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【朗報】ワイ元成金、最期に少女を救い異世界送りになった模様  作者: 限界まで足掻いた人生


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35話 善人と選別

ピーターは、地面に倒れたアズライトに馬乗りになり、冷たい笑みを浮かべたまま、執拗に拳を打ち込み続けた。その無慈悲な暴行は、S級剣士の顔を瞬く間に血まみれに変えていった。


この残虐な光景に、ついに周りの人間が耐えきれなくなる。


「やめろ!」


「なんてことをするんだ、貴様!」


アズライトに光を供給していた冒険者や市民たちが、憤怒の声を上げ、ピーターを止めようと駆け寄った。彼らにとって、アズライトは自分たちを巨人の脅威から救った「英雄」だった。


先陣を切って飛び出したのは、屈強な肉体を持つ元傭兵の男だった。


「この野郎!」


男がピーターの背中に手をかけようとした、その瞬間――


ズン、と空気が軋む。


男はピーターに触れることなく、まるで目に見えない壁に弾かれたかのように、吹き飛ばされて瓦礫に叩きつけられた。全身の骨が悲鳴を上げ、彼は二度と立ち上がれない。


「アズライト様、私がいま助けますから!」


次に飛び込んできたのは、女性の治癒魔術師だった。彼女はピーターに向かって治癒光線を浴びせ、動きを止めようとする。


その光線は、しかし、ピーターの全身を覆う緑色の魔力に触れた途端、熱を持つことなく霧散した。


ピーターは、女性に一瞥もくれず、左足の裏で地面を軽く蹴った。女性は突然胸を強く押さえつけられたような衝撃を受け、苦悶の表情を浮かべてその場に倒れ伏す。


この恐るべき見えない攻撃に、残りの人々は恐怖で足を止め、ピーターを取り囲むように距離を取った。


ピーターは、馬乗りになったまま、冷たい笑みで周囲を見渡した。


「ほーう。あんたたち、英雄様を助けたいんだね」


彼はアズライトへの暴行を止め、血に濡れた拳を軽く払った。


「俺は世界を何回も見てきたから分かるんだ。一人一人が、どれだけこの世界にとって価値があるのかを」


ピーターは、先ほど吹き飛ばした元傭兵の男を指差した。


「最初に飛んできた**『ゲイル・ストーン』**。あいつは強盗団を潰した英雄だが、その後、その強盗団の財宝を一人占めするために、親友だった仲間五人を口封じに殺しただろ?」


次に、女性魔術師を見つめた。


「二人目の治癒魔術師**『リサ・クレイ』**。あいつは孤児を救った聖女面だが、孤児院からの高額な治療費をせびり、金を払えない孤児を見捨てただろ?」


そして、失神させられた三人の若者たちを見下ろした。


「その後飛んできた三人の**『リオンたち』**。彼らは、自分の名誉のために嘘の救援劇を仕組んで、人々の信頼を金に変えてただろ?」


ピーターの恐るべき暴露に、周囲は静まり返る。誰もが真偽を測りかねているが、当人たちは冷や汗を流して動けない。


しかし、その中で、一人だけ、ピーターの攻撃が完全に素通りした人物がいた。


それは、貧相な身なりをした、年老いたパン職人の男だった。男が手に持った木の麺棒を振り上げ、ピーターの頭めがけて思い切り叩きつけた。


キンッ!


硬い打撃音が響いたが、ピーターの頭に触れた途端、麺棒が木っ端微塵に砕け散った。ピーターは微動だにせず、麺棒が砕けた音にも驚かず、そのパン職人を振り返った。


パン職人の男は、その衝撃と目の前の超常現象に、恐怖でその場に腰を抜かしてしまった。


「へぇ、あんた、面白いね」


ピーターは、ルカ・モレノと呼ばれるその男をにやけ顔で見つめた。


「ルカ・モレノさん。あんたは、この町で生まれ、妻に先立たれても、店を潰さず、毎日欠かさず貧民にタダでパンの耳を配り続けてる。この世界にとって、あんたほど優しい光はない」


ピーターは、顔の皮肉な笑みを消し、その瞳に深い哀しみを浮かべた。


「ったく……あなたのような優しい人が、もっと増えて欲しいね。この世界には、本当に『善』の数が少なすぎる」


ピーターは、無言で再び血まみれのアズライトに視線を戻す。


「こんなもの、知りたくなくても、俺には見えてしまうんだ。お前たちの嘘も、善意も、全てね」

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