49話 アレってさ、たまに食べたくなるよね
ルビーナの冷たい警告に対し、ピーターは不敵な笑みを浮かべた。
「さて、ルビーナ・グレイアムさん。君の忠誠心、見せてくれるかな? 勝負、だぜ?」
ピーターはそう言い放つと、アルフには聞こえないほどの極小の声で、隣のハルトの耳元に何かを囁いた。
ハルトは無表情のまま、ピーターの言葉に応じるように、そっとピーターの肩に手を置く。
空間がわずかに揺らいだ、次の瞬間――
ピーター・ブレットと、白髪の少年ハルトの二人は、その場から跡形もなく消え失せていた。
「なっ! 貴様!」
ルビーナは驚愕に目を見開いた。彼女の『追跡』スキルをもってしても、二人の魔力残滓は完全に途絶。彼らは、空間転送によって逃走したのだ。
しかし、ピーターは、彼らの実験体であるアルフを、その場に置き去りにしていった。
アルフは、自分の裸の上半身と、周りの厳しい視線に晒されながら、憤慨して空中に向かって叫んだ。
「ちょっと待て! 散々連れ回しておいて、何がしたいんだ、あの野郎は! 意味分かんねぇよ!」
ルビーナはすぐさま怒りをアルフに向けた。彼女の目的は、ピーターを捕らえることと、王族献上品を確保することだ。アルフは、その両方に関わる最重要参考人であり、捕獲対象だ。
「貴様! 動くな!」
ルビーナはアルフに鋭く警告すると、脇にいた衛兵に指示を出した。「その少年を拘束しろ! 王族献上品はどこだ!」
衛兵がアルフに向かって剣を構え、じりじりと距離を詰める。アルフは、このB級の獣人と衛兵たち相手に、今の非力な体では勝ち目がないことを即座に悟った。彼はカレンを置いてきた隠れ家へ逃げ帰るため、ピーターが消えた空間を探ろうとした、その刹那。
「あ、まだいたんだ」
間の抜けた声が、彼らの頭上から降ってきた。
ルビーナも衛兵も、そしてアルフも、驚いて空を見上げた。
崩壊した建物の屋根の上に、ピーター・ブレットが、ハルトと共に立っていた。ピーターはなぜか、右手にご当地の素朴な菓子である南部せんべいを持ち、それを片手にポリポリと食べながら、彼らを見下ろしている。
ピーターはせんべいを一口かじり、ボロボロと破片を下に落としながら、ルビーナに不敵な笑みを向けた。彼の行動の意図は不明だが、ルビーナがアルフを拘束する直前の、最も効果的なタイミングで舞い戻ってきたのだ。




