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9 夏休み様のお目覚めだ!①


「英玲奈様は夏休みのご予定はありますか?」


 終業式の日の朝。いつものように高見沢さんに話しかけられます。

 こうして向こうから積極的に話しかけてくれると嬉しいものです。

 

 今日の高見沢さんは、自分の取り巻きを連れていました。


 取り巻きその1 狩野舞子さん。

 取り巻きその2 吉岡春乃さん。

 漫画ではそのように描写されていますが、わたしにとっては大切なお友達です。


 お二人とも夏休みが待ち遠しい様子でした。


「とくにこれと言った予定はないですね。お父様が忙しくて、家族で予定を組むというのがなかなか難しいんです。学園のサマーパーティーに参加することは決まっているのですけど」


「そうなんですね」

「夏休みがあるのは子供だけですものね」

「とくに雪華院様は忙しそうです」


 三者三葉に反応します。


「お三方は、何か予定がありますか?」


 わたしは三人にまとめて会話をフリます。


「わたしは夏休みが始まってすぐに軽井沢の別荘に行く予定です。その後、グアムに向かいます」


 狩野さんが答えます。

 それを聞いた吉岡さんが目を輝かせます。


「わたしのお家もハワイだよ!」


「え! 本当? もしかしたら向こうで会えるかもしれませんわ!」


「わあ! 楽しみですわね!」


「ちょっと、恥ずかしい気もしますね」


 夏休みにグアムというのはあるあるなのでしょうか。

 実はわたし海外に行ったことがないのです。


 狩野さんと吉岡さんは予定が被ったことにテンションが上がっていました。

 お二人は親友といった雰囲気です。旅行の日程や、宿泊先などを確認して、本当に向こうで出会う可能性を考え始めました。



 盛り上がっているのはお二人だけではなく、教室は似たような雰囲気のクラスメイトたちでいっぱいです。

 みなさん初めての夏休みですからね。

 待ち遠しくてしょうがないといった様子でした。


「夏休みなんてアッと言う間に終わるわよ」


 大森さんは会話の隙間を縫うようにやって来ました。

 わたしと大森さんは、友達というより同志のような関係性になっています。


「ゲ」


 高見沢さんは大森さんの登場に、苦虫を噛み潰したような表情になりました。


「なに? そんな顔しなくたっていいじゃん」


「大森さんの夏休みを、ゲッと言う間に終わらせようと思いまして」


「相変わらず、変なセンスだね」


 お二人もすでに悪友といったような掛け合いが様になっていました。

 入学してから三か月が経過しましたが、みなさん特別な関係性を築き上げていました。

 みなさんは漫画の世界のモブではありません。

 一人一人意志を持った立派な人間なのです。


「一か月がアッという間に終わるわけないですわよ」

「ホントだって」

「……なんで経験者みたいな面していますの?」

「経験者っていうか、転生者?」

「はあ?」


 大森さんは自分が転生者であることを隠そうとはしません。

 

 度々見せる俯瞰的な視点からの言動はなんだか大人びたようにも思えますが、しかし、それ以上にちゃらんぽらんな言動も目立ちます。

 クラスメイトたちからの評価としては、学年でわたしに次ぐ学力を持っているのに、不思議ちゃんというなんとも歪な感じに見られています。

 おそらくこれは転生者あるあるでしょう。


 わたしもそうです。

 学園で一番のお嬢様なのに、モブであろうとする。


 わたしはモブであろうとするのに。

 みんなにはモブであってほしくない。

 

 自分でも歪だって自覚はあります。

 わたしの場合はその歪さを隠しているので、クラスメイトたちからの評価は上々。このままいけば、ざまぁ展開だけは回避できそうです。


「ねえねえ。英玲奈様。惺王様の夏休みのご予定など、ご存知ないですか?」


「惺王様もグアムだったりして! ばったり会っちゃたりして!」


 狩野さんと吉岡さんは、惺王さんの話題で盛り上がっていました。

 

「サロンで小耳にはさみましたよ。惺王さんはエーゲ海クルーズですって」


 わたしが質問に答えると、お二人ともポカンとしていました。

 気持ちは分かります。そもそもエーゲ海とはどこらへんなのでしょうか。

 

「エーゲ海はヨーロッパ。まあ、地中海ね」


 大森さんが補足してくれます。


「大森さんは博識ですね」

「流石、学年二位ですわ」


「やめてよ、一位が目の前にいるのに」


 大森さんは、親指でわたしを示します。

 わたしの前世の知識では、エーゲ海がどこにあるか分かりませんでした。

 学年が上がるにつれて、大森さんとわたしの順位は逆転するかもしれません。


「……夏休みはお勉強を頑張ろうかしら」


 ポツリと呟くと、みなさんドン引きしてしまいます。

 そんなに変なことを言ったつもりもないのですけど……。


「……キモ!」

「言い過ぎですわ!」


 大森さんの頭を、高見沢さんがすぱこーん! と叩きました。



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