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諦め 怒り 憎しみ

 ナラカミ収容所から救出された人々は面接の経験などない者達ばかりであったし、救い主を相手に面接とあってほとんどの人達はアルファガの思う以上に緊張していた。

 複数人での面接も可と伝えてはいたが、面接をする側のレベンドラとアネモネも面接内容について、アルファガと詳しい打ち合わせが出来ていない有様と来た。

 面接をする側も受ける側も準備不足という、なんともお粗末なのが実情だったのだが、それでも面接に意気揚々と挑む者も居た。


「アルファガ様がいきなり面接と言い出すものですから、準備らしい準備も出来ておりませんが、望んで受ける者が居るとは少々意外でしたね」


 面接会場としたバルコニーで手すりと青空を背に、椅子に腰かけたアネモネが左隣に鎮座するアルファガに素直な感情を伝えていた。

 事前に打ち合わせをしておけ、という嫌味に反対側に座るレベンドラがムッとした顔になったが、アネモネ同様、事前に一言欲しかったのは事実だったので口を尖らせるだけに留める。


「遠慮のない物言いをされるのは新鮮だな。意欲のある者が居るのは良い事だが、動機は復讐心かと勘繰るのは、邪推が過ぎるか?」


 答えたのはレベンドラだ。このソルポートに居る人類で、アネモネだけがアルファガの救済を受けていない為、同じ境遇のレベンドラの方が言葉の説得力は上だろう。


「いいえ、十分に可能性はあります。あのような目に遭わせた者達への復讐心は、私を含めてあの収容所に居た誰もが抱いてもおかしくない。いえ、誰もが抱えているものです。

 私はアルファガ様の作られる竜に統治された世界を夢見て、忠誠を誓っておりますが、それでも復讐心や憎悪を忘れているわけではありません。

 せめて私と同じように、復讐よりも優先するべきものがあるのならよいのですが、実際に話してみて、考えを見極めるのが肝要かと」


「つまるところはそれに尽きるか」


 もうすぐそこまで面接相手は来ているのだし、あれこれと言っても仕方がない、とアルファガが意識を切り替えたところで、城内から言い争いながら近づいてくる声が聞こえてきた。

 なんとも元気な、悪く言えば騒々しい男女の声だ。どちらもまだ二十歳にもなっていないだろう。救助した人々の中で真っ先にアルファガとの面接を希望した二人なのだが……


「俺の方が先に面接を希望したってのに」


 針金みたいにツンツンとした赤毛の少年と、翡翠色の髪を左右で結んで垂らした少女だ。

 少年の方はややぶすっとした表情を浮かべていて、少女はというと肩を怒らせて不機嫌そうな雰囲気を四方に振り撒いている。

 ここに来るまでの間にも騒がしく言い合ってきたのだろう。それを飽きることなくこの場にまで続けているらしい。よくもまあ、喉が枯れなかったものだ。


「またその話を蒸し返すつもり? 本当なら私が一番だったのを、アンタがしつこく主張するから、二人同時ってことで妥協してあげたのに」


「逆だろう。俺がお前に譲歩して最初に、ただし二人同時って形になったんじゃねえか。都合よく記憶を書き換えるなよ」


 どうやら面接の順番を巡ってお互いに不満と意見の相違があるらしい。遠慮のない意見を交わし合える仲、と捉えるのは楽観が過ぎるだろう。


「そっくりそのまま、その言葉を返すわ。せっかくアルファガ様に一番にお目通りして覚えていただく機会だっていうのに、予定が狂っちゃったわ」


「俺もおんなじ意見だよ。同じ考えだからこうなったってわけか。なあ、お互い気に入らないところはあるけどさ、罵り合うような真似だけはよそうぜ。

 アルファガさんを前にして、それはいくらなんでも格好悪いし、恩人をこんな奴らを助けたのかってがっかりさせたくねえ」


 少年の妥協や譲歩ではなく、譲れない一線だった。

 人間によって理不尽な運命に叩き落された自分達を救ってくれた相手に、救う価値はなかったと落胆させてしまうのは、この上なく心苦しい。

 自分達が失望されることが苦しいのではない。自分達を救ってくれた竜に後悔を抱かせてしまうことが苦しいのだ。


「まったく、嫌んなるわね。私も同じ意見よ。救い主に対して、みっともない姿を見せるのだけは避けたいわ。

 余りに大きな恩を受けて、それを一欠けらも返せない内に落胆させるなんて、私達に価値が無いって自分で宣言するようなものよ。

 あんな場所で屑共のおもちゃにされて、ゴミにも劣る存在に貶められていた私達が、この上、自分で自分の価値を下げるなんてあまりに馬鹿げている。アルファガ様に対しても失礼よ」


「そうか。そういう考えなら安心したよ。……ところでさ」


「なに?」


「緊張をほぐすいい方法を知らないか?」


「私の方が聞きたいわよ! なにかへましたらどうしようって、心臓が口から飛び出そうなの! 分かる!?」


「いや、分かるよ? 俺だってそうなんだぜ? 面接とか急に言われて、緊張していない人は誰も居ねえって」


「はあ、深呼吸でもして落ち着くくらいしかないでしょ。簡単な自己紹介と話をするくらいって、アルファガ様は仰っていたし、なにか言いたい事でもない限りは緊張するだけ損なのかもしれないけど……」


 そして幸か不幸か二人はそろって言いたい事、どうしても主張したい事がある。だからこそ真っ先にアルファガとの面接を望んだのだから。

 言い合っている間も足を止めなかった二人は、面接会場に指定されたバルコニーへとほどなくして到着する。


 バルコニーへと出る寸前、若干の躊躇が緊張と共に襲い掛かってきて、二人の足を止めさせたが、すぐに競い合うようにして足を進め、待ち構えるアルファガと遂に対面する。

 アルファガの両隣にはレベンドラとアネモネの姿があったが、二人の意識は正面のアルファガに引き付けられて、ほとんどアネモネ達を認識していなかった。


「よく来たな。二人とも、そこの椅子に座るといい」


 鷹揚なアルファガの言葉に従って、用意された椅子に腰かける。空は高く青く澄み渡り、峰々を渡って吹き込む風は身を切るほど冷たい筈が、カオスエーテルの恩恵で涼しく感じられる。


「ダイノとダナエだったな」


 アルファガの確認に赤髪の少年ダイノと翡翠色の髪の少女ダナエが揃って返事をする。


「はい!」


 まるであらかじめ打ち合わせていたように、二人は同時に答えたのだが、すぐにお互いの顔を見て睨み合う始末。仲が良いのか悪いのか。

 あらら、とレベンドラは心の中で困った声を出した。ま、見る限り微笑ましいで済む軽いものだ。取っ組み合いを始めない限りは、止める必要はないだろう。


「ここでの暮らしについては、もう少し過ごしてから尋ねるべきなのだろうな。それでレベンドラを通じて聞いているが、お前達は二人ともこのままソルポートに残り、俺に臣下として仕えることを希望している。間違いはないか?」


 真っ先に面接を希望しているのなら、すぐにでもソルポートを離れたいか、臣従を望むかのどちらかだろう。ダイノとダナエは二人とも後者だったわけだ。


「間違いありません。俺はアルファガ様の下で戦いたい。あんな目に遭うのは俺達だけで」十分だし、あんな真似をする連中をのさばらせておけねえ。貴方の下でもっと強くなって、無力な自分から変わりたい」


「またあんたが先に……。ふん。アルファガ様、私もこいつと同じように考えています。好き放題利用されたままなんて、納得が行きませんし、許せません。

 私の中で渦巻いている怒りと憎しみを正しく向けるべき相手を、貴方なら間違えずに教えてくれると、身勝手だと分かっているけれどそう信じているから。なにとぞ臣下としての臣従をお許しください。」


 アルファガを前にして少しは落ち着いたと思われたダイノとダナエだったが、二人とも椅子から立ち上がって、燃えるような熱意を言葉にして吐き出した。

 救い主相手とはいえ巨大な竜を前に臆す様子もなく、心の内を吐き出す二人をアネモネとレベンドラは止めなかった。

 アルファガがじっと聞き入っているのだから、止めるべきではない。


「義憤と怒り、憎悪か。俺にも理解の出来る話だ。お前達には復讐する権利があるだろうし、俺の臣下として活動する事がお前たちなりの復讐のやり方だというのなら、俺に異論はない。

 ただし俺の臣下になるというのなら、俺の方針には従ってもらうぞ。無差別な殺戮や無秩序な破壊は、俺の忌み嫌っている、そしてお前達を苛んだ瘴気を招く行為だ。それは肝に銘じておけ」


「俺だって誰彼構わず殺したいわけじゃない。ただ絶対に許せない奴らが出来た。出来ちまったって話なんです。あんな悪意が世の中にあるって身を以て思い知らされたら、もう俺は元には戻れない。

 いや、本当ならとっくに終わっていたんだ。それをアルファガ様のお陰でこうして自分で考えて、自分で動けるように戻して貰えた。

 絶対にありえない奇跡を、貴方は起こしてくれた。だったら、俺はその奇跡に賭けたい」


「高く評価されたものだな。俺は俺の為に行動しているだけだ。俺の為に世界を征服するし、俺の為に五大種族を始めとした諸々の種族を支配するし、支配も千年は続ける予定だ。

 後世では空前絶後の大悪党か世界一強欲な竜とでも語られるだろう。そんな奴の臣下になったら、お前達も根拠ない罵詈雑言を並べ立てられて、とてつもない汚名を残すかもしれんぞ?」


 それはアルファガからの忠告だった。歴史は積み重なり、今日まで続いている。百年前、五百年前、千年前の人物の評価が延々と語られることもある。

 アルファガによる千年竜帝国が実現し、そしていつかその統治が終わりを迎えた果てには、最初期の臣下となったダイノ達は多くの人々に様々な解釈で語られるに違いない。

 死後に被る汚名の可能性について言及するアルファガを、ダナエが食い掛るような瞳で睨んだ。


「私の名誉なんてどうでもいいの。肉を切り刻んで薬漬けにして、瘴気の実験に利用して人間じゃない怪物にする。こんな歴史を積み重ねてきた人間達の支配は終わらせるべきなの!

 これからはもうそんな真似は、大昔の話だって忘れられる歴史を積み重ねるべきだわ。人間にはできなかったのなら、貴方に委ねるしかない! 私も人間だったから、私ではきっと無理。

 アルファガ様、貴方が望んでもいない世界の支配という重荷を背負っていただく対価として、私は血の一滴、肉の一片まで貴方の作る新世界の為に使い尽くします。私の中のこの怒りと憎しみの炎が燃え続ける限り!」


「ふふ、俺も甘く見られたな」


「え?」


「人間の支配に世界の統治。どれも俺にとっては面倒なだけだ。重荷などであるものか。俺の臣下になるというのなら、もう少し俺を信用することを覚えろ。

 千年という月日はお前達にとってはあまりに長く、あまりに遠い月日かもしれないが、俺にとってはさして長くもない。俺はお前達が思っているほど、重圧など感じてはいない」


 慰めや見栄でもなく、アルファガは本気でそう考えているのだと、気負う様子が欠片も無い混沌竜にダイノもダナエも呆気に取られた顔を浮かべるのだった。

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