11 夏休み様のお目覚めだ!③
「英玲奈、用意はできた?」
今日は学園のサマーパーティーです。
素敵なドレスに身を包んだお姉様が、部屋まで私を迎えに来てくれました。
「完璧ですわ!」
わたしとしては初めてのサマーパーティーですので、お姉様にエスコートしてもらう予定です。
お姉様は中等部の生徒ですが、リリーの中でも圧倒的な権力を有しているのでとても心強いですね。
「英玲奈は本当に可愛いね。髪飾りのお花は本物かしら?」
「はい! お母様がご用意してくれました」
むふふ。お姉様に褒められると、頬が緩んでしまいます。
ライトブルーのフロアドレスは、お店で見て一目惚れをし、購入したものです。わたしのネイビー混じりの黒髪に、とても似合うのです。
悪役令嬢ではありますが、黙っていれば儚げな印象のわたしです。
髪の毛はヘアサロンからスタイリストさんをお呼びしてセットしてもらいました。紫色の生花を挿せば、お姫様のような姿になることができます。
結局のところ、惺王さん以外の素敵な方と出会ってしまえば、物語が走り出してしまうことはないのです。
ということで、このサマーパーティーで素敵な方と出会うことを目標にしましょう!
「じゃあそろそろ行きましょう」
「はい!」
会場である学園近くのホテルまでは、高橋さんが送ってくれます。
今日はヒールのある可愛いサンダルを履いています。とても歩きにくい。
この歩きにくさが、ワクワク感を演出します。
前世の知識として、テーマパークでもそのような仕掛けがあると聞いたことがありました。
車がホテルに到着します。
わたしはお姉様にくっ付いて歩きました。
サマーパーティーの会場は、ホテルの一階のホールにあります。
サマーパーティーの会場には、すでに人がかなり集まっていた。
リリーの方々の他にも、様々なゲストが参加しています。夏休みに開催されるこのパーティーが同世代の若い才能が集まる最大の機会なのです。
ミニ・リリーであるわたしも、そんなゲストの一人です。
「……すごい」
こんなにたくさん人がいるパーティーも初めてです。
お姉様方の色とりどりのドレスで会場が彩られ、フォーマルなスーツを着こなしたお兄様方はまるで一人一人が王子様のようでした。
小学校一年生の視点で見ると、楽園に迷い込んだ感覚になります。
これがみんなが憧れるリリー・オブ・ザ・バレーのサマーパーティー。
……ちょっと物語が走り出しそうな雰囲気を感じますね。
もちろん、今まで雪華院の娘として様々なパーティーに参加しましたが、ここまで若く煌めくパーティーは記憶にありません。
おじ様、おば様に囲まれて、厳粛な雰囲気があるパーティーばかりでした。
会場にはビュッフェ形式でお料理も出されています。
テーブルと椅子があるので、しっかりと食事をしたい人はそこで食べるというスタイルなのでしょう。
会場を見る限り、立食みたいなことをやっている人はいませんでした。
ホールはお庭に面していて、出入り自由です。お庭は様々なお花のアーチで飾られています。
わたしとお姉様は一度ホールから出て、ガーデンのテラス席に座りました。
「もう疲れました!」
「あはは。人が多いからね」
元気いっぱいに疲れた言うと、お姉様は苦笑いを浮かべます。
「春音さん」
「智彦さん。ごきげんよう」
テラス席で座っていると、男性がお姉様に話かけてきました。
ナンパか! と警戒します。
お姉様のご様子を見るに、どうやら知り合いのようです。
「そちらの方は?」
「妹の英玲奈ですわ。英玲奈、こちらは学友の秋口智彦さん。ご挨拶しなさい」
「雪華院英玲奈ですわ。ごきげんよう」
「秋口智彦です」
なんだか素敵な雰囲気の殿方ですね。
わたしはお姉様と、智彦さんを交互に見ます。
むむむ。
物語が走り出している予感がします。