11話 A級の壁と、成金王の軍備拡張
アルフは『古の迷宮』の情報を手に入れた後、まずは冒険者ギルドを訪れた。彼の目的は、貯めた銀貨90枚を使って、ダンジョン攻略の仲間を雇うことだ。
彼はギルドの依頼掲示板で、傭兵のランクと相場を確認し、絶望に打ちのめされた。彼の持つ銀貨90枚で雇えるのは、せいぜい街の雑用や護衛しかできないE級の駆け出し冒険者か、もしくは貧民街から来たD級のゴロツキ程度だった。
さらに、彼は『古の迷宮』が通常のダンジョンとは一線を画す場所であることを知る。ギルドの職員は顔を青ざめさせながら告げた。
「裏のダンジョン? あそこは開拓者がいないため、入場料や手続きは一切不要ですが、内部の危険度は最低でもAランク、奥はSランクに匹敵すると言われています。これまでに挑んだパーティーは、全員消息不明です」
アルフは戦慄した。Aランクの危険度を乗り越えるには、最低でもA級冒険者5人、Sランク級の領域に挑むならS級冒険者3人が必要とされる。そして、そんな人材を雇うのに必要な金は、彼の全財産どころか、金貨数百枚でも到底足りない。彼の持つ銀貨90枚は、彼らの一日の食費にも満たない額なのだ。
(くそっ! やはり、この世界は金と力が全てだ。力がない今の俺には、金を積むことすら許されないのか!)
アルフの目の前にあるのは、カレンを守るための**『後天的スキル』を手に入れるか、カレンと共に『古の迷宮』**で死ぬか、という極端な二択だった。彼は迷わず、一攫千金を狙う方を選んだ。これは博打だ。しかし、彼にはそれしか選択肢がない。
「仲間は雇えない。ならば、金で己の命を買うしかない」
アルフは、銀貨90枚のほとんどを、アイテムの購入と自作に投じることを決意した。彼は、前世で培った「効率的な投資」の頭脳をフル回転させた。
貧民街の裏の薬師から、睡眠薬の材料を安く買い叩き、『鑑定』で価値を見定めた金属片を加工屋に持ち込んで、小型の罠を大量に作らせた。さらに、リチャードから情報を聞き出すために、上質なワインを密輸ルートから仕入れる。
彼は、己の命運を賭けたこの「ダンジョン攻略」を、まるで前の世界での新規事業の立ち上げのように捉えていた。仲間という人的資源がないのなら、**物的な資源**で全てを補う。それが、成金王の選んだ道だった。




