1-4 終身雇用を破壊した奴らが終身雇用をされている
公園で、偶然出会ったツヨシという兄貴と話していたら、目の前に謎の女子が現れた。
紺色のパーカーに黒のショートパンツ、ガーターベルト付きニーソがちょっとセクシーポイントのショートボブヘアの目の大きいオタクが好きそうな感ありまくりの女の子。手にはノートパソコンを持っていた。
「兄貴・・・それ、ナンパ?鳩に餌あげつつナンパ?ってか、鳩に餌あげて引っかかる女も女だけどさ・・・」
と、あきれ顔の女子。
「いや、萌愛。聞いてくれよ。この子、葉月くんって言うんだけどさ、男なんだよ」
萌愛と呼ばれた女子は口をあんぐりと開いて、ますますあきれた顔。
「いやいや、何?爺さんみたいな真似して、脳みそまでボケた?爺みたいになっちまったの?あたしゃ~兄貴の介護なんて嫌だからね!」
萌愛さんはボクに歩み寄り、そして、顔を近距離でじっと見つめて来る。正直、ちょっとドキドキしたぜ。
「いや、女の子だよ。絶対。そうでしょ?」
「あの、ボク、男・・・です・・・」
「うっそだあー!声、声も女子!ぜったい女子!決まりだね!」
萌愛さんは全然信じてくれていない。
「まあ、証拠なんて無いのですけど・・・」
「はあ?こうすれば一撃だし」
萌愛さんはボクの下半身の、おティンティンをがしっと掴んだ。
「ぐええええええええええええ!!!」
痛い!女の子に触られてうれしい!けど、痛い!!!
萌愛さんは慌てて手を放し、2、3歩あとずさり、顔が赤くなる。
「え?ええええ?お、男!!!!」
女性専用車両に男がいた時のような反応をする萌愛さん。そして、ボクの下半身を触った手を、こっそり嗅いだ。
「かぐなよ!」
ボクは思わず突っ込んでしまった。萌愛さんは益々顔を赤くする。
「な!なにさ!変態女装男!汚物触っちゃったから気になっただーけー!あんたと一緒にしないでよ変態!!!」
萌愛さんはボクの頭を勢いよく叩いた。痛い。
「まあまあ、これで男だって証明されたわけだ、よかったよかった」
ツヨシは笑ってこの場をおさめようとする。
「いや、よくない!よくないんだよコイツ・・・」
萌愛さんはちょっと冷静になって、ノートパソコンを開いた。
「この映像、近くの防犯カメラの映像」
ノートパソコンの画面にイタリアンレストランの防犯カメラの映像が映っている。そう、強盗が入って来て、その強盗をボクが撃退する映像だった。
「この映像、上からで顔はよく見えないけど、服装からしてあなただよね?」
ボクは返事に困っていると、ツヨシが
「あ~、さっき葉月くんは、ウサイン・ボルトレベルの速さで走ってここに来たんだけど、何?事件に巻き込まれてた系なの?」
ボクは仕方がなく、事情を説明した。メスニナールの効果か、謎の力で窮地を切り抜けて逃げて来た事を。
「メスニナール・・・それ、どうやって入手したの?あんた、何者?ブローカー?密売人?」
メスニナール1993の話しに食いつく萌愛さん。萌愛さんはボクの隣の、ツヨシの膝の上に座る。
「あんた、メスニナール1993って、とっくの昔に生産禁止されてるの。そんなの入手、出来ないぐらい、私も知ってるんだから」
ボクは渋々、オカマのハピルさんの話をした。誤送で届いたので、入手方法は知らないと言った。
「ふ~ん、そうなんだ~」
と、言いながら、萌愛さんはボクをスマホのカメラで撮影した。
「防犯カメラの映像、これね、セキュリティー会社のサーバー経由で見てるの。ちなみに、この録画データ、あたしにかかれば簡単に除去できるのさ。やって欲しいでしょ?下手に有名人になりたくないんでしょ?」
ボクはうなずいた。
「除去してあげるかわりに~、そのメスニナール1993の入手経路、見つけて教えてよ。あたし、興味あるんだ~」
「でも、それはヤバイお薬屋さんなわけで」
「いいじゃない。やらないと、今、私が撮影した写真と、この防犯カメラの映像、ネットで流すよ?」
脅された。
「おいおい、萌愛。そういうのは止めなさい。かわいそうだろ」
ツヨシさんはボクをかばってくれようとしていた。
「ダメ。つき通すもん。もしかしたら、例の中国人かもじゃん・・・逃がすわけにはいかないってのさ」
萌愛さんはなんか、真剣なようだ。
「あの・・・例の中国人って・・・いったい・・・」
萌愛さんはボクのおでこを指ではじいた。いわゆるデコピンである。
「あんたには関係ないのさ!」
「でも、嫌だよ・・・ボク、そんな不条理、断ります。動画はどうぞ。晒してください。どうぞ、ボクを地獄へと突き落としてください。あなたには協力しない」
ツヨシさんは、怒りに燃える萌愛さんをどかす。
「こんな事、言うのはあれなんだが・・・説明するよ。ついてきてほしい」
ベンチから立ち上がるツヨシさん。
「兄貴!まさか、いきなり見せるの?!それはないって~!」
萌愛さんもなんか焦っている。
「大丈夫。俺が思うに、葉月くんも色々わけある人間だ。俺達と同じように」
歩き始めるツヨシさん。ボクはよくわからないけど、ついていく。その後ろから、萌愛さんもついてくる。ドラクエ状態だ。しばらく歩いて、雑居ビルの裏口にたどり着く。ツヨシさんはその雑居ビルの小さなエレベーターに乗る。ボクも萌愛さんも後を追って乗り込んだ。3人だけど窮屈になる。
「あんた、お尻とかさわったら殺すから」
萌愛さんは背中でボクに話しかけ・・・脅してくる。怖い人だ・・・
エレベーターは5階で止まる。ドアが開き、通路を歩き、非常扉を開くと、電設用のメンテナンス通路のような細い通路があって、その先に、細長い扉があって、そこを開けると窓の無い部屋にたどり着く。そこは、電気がまぶしくて、360°コンクリートの打ちっぱなしの壁になっている。天井には照明の他、大きな排気口がついている。そして、部屋の真ん中に、配管用ビニールパイプが何本も並んでいて、それにあけた穴から植物が生えていた。ボクはすぐにわかってしまった。これは、大麻だ。
「びっくりしちゃった?俺達、こういう事なんだ」
ツヨシさんは照れくさそうに笑っていた。
つづく!