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理狂う人  作者: たけしば
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1-7 承認欲求はただの麻薬

ジンシュク区にある雑居ビルの階段を降りると小さな喫茶店がある。昼は喫茶店、夜はバー、営業もいつやってるのかわからないし、しょっちゅうクローズの看板が出ている。ここ、『深紅王宮殿』にボクはいた。萌愛さんに呼び出されたんだけど、本人がまだ来ていないのである。ボクは店長をやっているツヨシさんと話しながら、店内を物色する。ジュークボックスが置いてあったり、テーブル筐体タイプのインベーダーゲームも置いてあって、レトロ感がある。

「テーブル型のインベーダー、はじめてみた~!」

ボクはちょっと興奮した。

「そう、これ、昔は喫茶店のテーブルでゲームが出来るってコンセプトで作られたものなんだ。これもインベーダーゲームが世間に広く知れ渡るきっかけの一つになったんだよ。これを見て喜んでくれるのは、葉月くんだけだぜ」

ツヨシさんはすごく喜んでる。そして、100円を投入し、プレイを見せてくれると言う。ツヨシさんは名古屋撃ちを解説しながら実践してくれた。なれた手つきでプレイする。そうとうやり込んでいるようだ。

「あ、また古いゲームやってる」

いつも間にか、刹那くんが店内に入ってきたのだが、入り口につけられたベルは鳴らなかった。

「あれ?刹那くん、どこから入ってきたの?」

「いきなり下の名前呼びか?・・まあ、いいけどさ。裏口だよ。まだ、君には教えられないけど」

ああ、秘密の通路的なのがあるんだね・・・

「葉月くん、本当はすぐに教えちゃいたいって思ってるんだけどさ、主要メンバー全員の許可が無いと、教えられないんだよ」

申し訳なさそうに言うツヨシさん。まあ、セキュリティは大事ですからね。簡単に教えちゃう方が危ないですよ。かえってツヨシさんの一存ばかりで進めてたら、セキュリティ甘すぎになっちゃいそうだ・・・

「ツヨシくんは本当、すぐに仲間にしたいって思った相手に色々教えちゃうから、ぼく達がちゃんと、ツヨシくんを見張っていないとならなくなる・・・」

それは困った話だね。まあ、そのツヨシさんの人懐っこさのおかげで今、ボクはここにいるわけなんだけどさ・・・

「ツヨシくんのおかげで、拠点移動した過去もあるんだよ」

「わあ・・・それは大変・・・歩くセキュリティホールですね」

「葉月くんまで俺の味方をしてくれないとは~しくしく」

ツヨシさんは危機管理の考えが鈍いというのはよくわかった。

「所で、主要メンバーって、他にどんな人がいるんですか?」

「あ~、それはね」

ツヨシさんが何か言いかけた所、素早く刹那くんがツヨシさんの口を手で塞いだ。

「まだ、仲間と認識されてない人には話せないんだ。葉月くんを信頼していないわけじゃないんだけど、これは掟なんだ。ぼくらはみんな、掟を守らなくてはならない。それが繋がりでもあるんだ」

そうか、それなら仕方がない。

正面ドアが開いた。ドアについたベルがチリンチリンと音を立てる。

「ごっめーん。おっそくなりまっしたー」

おちゃらけた感じで萌愛ちゃんが入って来る。

「ごめーんごめん。彼氏がさー、はなしてくれなくて~」

「いや、萌愛ちゃん、彼氏いないじゃん」

「やーもー!画面の中にいるの!!」

それは、ゲームをしてて遅くなったってことか・・・ひでえやつだ・・・

「あ、これ、昨日の中国人、捕まえた時の分の給与ね!」

萌愛ちゃんはボクに交通系ICカードのニシウリカードを10枚、手渡してくれた。

「それぞれ2万円チャージされてるから、合計で20万円ね!」

「え?こんな、カードでですか・・・使いずらいですよ・・・」

「え~!いいじゃない!コンビニでも使えるしさ、ね!」

何かわけがあるのだろうが、こんな給与は初めてだ。

「いいな~葉月くんの・・・ボクのはネット通販サイトのアンデスのギフト20万円分だよ・・・アンデス、そこまで使わないのに・・・」

なんか、今回の渡し方が特殊のようだ。

「あ、ちなみにケントは宝くじ20万円分だから、下手すると一番儲かってるの、ケントかもしれないけど、妬まないでね!」

あ、ケントさん可哀想・・・妬まない、憐れむわぁ・・・

「とりあえず、みんなの協力で、無事にホンコンキングを撃退できました!一番、活躍したのは刹那だけど、葉月もいいサポートしてた!あたし、ドローンからちゃんと見ていたよ!まあ、ケントは・・・ぼちぼちだったけどさ」

ここにいないケントさん、可哀想・・・正直、自分で言うのもあれだけど、ボク達の動きについていける人間はそう簡単にいないと思うから、仕方がない。

「でも、葉月くんも大活躍してくれた。これで、仲間に入れれそうだな」

「はあ、兄貴、考え甘すぎ・・・うちらの商売もちゃんとこなさなきゃ、まだ、ただの傭兵なんだからさ~!」

萌愛さんは、鞄の中から使い捨てタイプの電子タバコを取り出した。それは、ビニールのチャック付き袋に入ってた。

「これ、中身は大麻のオイルが入ってるの。うちらが栽培している大麻、これからは・・・まあ、いわゆるトブ成分、人をきもちよ~くさせる成分がたっくさん抽出できるってわけなのさ。これを売る。それが最大の収入源。いい?」

ボクは電子タバコを受け取る。

「あ、ちなみに、あたしらは吸わないから。普通のタバコは吸うメンバーいても、うちらはこの大麻、吸わないから」

「えっと・・・それは、なんでですか?」

「掟だし~、それに一度、コイツに手を出すと、止められなくなるだろうね。依存性物質じゃないんだけど、何度でもやりたくはなるだろうね。ほら、パチスロやソシャゲー、これらから依存性のある物質は出ないけど、依存する人達がいるわけだ。そいうもんなのだ」

「そうなんですね・・・よっぽどキクってやつなんですか?」

「そう、あたしらの大麻リキッドの品質は国内最強って言ってもいいし、リピーターも多いのさ」

ボクは少し、考えてしまう。やはり違法、依存、人を不幸にして金を稼ぐ。悪い事では無いかと・・・

「そこで、悪い事してるなって思ってるあなたに!利用者様からのお便りを読み上げようと思います!」

萌愛さんはそんなことを言って、タブレット端末を手に取り、何か読み上げ始めた。

「都内在住のペンネーム、ショムゴの女さん、31歳OL。『いつも、糞みたいな昭和糞オヤジ上司がいる職場でストレスがやばかったのですが、この大麻リキッドをつかうようになって、人生に余裕とゆとりと輝きが手に入りました。初めは大麻リキッドを吸う事に、抵抗はありましたが、アロマセラピーのように甘くて優しい香りに包まれて、いままでどうして拒んでいたのかと、過去の自分を恨むくらいです。今では糞上司もささいな事、宇宙の心理からしたら、万人はアリ以下の存在と悟ったからです。いつも感謝して、世界平和を祈っています』との事です。いや~、ゆとりは大切ですね。ゆとり世代ですね~。続いては、双子玉川の『タマちゃん3世』さんからのお便り。『ニコタマに住んでいると、食生活が偏りがちになってしまいます。でも、この大麻リキッドに出会ってから、すこぶる体の調子がいいのです。やはり、野菜は体に必要な栄養素だと、実感しました』はい~、そうですね~。野菜は必要ですね~。続きまして、第三海保在住のシーバスリーガル大好きシーバス釣りおじさん、58歳。『年齢からか、体の節々も痛く、大好きな釣りも行く回数が減ってしまっていました』あら~、それは大変。『でも、この大麻リキッドを初めて見て、夜も熟睡。おかげで体の痛みも消え、体力も回復し、気分もハイになり、大好きな釣りも、キャバクラ通いも若い頃以上にできるようになりました。気分はいつでもバブリーです』あら~、バブル世代死ねばいいのに~。と、言うわけで、皆様大変ご満足いただいているようです~」

と、原稿を読み終えた萌愛さんは、どや顔でボクの方を向いた。

「・・・通販番組のやらせお便りみたい」

「やらせじゃないし~!リスナーからのお便りだし~!」

え?リスナー?

「まあ、こうして、いろんな人に慕われてるの。だから、あんたが思ってるような悪い商売じゃないのさ!」

「まあ、そう言うなら・・・そうなんでしょう・・・かね・・・?」

「あー、信じてないな~!じゃあ、とっておきの話があるんだよ!いい?大麻を禁止にしたのはアメリカ対日協議会の陰謀で」

「まて、そのくだらない陰謀論は止めた方がいい」

刹那くんが萌愛さんを止めてくれた。

「ぼくらのやり方、見せてあげるから、付いてきて」

ボクは刹那くんの後をついて、行く事になったのだった。

つづく!



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