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3 モブに目覚めてしまった。①

 

 英蘭学園初等部に入学しました。


 前世の知識としてあるような公立の小学校とは何もかも違いました。

 学園には戦前からの歴史があり、英蘭という名前に相応しくヨーロッパの大神殿のような外観に、生徒玄関にはシャングリラが輝いています。


 ながーい歴史はありますが、建物が古いというわけではありません。

 むしろ学園には最新の設備があります。

 全ての部屋にエアコンはもちろん、加湿器やウォーターサーバー標準装備されています。

 なんと冬には床暖房です。


 敷地内にはなんだってありました。

 室内プール、サッカー場、ドーム型の陸上競技場、野球場、コンサートホール、シアター、そして天文台があるのに、プラネタリウムまでありました。

 さらにはお花畑もあって、生徒玄関には立派な造花も飾られていました。


 わたしの知識では何に使うのか分からない施設もあります。

 都心にあるのにも関わらず敷地面積は広大です。

 現代的な施設と自然が調和した日本の若き才能を育てるこの学園は通称として、都のゆりかごと呼ばれていました。


 制服は卒業生の有名なデザイナーが手掛けた、ブレザータイプのものです。

 中等部、高等部の先輩方は金色の刺繍が入った白いブレザーに、女性はリボン、男性はネクタイを締めています。

 リボンのネクタイの色は、中等部、高等部で異なり、中等部はワインレッド、高等部はダークブルーです。


 わたしが今着ている初等部の制服ですが、紺色のブレザーになっています。

 リボンは水色。もちろん男性のネクタイも水色です。


 お部屋の鏡の前でクルっと一回転して、着こなしを確認してみます。


 英蘭学園の制服は『かわいいせいふく学校ランキング』で小学校一位、中学校一位、高校一位の常に三冠王です。『民草少女の成り上がり!』の主人公、長谷川日和さんも幼いころに見た英蘭学園の制服に一目惚れしたのが、英蘭のお受験をしたキッカケでもありました。


 長谷川さんにとって大切な制服は、執拗な嫌がらせによって何度も汚れてしまいます。

 学園の手洗い場で制服について汚れを落としている長谷川さんの背中を、ドラマでもアニメでも漫画でも、きっと前世のわたしは何度も何度も見たのでしょう。鮮明に脳裏によぎるのです。


「お嬢様。とても似合っております」


「とても可愛いです!」


 高橋さんと江藤さんが褒めてくれます。

 もちろん、お二人に褒めて貰わなくともこの制服がわたしにとても似合っていて、可愛いことなど分かっています。


「素材が良いので当然ですわ」


 制服に良い素材が使われているという意味の言葉ではなく、わたしの顔とスタイルが抜群だという自画自賛です。

 制服を有名デザイナーが作ったというだけでなく、わたしも有名な漫画家にキャラデザされているのですから!


 おほほほほほほ。


 お嬢様ジョーク(前世ジョーク?)はさておき、実際問題、有名なデザイナーが制作しているとされているこの制服は前世で『民草少女の成り上がり!』を書いていた漫画家さんがデザインしたものなのではないでしょうか? 

 世界の秘密に迫るということに興味はありませんが、少しだけ頭の片隅で考えてしまうこともあるのです。


 ペーパーテストで芥川賞うんぬんの問題が出されたことからも分かるように、この世界には芥川龍之介という小説家が存在し、芥川が書いた小説もあり、芥川賞という賞レースも存在しています。


 しかし『ワンピース』や『民草少女の成り上がり!』は存在していませんでした。


 この世界と前世の世界の違いについて、ひいてはわたしのこの世界での役割について、分からないこともたくさんあります。


 夜寝る前の自由な時間で、そんなことをぼーっと考えているうちに、前世の世界で売れに売れた『ワンピース』という漫画が、この世界には存在していないわけですから、今からわたしが『ワンピース』を描いてしまえば、漫画家として無双できるのではないかと、そんな小ズルいことを思いつきました。


 というわけで前世の記憶にある『ワンピース』を忘れないうちに落書き帳に書いていたのですが、シャンクスの腕がもげたあたりで、『ワンピース』を描くよりも、『民草少女の成り上がり!』のストーリーをメモして、自分の今後の人生に役立てるのが先なのではないかと考え直しました。

 わたしは『ワンピース』を描いていた落書き帳を閉じ、購入した秘密ノートに『民草少女の成り上がり!』のメモを描くなどして過ごしていました。


 とりあえずは、一年生編のストーリーを描き終えています。

 もちろん、秘密のノートは誰にも見られてはいけません。

 ノートの内容にはこれからさきの未来のことも書かれているのですから。


 秘密のノートの最初のページにはわたしの信条を箇条書きにしています。



1 長谷川さんを苛めない! できれば仲良くしたい!


2 今後に備えてお金を蓄える! 無駄遣いしないで、貯金する!


3 なるべく目立たないで過ごす! 漫画の神様に見つかりませんように。


4 品行方正にする! みなさんからの信頼を得て、ざまぁな展開にならないようにする。



 この四つを守ることで、バットエンド(漫画のストーリー的にはハッピーエンドですが)になってしまうのを防ぐという作戦です。

 

 漫画の神様に見つからない、とるにたらない存在になる。

 そうですね、言うなればモブです。わたしはモブになるのです。


 前世のわたしはモブですから、それを参考にしたらいけるはずです。


 鏡に写る自分の姿は、前世の記憶にある漫画悪役令嬢そのものです。

 しかし、わたしは自分の意思を持たない漫画のキャラではありません。

 現実を生きる、一人の人間です。


「鏡よ、鏡」


「お嬢様……?」

 

 どうか平穏な学園生活でありますように。

 悪役令嬢としての人生は、サヨナラです。

 わたしはモブとして過ごすのです。

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