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第五十四世界。オン・センチと呼ばれる惑星に成り立ち、非常に鉱山資源が豊富な世界。
三十年前に併合したばかりの世界だ。
文化レベルはG-。とてもこの世界と併合出来るよう世界では無かった。
しかし最高事象予測者十二人が出した答えは誰もが予想しない事だった。
最高事象予測者に異を唱える者などいない。
半ば強制的に併合を行ったのだった。
なのでその世界の上層部はともかく一般人はとてもではないが、この世界の文化には馴染めるものではなかった。
起こるべくして起こった対立。それが今回の災害へと繋がる。
約十年前、大震災を予測した担当シュミレーターは適格な対応として地熱有効利用の施設建設を促しとだが、これにこの世界の一般人の大多数が断固として異を唱えた。
地熱を利用し震災にかかるエネルギーを発散させ震災を抑え、産業を発展させる計画だったのだがこれに理解をしめさない旧支配者層だった人間が有る事無い事でっち上げ民衆を陽動したのだ。
街角でこの国の旧野党勢力の人間が演説を行う姿をよく見かける。
それに賛同する一般市民も多数存在していた。
シュミレーターにも問題がある。
シュミレーターは指示を出すが、結果を示せない事も災いした。
これに関して言えば、そもそもこの世界にはこの統治はまだ早い過ぎたと言わざるを得ない。
ある一人の中年女性が被災予想地の街角で良く通る声で演説をしている。
「シュミレーターと呼ばれる人間はこの自然豊かな地に地熱エネルギー施設を建設して、我々の財産を奪おうとしてるのです!。そしてそんな予算がが有るのならもっと子育てなどに予算を使うべきだ!。理由は災害対策などともっともらしい事を言ってますが、無駄な施設を許してはなりません!」
彼女は野党の国会議員だったが、五年前徐々におこなわれてゆく改革に地位を追われた者だった。
彼女はモデル上がりで政治家になったのだが、能力は高いとは言えなかった。
しかし、そのよく通る声が民衆には届いていたのだ。
このような建設反政府運動に対してシュミレーターはけして強硬な動きは見せなかった。
この世界の人間の信用を最も重要と考え、その自主性を尊重したからだ。
ただ、この世界の人間を今回の災害から見捨てたりはしない。コストは掛かるし経済成長も遅れるが、この程度の災害はすぐに解決できる。最善ではないが、次の手はある。
なので、エネルギー施設は建設されることもなく、災害発生地と予想される地域になんの対策も取らずにその日を迎える。前日は非常に気味が悪い夕焼けだった。
第五十四世界、オン・センチ。この世界のある地方のジシマと言われる町。災害予測された海辺町で有数の温泉の観光地だ。
景観は非常に風流でおもむきがあるのだが、そこには似つかわしくない高いビルが町の中央に建っていた。
反政府運動をする旧支配者層が政治活動の資金で建てた無駄に金がかかったビル。隣接して演説用の広い公園もあった。
その日も仕事を終え帰宅する人が行き交う普通の光景だった。
しかし、そんな平和も数分後には無くなる。
突然けたたましく響く端末に行き交う人々は足を止める。
次の瞬間、ドンというけたたましい音と共に視界が空転する。
突き上げられたような衝撃に人々は立つことすら許されなかった。
何が起こったのか解らなかった。
大地は揺れ、身を起こす事すら許されない。
彼方此方から聞こえてくる悲鳴と何かが壊れる衝撃音。今まで経験したことの無い衝撃。マグネチュード十のかつてない大地震だった。
「え、何、何!?」
現状が把握できない母親と娘。かつて感じた事のない恐怖。
その親子に倒壊する建物が倒れ掛かってきた。
母親は咄嗟に娘に覆いかぶさったが死は免れようもない様に思えた。
しかし、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。
母親は恐る恐る顔を上げる。
「へ?」
さっきまで街中を歩いていたはずだが、今いる場所は町の中央広場だった。
揺れは続いていたが、助かった事だけは解った。
周りを見たらたくさんの人がごった返していた。
「はいはーい。まだ揺れは続きますからね~。動かないで下さいね~。ここにいれば安全です」
そこには見た事のない軍服のような制服を着た女性が民衆を誘導するように声を掛けていた。ただあまり緊張してる様には見えない。
その落ち着き払った態度にさっきまであんなに高ぶっていた胸が少しづつ収まっていくのが解った。
その民衆の中には街角で演説していた旧政治家の女性とその組織の者もいた。
強い揺れがおさまるとその女性は誘導していた女性に食ってかかった。とても冷静には見えなかった。
「あなた達は誰ですか!さっきまで私はあのビルの中にいたのに何故ここにいるのですか!?。何が起こったのですか!?。説明してください!」
「私はそれに答える権限をもち合わせていません」
軍服の女性は落ち着き払いその女性に言葉を返した。
その態度が感に触ったのかその女性は騒ぎ出した。
「ここは安全なんですか?。貴方はここで何しているんか?。ちゃんと答えてください!?」
軍服の女性はもうその女性を相手にするこ事は無く、時空移動してくる住民を誘導するのだった。
「ちょっと!人の話聞いてます!?」
女がそう言った瞬間だった。
ずんと響く音。その後にバキバキと何かがきしむ音が聞こえてくる。
音の方向を見るとこの町の中央に建てられたビルがこちらに向けて倒れ掛かってくるのが見えた。
それでも軍服を着た女性は冷静に民衆を宥めていた。
「あ、あ!」
死の恐怖。さっきまで騒いでいた女性が腰を抜かしへたり込む。
ビルがまさに速度を上げて倒れて来ようとする瞬間、眩い光がビルを包む。
民衆はその光に目を覆った。
その場にいた民衆は誰もが悲惨な結果を思い描いたが、その衝撃は何時までたっても襲って来なかった。
光がおさまり誰もがビルがあった方向に目を向けた。
人々は何が起こったか全く理解できなかった。
倒れ掛かってきたビルが跡形もなく消えていたのだ。
その代わりに一人の男と少女がその場に立ていたのだった。
「少尉、今着いた。状況を説明を」
「ハッ。約百八十秒前に、マグネチュード十の災害が発生。住民の避難は時空移動により各所安全地帯に転送。終えております。また、重要施設は別部隊により保護が確認出来ています。後これより五分後に海岸線三百キロメートルに渡り高さ七十メートルの津波が到達するとの事です」
「津波の対処は?」
「少佐に連絡せよとしか」
男は頭をかき、隣に居た処女に話しかける。
「瑠奈、海岸線の見える場所に移動してくれ」
共に居た少女はその言葉に頷き、時空移動装置を操作する。
男と少女は前触れもなく消えてしまった。
残された少尉と呼ばれた女性は男の消えた空間に向かって敬礼し、民衆の誘導を行うのだった。
男が姿を現したのは海岸線に並行して走っている少し高くなった車道だった。
頭上には何基ものヘリコプターが飛んでいた。かなり旧式だ。よくあれで空を飛べている。
音が非常にうるさい。
恐らく被災地の報道に飛んでるのだろう。
海の方から波の音が聞こえてくる。
その音はどんどん大きくなってゆき、水嵩がみるみる内に上がるのが解った。
「瑠奈、対光フェイスマスクを」
少女は頷き腕にある装置のボタンを押すと、その真っ黒な仮面が覆いかぶさった。
「規模からすると出力はこれぐらいだな」
男は津波に向かって銃らしきものをかまえる。
「五、四、三・・・」
カウントダウンらしきものをつぶやく。
零と同時にあたりを眩い光が包み込んだ。
それは太陽が落ちて来たような事を錯覚させる光。
もう暗くなっていたのにも関わらず昼間よりも何倍も明るく、そして不自然なくらい静かだった。
光がおさまると、そこにはいつもと変わらぬ光景が広がっていた。
波の音も穏やかで、ついさっきまであんなに粗ぶっていた事が嘘のようだった。
「余震もしばらく続くだろう。時間は掛かるが災害復旧まで面倒をみてやろう」
男は少女にそう告げると、少女は男にしがみついてくる。
髪飾りも黒に近くなっていた。
恐らく怖かったのだろう。
男はしばらく少女にすまないと思いながら頭を撫でつづけた。
かなり強引な設定でした。
でもこの内容はこの日を外せませんでした。
阪神、淡路大震災に心より追悼いたします。
読んで貰えて有賀ございました。