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真っ白なスイートピー

作者: 空藤胡蝶

 私には、忘れられない人がいる。もう十年近く前に別れたっきり会ってない人。

会いたいかって聞かれたら会いたいって答える。けど、すぐにやっぱり会いたくないって思う。もう、月日がたち過ぎた。お互いに変わりすぎて例え街ですれ違ったとしても気づかないかもしれない。


 両想いだって知ったのは、私が転校する一週間位前だったように思う。聡いあいつの事だから気づいてたのかもしれないけど、私は思いを告げないまま引っ越そうとしてた。でも、友達がせっかくだからって強引に…帰り道にあるあいつの家まで軽く追いかけっこをしたあげく友達が伝えた私の気持ち。


 返事なんて期待してなかった。絶対に断られるって思ってた。


 次の日、登校班は同じなはずなのにその時どうだったかなんてもう私の頭は覚えてなくて…ただ学校に着いてから「1人で読め。」って紙を貰って…すぐにトイレの個室に入って紙を開いた。


『おれも好きだ。』


どうしていいか分からなかったから逃げた、みたいなことも書いてあった。その後、別に付き合ったわけじゃない。ただ最後の日に餞別もらった。貰えるなんて思わなかったから本当に驚いた。紫色のドクターグリップ。今も実家の私の筆箱に入ってるはずだ。


 連絡先も貰ったけど、引越した後、私は連絡しなかった。なんて言えばいいか分からなかったから。ただ連絡してたら私の運命は変わっていたのかもしれない。


「なんてね。」


ふ、とした時あいつのことを思い出してはそう思う。でもそれは最近読んだ本の言葉を借りるなら戯言、だ。だいたい私の物事に対する考え方も、好きになる男子の基準も、全てあいつなのに。あいつだと思い込んでいる自分が居ることを自覚しているのに…なんて傑作なんだろうか。自分から無い糸に囚われてからまって。


 そもそもなんであんなやつ好きになったんだろう?


 一匹狼で、自称嘘吐き。その上人を見透かしたような目でしょっちゅう人の揚げ足はとるわ、見下して馬鹿にしてくるわ…記憶に残ったあいつはそんな感じで。ただ意志のこもったあの瞳が忘れられなくて、ちょっとした時に見せるどこか憂いを帯びた表情が気がかりで。

 きっと未だにあいつのことが気になるのは中学受験を凄く嫌がってたのに結局受かったってことを人づてに聞いたから。でもどこに受かったのかまでは知らなくて。一方的にライバル視されてた身としては当然気になるところだ。そう自分に言い聞かせながら過ごしてきた。




 だから、最初は驚いた。こっちにあいつが居たことにも、お互いにすぐ気付いたことにも。ガラガラと音を立ててそれまで考えていたことが消え去った。あいつは何も変わってなかった。否、見た目はそれなりに変わってた。そりゃ十年近く経ったんだから当たり前だけど。…瞳が変わってなかった。雰囲気もあの時のままだった。


「ひ、さしぶり。」


「おぅ。お前変わってねぇな。」


 そう言って笑った顔が懐かしくて。なんて言っていいか分からなくなってただただ見つめてた。


「ほんと、変わってない。」


言いながらあいつが近づいてくる。なんとなく動けないでいたら、ふっと耳に息をかけられた。そこで初めてスイッチが入ったみたいに私は動いた。耳を押さえながら反射的にあいつと距離をとると、昔もやられたその悪戯に、私は笑っている張本人を思いっきり睨みつける。


 すっとあいつの表情が真面目になった。


「俺は、今そこまでお前が好きじゃない。」


「だから何よ?」


 何となく、続きは分かってる。分かってるけど私はあいつと違って自信がないからそう返す。


「でも、きっとお前と結婚するんだろうな。」


だって楽だから、唯一無二のストッパーだから。


「あんたが言うんなら、そうなんじゃない。」


 予想通りの言葉、昔から私には決定権なんてないからつっけんどんにそう返す。きっと誰かに言ってもこんな話信じてもらえない。愛があるわけじゃない。恋してるかなんてどうでも良い。


        ただひたすらに、唯一無二の相手だから-



読んでくださりありがとうございました。中途半端な終わりだと思われるかも知れませんが彼女たちはこれで良いのだと信じています。

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