第77話:もう会うことはないだろ....
強襲、白装束の聖域
霧の向こうへ消えていくアルフたちの背中を見送った後、ピーターは隣に立つハルトへ向き直った。その瞳には、先ほどまでの師としての顔はなく、すべてを終わらせようとする破壊者の冷徹さが宿っている。
「ハルト、場所はわかっているな。あいつらの根城、座標零だ。頼むぜ」
ピーターがハルトの肩に手を回した瞬間、二人の周囲の空間がひび割れるように歪んだ。次の刹那、彼らが立っていたのは、純白の石材で築かれた巨大な尖塔の前であった。そこは、世界を裏から操り、因果を正そうとする白装束たちの総本山。
「本来なら、ここはアルフとアズライトが協力して、幾多の苦難の末に辿り着き、倒すべき場所なんだがな」
ピーターはアズライトの聖剣を抜き放ち、無造作に正門へと歩み寄った。
「ルカさんを殺した。それは俺の商談にはない損失だ。やむを得ないだろう。お前らが殺した理由は、どうせ神だの運命だのといった、退屈な理屈なんだろうが。もういいや、この世界に用はないしな」
孤独の群衆
侵入者を排除すべく、奥底から白装束の精鋭たちが溢れ出してきた。彼らは一国の軍隊に匹敵する異能を操り、空間そのものを切り裂くような術式をピーターへと叩きつける。
「不遜な異物め、ここで因果の塵となれ!」
手練れたちの絶叫に対し、ピーターはただ静かに、内なる魔力を解き放った。
「少しだけ、本気を出してやるよ。孤独の群衆」
その瞬間、ピーターの背後から圧倒的な出力の黒い魔力が噴き出した。それは凝縮され、巨大な影となって立ち上がる。現れたのは、かつてアルフが暴走した時に見せた姿と瓜二つの、漆黒の巨人であった。
圧倒的な威圧感に、白装束たちは恐怖に顔を歪め、呪詛のような言葉を吐き捨てた。
「トリビコザル! 忌まわしき、トリビコザルが!」
巨人の一振りが空間ごと白装束たちを薙ぎ払う。防御魔法も、異能の盾も、その暴力的なまでの出力の前では紙切れ同然であった。白装束たちは反撃の機会すら与えられず、ただの肉塊へと変わっていく。
「トリビコザル、トリビコザルって。相変わらずの差別主義者どもめ」
ピーターは血の海の中を、退屈そうに歩き進む。
「闇の住人だから何だって言うんだ。もう孫とかその下の代だぞ。今の奴らは何も悪いことしてないのにな。トリビコザル。本来の意味は、闇の住人。光に背を向けた者じゃない。光に焼き捨てられた者たちの末裔だろうが。歴史を捻じ曲げてまで、自分たちの正義を守りたいかよ」
境界への対話
最奥の間に辿り着いたピーターの前には、この世界の因果を根底から消し飛ばしかねない新化学兵器、超自然爆弾が鎮座していた。これを発動させれば、この世界における彼らの足跡はすべて消滅する。
ピーターは爆弾に手をかけ、最後にハルトを見やった。
「ハルト。俺はここで死ねば、また次の輪廻へループするだけだ。だが、お前は違う。お前はこの世界の住人だ。この先、俺について来れば、二度と元の運命には戻れない」
ピーターの問いかけ。それは、共に世界の理を外れるかという、究極の選択。
「行くか?」
ハルトは何も言わなかった。ただ、静かにピーターの隣に並び、その歩みに合わせるように前を見据えた。言葉など必要のない、明確な肯定。
「そうか。最後までありがとな」
ピーターは自嘲気味に、しかしどこか晴れやかな笑みを浮かべ、起爆スイッチに指をかけた。
「目指すはAルート。もうそろそろ、このループも限界のはずだ。次は、もっとマシな商談ができるといいんだがな」
白い光が視界を埋め尽くし、爆音さえも置き去りにして、二人の影はこの世界から消失した。
残されたのは、崩壊する聖域と、新しい因果へと旅立った少年たちの、見えない轍だけであった。




