1-3 社会人と言う名の社会教信者共のカルマ落とし自慢は続く
ボクはとにかく、貯金が残り少なかった。だけど、街をぶらぶらしていれば、男どもの視線が妙に集まる。これが、もてるってやつか。きしょいようだが、少し、心地がいい。
「へい彼女!暇?お茶しない?」
ちゃらい男・・・おっさんが声を掛けて来た。典型的なナンパだ。
「あ~、でも、ボク、男だよ」
と、男の娘ありがちなセリフをはいてみる。ちゃらいおっさんは戸惑って、ごめんねとか言って去って行った。妙な気分だ。まあ、かわいい女の子と思った相手が男だったんだ。それはそうなる。仕方がない。でも、おっさんは、Uターンして戻って来た。
「あ~、ごめん、びっくりして、その、戸惑っちゃったよ~。え、本当に男なの?」
ボクはうなずいた。声すら女の子っぽいんだ。もう、ティンコ出す以外、証明しようがない。
「すごい・・・こんなかわいい男の子、見たの初めてだよ・・・ねえ、よかったら・・・お話ししたいんだけど、いいかな?」
「う~ん、お昼ごはんおごってくれるならいいよ」
「よし、OK!なんでも好きな所言って!」
ボクはちゃらいおっさんのナンパに付き合ってみた。お昼はイタリアンでごちそうしてもらった。ピザがおいしかった。おっさんはあまり話さないボクに対して、結構面白い話をいっぱいしてくる。ボクは入る隙も無い程だ。
「おっさん・・・ボクの話し、聞くんじゃなかったの?」
あまりにもおっさんの独壇場だったので、ボクから訪ねてみた。おっさんはごめんごめんと謝った。
「そうだよね、君の話し、聞きたいって思ったのに、悪い癖だ・・・ごめんね」
だけど、なんとなくボクはわかった気がした。
「おっさん・・・営業職だよね?」
おっさんははっとした顔をしている。
「え?わかっちゃった?」
「うん、話し方が上手いしわかりやすい。営業職って感じ。それに、営業の人がトークや接客の練習にナンパする事があるって噂で聞いたことがある」
おっさんは頭をぽりぽり。
「そう、自分、営業職で、その、ついつい自分だけばーって話しちゃってさ、人の話しを上手くくみ取れなくって・・・」
「それで練習したかったんだね?」
「はい・・・」
「まあ、おっさん・・・ボクでいいなら、練習相手、続けてあげるよ」
おっさんは、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますと、頭を下げた。
そんな時であった。
「全員ふせろ!じっとしてろ!」
大きな声が店内に響き渡る。黒いマスクをした強盗達がご来店!手には拳銃のようなものが!白昼堂々と強盗だった!しかし、その強盗を面白がってスマホで撮影するバカ達がいる。いや、どいつもこいつもスマホで強盗を撮影しはじめている。
バン、バンと、乾いた発砲音。椅子から転がり落ちるように倒れる女性。強盗が客を射殺した。突然の事態にパニックになる客たち。強盗もパニック状態らしく、拳銃を乱射。ちゃらいおっさんは、伏せるようにボクに言った後、弾が命中したのか、糸の切れた人形のように崩れ倒れ、そして、全身の筋肉が硬直し、痙攣を起こしている。もう、助からないだろう。このままではよくない。ボクはテーブルを持ちあげ、そして、強盗めがけてぶん投げた。テーブルは強盗の顔面に命中。そのままぶっ倒れる。
あれ? 疑問に思う程、ボクは軽々とテーブルを投げていた。もう一人の強盗が、ボクに向けて拳銃を発砲した。ボクはとっさに、自分の心臓を手で刺激、1秒間に16連打の刺激によって、激しく心拍数を強制上昇させたボクが体感する1秒間は通常の10倍以上。時の体感は心拍数によって変動するのだ。弾丸がこっちに向かって飛んでくるのが見える。大体、バッティングセンターの一番遅い球ぐらいの速度で球が見えるのだが、それでも早いっちゃ早い。なんとかぎりぎり弾丸をかわしたボクは、となりの席のピザの台を手にとり、フリスビーのように強盗に向かって投げつけた。相手に隙をあたえず、ナイフ、フォーク、ピザカッター、ワイングラス、ソーサー、あらゆるものを高速で強盗に投げつけた。全弾命中!強盗は地に伏した。ボクは、慌てて店から逃げ出した。異常なまでの身体能力、これはメスニナール1993の影響なのであろうか・・・
パトカーのサイレン、救急車のサイレンが鳴り響く。ボクは下手に事件に巻き込まれたくないと思って逃げたのだ。警察に事情聴取され、違法薬物を服用したなんてばれたら、多分、厄介だと思った。細い路地を抜け、公園にたどり着く。物凄い速さで走ったと思う。多分、ボルトぐらい早かったかもしれない。1週間の肉体の変化は見た目以外の影響をボクに与えていた。公園の入り口を通過し、公園に集まった鳩たちが驚いたのか一斉に飛び立ち、ボクはくしゃみをした。
「え、いま、めちゃくちゃ早くなかった?」
公園のベンチで座って、食パンをちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す腕に入れ墨をしたお兄さんがボクを見て、何か言っている。
「今、君、ウサイン・ボルトくらい早く走ってたよね?すごくない?」
ボクはごまかし笑いをして、去ろうとした。
「まって!君のせいで鳩が逃げたんだ。なんか、すっげえ寂しいじゃん。鳩が戻ってくるまで、ちょっとお話しでもしようぜ」
ボクはその、不思議な雰囲気の、外見はボクが苦手とするヤンキーの延長線にあるような半分グレーな感じに見えるのに、妙な暖かさを感じれるオーラを感じた。だから、隣に座って、話をするのも面白そうだなって思ったんだ。
ボクは隣に座ると、入れ墨をしたお兄さんは妙にうれしそうに笑顔をうかべた。
「所で、鳩に餌をあげるの、禁止って書かれてましたけど、いいんですか?」
「あ~、そうだね。でも、俺はそう言われた所で、止める気はないよ。それに、案外楽しいものだよ。俺、鳩に餌あげるの今日がはじめてなんだ。鳩に餌やり童貞を卒業したばかりなんだよ」
「なんで、そんな老後の爺さんみたいな事、してたの?」
「そう、高齢の人がやるイメージあるじゃん?だから、これやったら、少し大人の気持ち、わかるのかもなんて、おもってやったんだけどさ、ただ鳩がかわいいだけだったぜ」
不思議だ。ボクは鳩に餌をやる行為は幼稚な部類に考えていた。だけど、この兄さんは大人のやる行為だと信じているようだ。
「パンに群がる鳩たちは、必死に食らいついてくるし、俺がちぎって投げるのを待ってるんだよ。なんか、じっと見てる感じなんだ。でも、どんなにあげてもお礼も感謝もされない。それでも俺は鳩に餌をあげる。鳩が喜んでいるだろうと信じてな。この行為、何か、人間社会でも当てはまる事があるような気がすんだけどな~」
なんか、変な人だなと思った。変だし、頭よさそうに思えないんだけど、自分の哲学を持っていて、賢い人なのだろうとは思った。そして、社会の中では生きずらそうとも思った。この、生きずらそう感が妙にシンパシーを感じる。
「俺、ツヨシ、馬路手 毅って言うんだ。君は?」
遠くの鳩を見つめながらそう言った。
「・・・ボク?」
「そう、君。鳩に向かって言ったんじゃないぜ」
「まあ、ボクは・・・夏水 葉月って言います」
「葉月ちゃんか。かわいい名前だ。これは男達にモテモテだろうな」
「あ、ボク、男です」
ツヨシはボクを見た。黙ってじっと見た。
「・・・それ、彼氏持ちって意味?いや、別にナンパしようとしてるわけじゃねえし、俺にも彼女いるし」
「あ、違います。ボクの性別、男です」
ツヨシは一度、鳩を見た。
「俺、疲れてるのかな・・・そうよ、モルダウ、あなたは疲れてるのよ・・・なんてな・・・」
と、なんかつぶやいてから、またボクを見た。
「男・・・なの?」
ボクはうなずいた。
「え?まじ、それ、え?え?なんで?」
なんでと言われても困るので、財布から免許書を出して見せた。
「・・・夏水・・・葉月・・・・え?この証明写真、別人じゃん!証明写真、ただの根暗ヒキオタニートのチー牛野郎じゃん!ナニコレ、盗んだ?!」
「いやいや、違います。これには訳があって・・・」
ボクは免許書を返してもらい、そして、メスニナール1993を服用して変貌した事を話した。
「まじか・・・都市伝説かと思っていたぜ・・・メスニナール・・・陰謀論かと思っていたぜ・・・」
「ですよね~・・・なんか、過去にオカマが大量死した事件とか、あったみたいですね・・・」
「そう、それそれ、俺は某宗教団体がやった毒ガス事件の一種説を信じてたぜ・・・陰謀論ぱねぇ・・・」
そんな、会話をしていたら、気が付けば目の前に一人の女の子が立っていたんだが、次回へ続く。