互いの行動が干渉し、致命的な滞りを生んでいた。
修正対象の不協和音
「……滑稽ですね。理から外れた者同士、その存在の歪みが互いを拒絶している」
白装束の男は、一歩も動かずに二人を眺めていた。
彼らが放つ攻撃は、男に届く前に「因果の衝突」によって霧散していく。
「あなた方の力は、この世界の帳簿には載らない。だからこそ、互いの計算を合わせる術も持っていない。噛み合わない歯車は、ただ自らを摩耗させるだけです」
男が再び手を掲げる。その掌には、先ほどよりも巨大な、無の渦が形成されていく。
「アズライト、その機械的な呼吸を止めろ。お前の一定すぎるリズムが、こちらの予測を容易にさせている」
「うるせえ! このリズムを崩した瞬間、俺は中から弾け飛ぶんだよ。お前の理屈に付き合って、心中するつもりはねえぞ!」
アズライトの剣筋が、苛立ちと共に荒くなる。その度に、アルフが仕掛けようとした影の伏線が、無意味なものへと書き換えられていく。
歪んだ均衡
「……ニコ、カレン。あいつのフォローに回れ。俺は、アズライトの削り取った残骸を担保にして、無理やり商談を成立させる」
アルフの瞳に、冷徹な損得勘定が宿る。
連携ができないのなら、相手の失敗さえも利用して利益に変える。それが田中豪のやり方だ。




