33話 暴走の鎮圧
ピーター・ブレットは憎悪の巨人の顔の前に立ち、にやけながらアズライトを挑発した。その瞬間、アルフの暴走する意識が、目の前の邪魔者を排除すべく反応する。
巨人の右腕が、再生した黒い皮膚を軋ませながら、驚異的な速度でピーター目掛けて振り下ろされた。カレンを抱く左腕は微動だにしないが、右腕の攻撃には憎悪が凝縮されていた。
「ゴアアアアア!」
しかし、ピーターは振り返りもしない。
「あーあ、だからおとなしくしてろって、www」
彼はそう言いながら、振り下ろされた巨人の腕を、左足のかかとで、まるで手で払うかのように、軽く蹴り上げた。
ドゴォン!
巨人の体が、その一撃で不自然に傾いだ。蹴り飛ばされたのは腕だけではない。巨人の全身を覆っていた、アルフの憎悪の象徴である黒い外装が、鱗のように剥がれ落ちていく。
黒いオーラが霧散し、その中心から、意識を失ったアルフが、カレンを抱いたまま、地面に激しく叩きつけられた。
周囲の冒険者たちは、S級剣士が苦戦した巨人が、一瞬で鎮圧された光景に言葉を失った。
アルフは瓦礫の中でピクリとも動かない。しかし、カレンは無事だった。彼女を抱きしめていたアルフの体と、剥がれ落ちた巨人の外装の硬質な残骸が、衝撃を吸収したのだ。
アズライトは、巨人の暴走が止まったのを確認すると、鋭い視線をピーターに向け、長剣を構え直した。彼の視線は、もはや街の破壊者ではなく、ピーターを捉えていた。
「これで巨人は消えた。しかし、私にはお前たち両名を始末する義務がある」
アズライトはアルフとカレン、そしてピーターを指し、冷たい声で続けた。
「その少年は、呪われた力で町に多大な被害を与え、多数の犠牲者を出した。そして、その少女は、非常に特殊な能力を持つため王族への献上品だ。貴様もろとも殺さなければならない。ただし、カレンは王族にお渡しする手筈になっている」
ピーターは両手を広げ、心底うんざりしたように首を振った。
「うわぁ、聞かれてもいないのに、よくそんな秘密をベラベラ話すね、アズライトさん。もしかして、友達がいないから、誰かと会話をしたくてたまらないのかい? www」
ピーターの挑発に、アズライトは剣の切っ先を下げ、嘲笑を浮かべた。
「哀れな道化が。私に挑む愚か者は、言葉で惑わそうとするしか能がない。お前のような底辺の獣人は、私の力を前にして、醜く足掻くことしかできないのだ」
「おっと、酷いなぁ」ピーターは肩をすくめた。
「君みたいに優秀で、父親のランダルさんが大商会で貿易の仕事を成功させ、母親のレイラさんが王宮の魔導具師に転職したのに、妹のリナちゃんが通う学校の教師とうまくいってないって立派な悩みを抱えてる人が、そんな中二病っぽい言葉を使うなんて、私悲しいわぁ」
アズライトの表情が、一瞬にして凍りついた。彼の瞳から、感情が抜け落ちる。ピーターが口にしたのは、アズライトの家族と彼しか知らない、最も個人的な情報だった。彼の顔に、冷や汗が流れ落ちるのが、遠目にも見て取れた。
「貴様……どこで、その情報を……」アズライトの声が、怒りで低く唸った。
ピーターはさらに楽しげに、緑色の獣耳をひくつかせた。
「あれ? 隠し事? 寂しいって言ったじゃん。ちなみに、君がS級になれたのは、あの『神速』スキルが、実は珍しい能力ではなく神からの加―――」
「黙れッ!」
アズライトは、ピーターの言葉が秘密の核心に触れた瞬間、言葉による対話を拒否した。彼は長剣を閃かせ、音速を超えた斬撃をピーター目掛けて放った。




