24話 30分の宣告と、最後の投資
アルフは、意識を失い、背中に重度の火傷を負ったカレンの体を抱きしめたまま、その場で硬直した。
「カレン……なぜ……俺を、かばったんだ……」
炎の熱と激痛から免れたのは、妹の命を代償にした結果だった。彼は、カレンを守るために金と知恵と命を懸けてダンジョンに潜り、最高のスキルを手に入れようとした。しかし、その全てが間に合わず、結局、最も無力で小さな存在に守られるという、最悪の結末を迎えた。
(馬鹿げている。俺は、何のためにこの金を手に入れた? 何のために生き残った? 全てを失うために、俺は二度も生きたのか?)
自己嫌悪が、アルフの全身を蝕んだ。過去の田中豪がリリアを救えなかった時と同じ、いや、それ以上の無力感が、彼の魂を押し潰す。
周囲の護衛たちの声が、遠い雑音のように聞こえる。
「さあ、ガキ。諦めろ。今すぐその女と金を置いて、投降しろ」ジェイクが静かに剣を構えた。
アルフは顔を上げた。その顔は、痛みと絶望で歪んでいたが、彼は感情を切り離し、冷徹な成金王の頭脳を無理やり起動させた。感情に溺れている時間は、もうない。
彼は震える指で、カレンの背中に触れながら、静かに、しかし明確にスキルを発動した。
「『鑑定』」
【対象:カレン】
状態: 重度の熱傷(III度)。皮膚の広範囲損傷。
生命力: 極限。魔力反応なし。
必須処置: 高度な治癒魔法、あるいはA級ポーションによる即時治療。
残された時間:およそ30分。
「……30分」
アルフの口から、冷たい息が漏れた。オークション会場の地下深く。A級魔法使いのロザリアはいるが、彼女は治癒魔法の使い手ではない。外に出て、A級以上の治癒師を探し、治療を行うための猶予は、わずか30分しかない。
アルフの瞳に、絶望の炎が宿った。
(ふざけるな。たった30分で、俺の全てを奪おうというのか、この世界は!)
それは、もはや護衛たち個人に向けられた怒りではなかった。絶対的な力を持つ者だけが生き残ることを強要し、無力な者を容赦なく踏みにじる、この世界そのものへの激しい憎悪だった。
アルフは、カレンをしっかりと抱きしめ直すと、床に転がっていた金貨の袋、そして『権能石』の入った木箱を、一瞬で拾い上げた。
彼の心の中では、一つの狂気的な計算が成立していた。
金貨、権能石、そして命。アルフに残された全資産を、この30分に全て投資する。
彼は顔を上げ、冷酷な笑みを護衛たちに向けた。
「投降しろだと? 笑わせるな」




