37話 白い悪魔
ピーターがアズライトの胸元に、止めの一撃を放とうと拳を振りかざした、その瞬間――
彼は、その一撃を寸前で止めた。
ピーターは、無様に瓦礫に転がるアズライトを一瞥した後、アズライトの傍に転がっていたアズライトの長剣と、その鞘を拾い上げた。
ピーターは、その二つの剣の道具を、まるで自分の獲物であるかのように、器用に背中に回して背負った。
そして、地面に横たわる、意識不明のアルフとカレンの小さな体を、それぞれ両手で抱き上げた。カレンの焼けた背中に触れないよう、細心の注意を払いながら。
周囲の冒険者たちは、英雄を惨殺した獣人の次に何が起こるのか、恐怖で声も出せずに見守っている。
ピーターは、血まみれの瓦礫の中で、空に向かって、楽しげな、しかし明確な声で叫んだ。
「ハルト!!」
ピーターの呼びかけに応じるように、彼らの頭上の空間が、一瞬、水面のように揺らめいた。その揺らめきの中から、一人の白髪の少年が、音もなく姿を現した。少年はピーターと同じく無表情で、その瞳は、まるで遠い宇宙を見ているかのように、深く静かだった。
白髪の少年、ハルトは、ピーターやアズライトの惨状、そして街の破壊に全く興味を示さない。彼はただ、そこにいるピーターを見つめていた。
ピーターは、アルフとカレンを抱えたまま、ハルトに向かって、いつものふざけた調子で言った。
「頼むぜ」
ハルトは何も言わなかった。しかし、彼はその静かな眼差しをピーターに向けたまま、ピーターの緑色の獣耳がある肩に、そっと手を置いた。
白髪の少年の手が触れた瞬間、周囲の空間がわずかに揺らぎ、蜃気楼のように歪んだ。
その歪みが収束したとき、ピーター・ブレットと、彼が抱えていたアルフ、カレンの姿は、瓦礫の山から完全に消え失せていた。
現場に残されたのは、S級剣士アズライトの惨たらしい姿と、破壊し尽くされたオークション会場の残骸、そして、彼らの常識では理解し得ない、規格外の存在が関わったという、確かな証拠だけだった。




