行く末に乾杯
こちら「崩壊:スターレイル」の二次創作になります。
ピノコニーの開拓クエストクリア済み推奨です。
ブートヒルのストーリーを読んでいるとより楽しめます。
アベンチュリンとブートヒルが協力する過程を書いてみました。
「ああ、ありそう〜」程度で読んでみてください。
よろしくお願いします!
ピノコニー、ホテル・レバリーの一室にて、二人の男が一触即発の雰囲気を醸し出していた。
より正確に言うならば、一人の男とサイボーグだが、敢えて二人とする。サイボーグが背にしている扉の先には、カンパニーの警備兵が二人共倒れており、どう見ても尋常ではないことは一目瞭然だ。
ホテルの従業員は何をしているのかと思うが、一般従業員からすればこういった異常事態には大抵、関わりたくないと思い、「泥酔している客が廊下で寝ている」という事にするだろう。
つまり、誰も部屋を訪れることはないというわけだ。サイボーグは男に銃を向けながら、極めて真剣に言った。
「教えろ……オスワルド・シュナイダーはどこにいる」
対して、男は動じる事もなく、サイボーグを舐めるように見た後、淡々と話す。
「白髪に、鋼鉄の身体……なるほど、君が『ブートヒルさん』だね?」
「そういうてめぇは誰だ」
「ああ、失敬! 僕はアベンチュリン、君が散々襲いまくってた、しがないカンパニーの社員さ」
「ハッ! てめぇの地位なんざどうだっていい。ベイビーが……さっさと答えろ、オスワルド・シュナイダーはどこにいる!!」
ブートヒルは指先をトリガーに添え、アベンチュリンの心臓へ狙いをつけた。
しかし、アベンチュリンは冷ややかな目を向けたまま正直に答えた。
「知らないよ」
「ああ!? てめぇ、嘘は……言ってねえな。どういうことだ手短に話せ」
ブートヒルはアベンチュリンの目を見て、彼の発言に偽りが無いことを確信し、回答を促した。
「……その前に、銃を下ろしてくれないか? 一方的な殺人は、君たちの流儀に反するんじゃあないのかい?」
「オレたちは『巡海レンジャー』だ。命一つ奪うくらいどうってことねぇ……。けどまあ、銃を下ろして話が進むってんなら……いいぜ、聞いてやる。オレさまは寛大だからな!」
「ありがとう、君の星海のように広い心に感謝するよ」
ブートヒルはやっと銃を下ろし、俊敏な動作でホルスターへ収納した。それを見たアベンチュリンは内心でひと息吐くと、話し出す。
「まずオスワルドと僕達は部門が違うんだ」
「部門だあ?」
「オスワルドは『市場開拓部』所属で、僕が所属している部門は『戦略投資部』。『市場開拓部』はイカれた奴らが多いんじゃないかな? 何せ、オスワルドが『市場開拓部』の責任者だからね」
「――カンパニーの基地を襲撃してた割に……君、何も知らないんだね?」
「さっきも言ったが、てめぇらの事なんかどうだっていいからな。オレはただ仇を討ちてえ、アイツの土手っ腹に穴ァ開けてぇだけだ」
ブートヒルの目は復讐に燃えていた。その目に感化されたのか、アベンチュリンは微かに口角を上げ、自身の端末を操作し出した。
「ああ? 助けを呼ぼうとしてんのか? だったらてめぇから殺してやる、今すぐにだ!」
「はあ……貴重な情報源を殺してどうするのさ? 僕はただ君と賭けがしたくなっただけだよ」
ブートヒルの発言に呆れつつ、アベンチュリンは端末を彼に見せつけた。ブートヒルは思わず顔を画面に近づけ、じっと睨んだ。
「何だこれは」
「僕の連絡先さ、いやあ〜実は僕もオスワルドの行方を知りたくてねえ。君という“口実”ができて丁度よかったと思ってたんだ!」
「ほう……? そんで賭けってのは何なんだ?」
「僕がオスワルドを見つけるのが先か、君が痺れを切らして僕を殺すのが先か……賭けてみないかい? 当然、僕がベットするのは僕の命そのものだ」
「ホーリースウィート……てめぇもてめぇでイカれてやがんな。――いいぜ、乗ってやる!」
こうしてアベンチュリンとブートヒルは無事連絡先を交換し、一時休戦することとなった。
「そんで、これからどうする」
端末をしまったブートヒルはアベンチュリンに尋ねる。すると、アベンチュリンは部屋にあったペンを執り、メモ帳に何かを書き出した。
そして、不思議そうに見つめるブートヒルへ一枚の紙を手渡す。
「願いを叶える質屋の話は聞いたことがあるかい?」
「ねえな」
「どうやら暉長石号でそれが開かれるみたいなんだ。君は運が良いね、行ってくるといいんじゃないかな?」
「あん? あんたは行かねえのか?」
ブートヒルの問いに対し、アベンチュリンは肩を竦めながら言った。
「行かない。何せ、僕は休暇中だからね。プライベートに仕事は持ち込まない主義なんだ」
「大丈夫。今日を命日にするわけにはいかないから、できる限り協力するよ」
そして、二人はバスタブに身を沈め、夢の世界へダイブした。
ブートヒルは暉長石号へ乗り込み、アベンチュリンは程よく遊びつつ、彼からの連絡を待った。
「着いたぜ……!」
プールサイドを背に、ブートヒルは暉長石号の甲板に立っていた。彼はメモを頼りに昇降機を操作し、最下部へ降りた。
暉長石号の最下部は広い休憩スペースになっており、真ん中は楕円状にくり抜かれ、輪郭に沿うように橙色のソファーが敷かれている。そして、よりゲストが寛げるように楕円の中央部にはティーセット等を載せた白い長テーブルが配置されている。
しかし、ブートヒルは構わず、昇降機から見て左手前の部屋へ入室した。
「――いらっしゃい。ようこそ、ポーンショップ『ヒスイ』へ」
中には、蛇のような淑女が待っていた。
淑女はつばが広い、逆さリボンが付いた真っ黒な帽子を被っており、長い薄紫色の髪を上品に垂らし、こちらを見定めるかのように優雅に微笑んでいる。
蛇のようなというのは彼女が纏う気配そのもので、優しげな笑みに気を取られていると、こちらが咬まれてしまいそうだ。
(……この女、隙がねえ……)
その証拠にブートヒルはいきなり銃を向けることはせず、生唾ではなくオイルをごくりと飲みながら、慎重に聞いた。
「願いが叶う質屋ってのは、ここで合ってんのか?」
「叶うかどうかは定かではないけれど、質屋であることは否定しないわ」
淑女ことジェイドは、両手を広げ、ブートヒルに問う。
「カウボーイさん……巡海レンジャーさんは一体何のようかしら?」
「オレが知りてぇのはオスワルドの行方だ。あいつは今、どこにいる」
「叶えてあげる義理も、答える義務も無いけれど、少しだけ構ってあげるわ。貴方が差し出せる担保を教えてちょうだい?」
「担保……」
悩ましげに呟くブートヒルへジェイドは続けた。
「そうね。担保は貴方自身でも、貴方でなくとも構わない。『オスワルド』という人物に見合う対価を、貴方は差し出せるのかしら?」
「――友達も親も、何も持たない貴方に」
その瞬間、ブートヒルは銃を構えた!
「撤回しろ……!!」
「ごめんなさいね、先程の言葉を撤回するわ。貴方は銃を持っている」
淡々と告げるジェイドを見たブートヒルは、我慢の限界が近いのかトリガーに添えていた指へ力を込めた。
「ホーリーベイビー……死にてえようだな」
「私は構わないわ。ただ銃の発砲音を聞いた人がどう思うかは分からないけれど」
その時、扉の向こうから子供のはしゃぐ声が聞こえた。セレモニーの開宴まであと少し、子供らが興奮のあまり休憩スペースを走り回っていたのだ。
「カウボーイさんは、あの子たちに悪夢を見せる気?」
ブートヒルは今は無き故郷にいた子供を思い出し、銃を持つ手が震えた。
「――銃を下ろし、ここから立ち去りなさい。担保が無いのならこれ以上、貴方に構っている必要はないわ」
ブートヒルはジェイドと睨み合いを続けたが、やがて「クソ……っ!」と銃を納めながら、悔しげに質屋を後にした。
そのまま休憩スペースから真っすぐ進んだところにあるバーへ行き、休暇中のアベンチュリンへ繋いだ。
「おい! どういうことだ!?」
アベンチュリンは怒声に耳を擦りながら応じた。
「……っ、あ〜ダメだったか」
「ダメだったァ!?」
「タイミングだよ、タイミング。仕方ない、他の方法を探そう」
「オレは人を探してるんだが」
「方法も探さないとだろう?」
「人を探す方法を探すってか、チッ……、ラブリーが……ややこしいったらありゃしねぇ」
「まあ、そう気を落とさずに」
すると、バーテンダーからグラスのギフトが贈られた。小さめのモクテルグラスには橙色の飲料に、一発の銃弾……。
ブートヒルは目を見開き、声を上げた。
「アスデナのホワイトオークじゃねえか!」
それはアベンチュリンからの贈り物だった。休戦の証と捉えていいのだろうか。ともかく、ブートヒルのご機嫌取りに成功したアベンチュリンは乾杯の音頭と共に通信を切った。
通信が切れた途端、ブートヒルは思いっきりアスデナのホワイトオークを飲み干し、気持ち良さそうに声を出した。
喉が震える感覚にたまらなさを感じつつ、ブートヒルは二杯目を頼む。夢の中では、ずっと飲み続けることができる為、彼は満足するまで飲むことだろう。
「やっぱり最高だァ〜!!」
溌剌とした声は暉長石号を吹き抜け、憶質の中へ消えていった。
二次創作の投稿受付という衝撃的なお知らせを受けて、カプ要素がないお話を投げてみましたが、どうでしたか?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ありがとうございました!