43話 大丈夫だ、問題ない
「やめろ、ピーター!!」
アルフの理性は完全に崩壊した。彼はピーターの背中に飛びつき、その体に全体重をかけて刀を止めようと怒号を上げた。
「貴様、何を企んでいる! 命を救うと言っただろうが!」
ピーターは、アルフの抵抗を軽く受け止めながら、いつもの調子で言った。
「わー、落ち着けって、アルフ。君の顔、血走りすぎて怖いんだけど。力を緩めろって」
しかし、アルフはピーターの言葉に耳を貸さない。彼の目には血が上り、力を一切緩めない。
ピーターは、アルフの頭脳的な判断力を評価しているからこそ、無理に力を振るいたくなかったが、カレンの命のタイムリミットを優先した。彼はアルフを振り払うことなく、そのままの姿勢で、叫んだ。
「羅飢王!」
ピーターの叫びと共に、部屋の外の窓、そして部屋に置かれた鏡や反射する金属から、光が一点に収束し始めた。その光は、まるで無数の細い糸のように集まり、ピーターがカレンの背中に向けている、アズライトの刀身に集中した。
刀身は瞬く間に白く輝き、その刀身に集まった光を、ピーターはカレンの背中の火傷めがけて、斬りつけるのではなく、慎重に、優しく滑らせた。
チィィ……という微かな音が響き、カレンの焼けただれた背中に、刀身から凝縮された光が照射された。
次の瞬間、アルフは目を疑った。光が当たったカレンの皮膚の広範囲の熱傷が、即座に修復され始めたのだ。III度の火傷がみるみるうちに塞がり、白い光がカレンの背中を覆い尽くす。
アルフは、その光景を目の当たりにし、抵抗する腕の力を完全に緩めた。
ピーターはアルフを背中から降ろし、満足げに鼻を鳴らした。
「ほら、言っただろ? 病院に行かなくても治せるって」
ピーターは、使用済みの刀を再び頭の後ろの黒いモヤの中へしまい込むと、部屋の隅に置かれていた医療用の点滴の袋を二個手に取った。彼はその袋を、近くにあった空の容器に移し替えるため、袋を破いた。
「よし」
ピーターは、その点滴の水が入った容器に右手を浸し、目を閉じた。そして、左手でそっとカレンの焼けた背中に触れた。
アルフが呆然と見つめる中、容器に入っていた点滴の水が、音もなく、痕跡を残さず消滅した。
アルフは思わず息を飲んだ。アルフはすぐにカレンの容態を把握しようと、鑑定スキルを再発動した。
(なぜだ!? 完全に火傷は治ったのに、時間が変わらない!?)
彼は絶望的な気持ちになる。
【対象:カレン】
残された時間:およそ10分
が、次の瞬間、数値が動き始めた
残された時間: およそ15分 → およそ20分 → およそ30分
カレンの生命力が、ゆっくりと、しかし確実に、危機的状況から脱し、活発な状態へと回復していったのだ。
アルフは、ピーターの規格外の能力と、目の前で起こった出来事全てに、言葉を失っていた。カレンの命は、確かに救われた。




