18話 脱出の総決算と、ロック・ゴブリンの復讐
アルフは第二階層の階段を、息を切らしながら駆け上がった。金貨の入った袋は重く、貧弱な少年の体力を激しく消耗させる。
「はぁ、はぁ……金は重い……! でも、この重さが、カレンの未来だ!」
彼の背後からは、第二階層全体が揺れるほどのシャドウ・ストーカーの激しい足音が追いかけてくる。迷宮の魔物は、縄張りを侵した者を決して許さない。
第一階層への階段を登りきると、アルフはすぐに持っていた最後の**「煙幕弾」**を階段に向けて投げつけた。煙幕は階段の吹き抜けを瞬時に覆い隠し、ストーカーの追撃を一瞬遅らせる。
(ストーカーは搁め手に耐性があるが、この狭い階段では、煙幕による視界の妨害は有効なはずだ!)
アルフは休まず、ロック・ゴブリンと対峙した通路へと戻った。催涙薬で悶絶させていたはずのゴブリンは、すでに目を覚まし、怒り狂った様子で棍棒を振り回している。
「ウォオオオ! 人間、許さない!」
ロック・ゴブリンは、アルフの姿を認めると、憎悪に満ちた咆哮を上げた。アルフは、このゴブリンと正面から戦う気は毛頭ない。彼の目標は、突破、ただ一つだ。
「悪いな、二度手間だ!」
アルフは再びゴブリンの注意を逸らすため、金貨袋を抱えたまま、最後の小型爆薬を岩の壁に叩きつけた。爆発音でゴブリンが一瞬耳を塞いだ隙に、アルフは通路の壁を蹴り、ゴブリンの巨大な脇の下を滑り抜けた。
(残るは出口まで! 罠は……『鑑定』!)
アルフは走りながら、第一階層の通路の壁に仕掛けた座標の印と、頭の中に焼き付けた罠の配置を確認する。空間の歪みが発生する場所、そして、一箇所だけ解除せず残しておいた簡単な落とし穴の罠。
彼は計算通りのルートを走り、ロック・ゴブリンは怒りに任せてそのアルフの背中を追った。
そして、ゴブリンはアルフが直前に飛び越えた、解除されていない落とし穴の罠を踏み抜いた。
「グアァアアア!!」
巨大な体が落とし穴に嵌り、ゴブリンは激しい怒りの雄叫びを上げた。その時間は数秒だが、アルフにとっては十分だった。
彼は地下水路への出口へと飛び出し、全速力で貧民街の方向へと走った。
迷宮の入り口から遠ざかるにつれて、背後の魔物たちの咆哮は遠のいていく。アルフは、貧民街の悪臭と、冷たい外の空気を感じながら、ついに立ち止まった。
彼はその場で膝を突き、激しい呼吸を繰り返した。
「はぁ、はぁ……やった……。生きて、帰ったぞ……!」
アルフは金貨の詰まった袋を抱きしめ、そして、もう一つの獲物である、**『権能石』と『古びた本』**が入った木箱を確認した。
全財産を投じたこの博打は、見事に成功した。彼は金貨約100枚分、そして後天的スキル獲得の権利、さらには謎の古文書という、予想をはるかに超える対価を手に入れたのだ。
夜明け前の薄暗い空を見上げ、アルフは勝利の喜びと共に、カレンの待つ家へと向かった。




