3-5 敗戦を終戦と言い続ける所が負けを認めてない感があって嫌
「近くに集落がある。そこの調査を行って欲しいのだよ」
細い山道を下り、二車線道路に出て、北に向かうと小さな集落があって、入り口は小さなトンネルをくぐって行かなければならない所だった。Googleマップで、航空写真では存在が確認できるが、ここがなんの村なのか、道路すら表示されなかった。
「ただ、下手に騒ぎは起こさないように、いいかね?」
萌愛さんはボクと未来くんにそう言った。使う車は、村に置きっぱなしにされていたワゴンR。鍵を刺し、エンジンをかけると、ちゃんと動くようだ。ガソリンもそんなに減ってはいない。ボクはハンドルを握り、未来くんは助手席で、Googleマップを見ながらナビゲーションをしてくれて、走って行く。細い山道を下り、2車線道路に合流し、北上。しばらく走り、脇道にそれて走ると、小さなトンネルが見えてきた。幅も狭く天井も低く、灯りも無い、ごつごつした表面が見える手彫りのトンネルだった。ヘッドライトを点灯させ、恐る恐る車を走らせる。上から水滴が滴り、小さな水たまりがいくつもできている。そんな酷な道、酷道なトンネルをぬけると、山に360度囲まれた小さな村に出た。まるで、隠れ里だ。平家の落ち武者の里と言われても違和感はないし、隠し石高とか言われても納得できる村だ。
とりあえず、村の真ん中の道を走る。垣根に囲まれた家、畑、田んぼが道を挟むようにあって、先を進んでいくと、小さな神社に突き当たった。ここで一旦、車を降りて見る。神社の鳥居に士一山神社(しいちやまじんじゃ?)と書かれていた。小さな社。境内は掃除が行き届いている。ただ、賽銭箱もなければ、神楽殿も無ければ手洗いの所も無い。ただ、小さな戦没者慰霊碑がすみにあるぐらい。
鳥居の下から村を見渡す。村は静かで、人がいる気配がしない。
「少し、歩いてまわってみようよ・・・何か、手掛かりがあるかもしれない・・・」
未来くんのその意見にボクは同意した。車は神社の前に置いて、僕らは村を徒歩で散策した。未来くんは何を思ったのか、民家のインターホンを押してまわり始めた。しかし、1件も反応は無かった。
「ゴーストタウンかな?」
未来くんは首をかしげる。
「でもさ、庭とか、垣根とか、手入れがされてるから、いるんだよ。ただ、今はみんな、何処か仕事に行っているのかもしれないよ。田植えとか、稲刈りの期間は農業やって、その手間のかかる期間外は何処かに勤めるって、あるみたいだからさ・・・」
と、未来くんに思い付く可能性を話した。それに、家の敷地の駐車してあったであろう車の跡、今は乗用車が見当たらない点を考えて、ボクの推測はありえると思った。ボクらは旧木目捲村に戻る事にした。
ボク達が戻った時、宿舎の前でみんながバーベキューをやっていた。お昼からバーベキューとか、パリピか?
未来くんはすぐ、車から降りて、走って行った。
「みんな!何してるの!もっと真面目に探してよ!!」
かなり怒っている。
「まあまあ、ほら、せっかく田舎だぜ。こんくらいやんなきゃ勿体ねぇって。未来くんは真面目過ぎだって、少し肩の力抜けよ~」
と、グレエングムのリーダー、徹くんは言う。しかし、未来くんはおこだ。
「明斗くんが大変なんだよ!それに、緑くんだって・・・仲間が行方不明なのにそんな呑気な事、僕にはできないよ!」
「まあ、落ち着けって。下手に当てずっぽうに動いた所でどうもできねえって。それに、明斗くんの事だ。いつものようにひょこんと出て来るさ。ほら、前も南アフリカ系のギャングに囲まれた時だって、なんだかんだ返り討ちにして、何食わぬ顔で帰って来たじゃねえか。あいつは俺が知る限り、最強だ。下手に心配することはねえって」
呑気な感じで言う徹くん。だが、なんとなくわかった。彼は何もできない状況で、自分の気持ちを抑える為にこのバーベキューをやりはじめたのだろうと。先程からつま先の動き、手でおでこをさわる仕草から、落ち着きがない状況が伺えた。彼も心配なんだ。そして、真剣にもがけない心の弱さがあるのだ。
「未来くん。気を張り過ぎて疲れ果てては、この山々に囲まれた自然の中、体力を奪われてしまう。それに、ボクも君も、みんなも、こんな環境には慣れていない。だから、バッテリーチャージのようなもので、こういう息抜きも必要なんだよ。どうか、彼等を攻めないであげて」
未来くんは黙って、宿舎に入って行った。ボクは後を追った。未来くんはベッドの上に、布団を頭からかぶって動かない。
「・・・・未来くん?」
返事が無い。仕方がないさ。ボクはベッドの脇に腰を掛けた。
「もし、ボクが君の立場だったら・・・同じ事、してると思う。藁にも縋るって言うやつ?もう、出来る事は手当たり次第にやって・・・でも、きっと、体力は無限じゃないし、疲れ果ててしまうと思う・・・彼等は真面目に見えないけど、ずっと悩み続けれないんだよ。未来くんみたいに強くないんだ。いや、普段は強い人達だと思うよ。でも、未来くんの芯がそれ以上に強いから、問題に向かい続けれるんだよ。どうか、彼等を嫌に思わないで、協力して行こう。それしか手段はないからさ・・・」
未来くんは布団の中で、泣いているようだった。
「・・・ボクは少し、みんなと話をしてくるよ。お昼ごはんも食べなきゃだし・・・もし、お腹すいたら、顔出して。ボクがなんとかしておくからさ」
ボクはそう言い残して、部屋を後にした。そして、バーベキューをしてる所へ向かった。
「あの~・・・葉月くん。未来のやつ、その・・・どうだったかな・・・?あいつ、真面目ちゃんだから、なんか空気悪くしちゃって、ごめんな」
っと、徹くんは言う。ちょっと酒臭い。昼間から飲んでいるようだ。
「俺達だって心配なんだよ。ただ、手掛かりが・・・・まあさ、手掛かりになるかなんてわからないんだけど、これ、見てくれよ」
そう言って、富取くんが手にしたのは日本酒の一升瓶だった。それは、ボクが宿舎に初めて入った時、散らかっていたロビーに転がっていた一升瓶と同じラベルのものであった。
「これ、食材買いに山降りた時に道の駅に寄ったんだ。どうやらその道の駅でしか売ってないドマイナーな地酒みたいでさ、道の駅の人に聞いたんだよ。現地の人しか飲まないってさ。だから、失踪以前に周辺の村人と何か接触していたか、交友関係があったかもしれないんだ。じゃなきゃ、明斗くんも緑くんも、ましてや裏バイター達なんて若いやつらなんだ。こんな地酒、自分から進んで買って飲むようには思えない。もし、日本酒を買うとしても、その道の駅にはもっと色々な銘柄があった」
富取くんはボクも気が付かなかった所に目を付けていた。1人では気が付かない所を補佐し合う事、理想的なチームワークが出来上がりつつある。
「すると、地元の人で疾走以前の動向をしる人物がいるかもしれないって事ですね?」
そうそうっと、富取くんはうなずいた。
「あんた、行った村では何か情報得た?」
萌愛さんが肉をむしゃむしゃしながら話しかけて来る。ちょっと行儀悪い。
「いや~、それが、村は人が住んでいるようでしたが、誰もいませんでした。未来くんがインターホンを押しまくって確認しましたけど・・・空き巣し放題ってくらいに無人でしたね~」
「そうか・・・昼間、村人はどこか勤めにでも行ってるのかもね。流石にここら辺でまっとうな農業やってるだけじゃ稼ぎ少なそうだもんね~・・・他に、些細な事でいいから情報くれくれ」
「う~ん・・・民家の敷地は、ちゃんと手入れされて、垣根も綺麗にまとまっていて・・・あ、神社がありました。小さい神社で、武士の士と数字の一とマウンテンの山って書いて、なんって読むのか、士一山神社?とか言う神社がありました」
萌愛さんは考える。
「変な名前の神社・・・ド田舎の氏神ってやつ?」
「それって、もしかしたら十二所神社ってやつじゃねーーの?」
まさかの詠人くんが反応した。
「ほら、俺、ラッパーじゃん?数字に関してごろがいい言葉、探してた時にちっと見た事があってよぉ~~~。確か、山の神を祭る神社ってやつでよぉ~~~~、熊野権現を祭ってたりとか~~~、山岳信仰ってやつか~~~?まあ~~~詳しくは俺も資料ね~~~~~と、説明できね~~~けどさ~~~~~」
まじか・・・ごめん、詠人くん。ボクは君をバカだと思っていた。予想以上にインテリジェンスだったんか。
「へえ~、山の神様か~・・・ホラー映画とかだと、村の仕来りに背いたやつとか、村の神様の怒りをかったやつとか言いがかりつけられて、村人たちが新参者を襲ってくる展開、よくあるよね~」
ボンちゃんがさらっと怖い事を言う。
「まじか・・・村人達に大麻がばれたか?」
萌愛さんがびびりはじめる。
「もしかして・・・通報されて連行された?」
グレエングムのメンバーもびびりはじめる。
「いやいやいや・・・まさかね・・・・役所の職員も共犯だし・・・助成金も使って地域復興プロジェクトのふりしてるし・・・」
今、さらっとやべえ事を言った萌愛さん・・・だから監視カメラとか、大規模水耕栽培システムとかの設備を整える余裕があったのか・・・
そんな事を話し合っていると、未来くんがそっとやって来た。
「あの・・・さっきはごめん・・・・・」
未来くんはまぶたがはれぼったくなって、鼻を赤くしてる。思いっきり泣きまくったんだな・・・
「ああ・・・その・・・・俺達も無神経すぎたわ・・・ごめん」
お互いに謝ると、未来くんのお腹がぐぅ~って音を立てた。
「お腹、好いてるんだろ~~~~?ほれ、いい具合に焼けてるから、食えよ~~~~」
詠人くんが紙皿に肉をのせて未来くんに手渡した。
「あ、ありがとう・・・」
「ほら、タレかけなきゃ~」
ボンちゃんがどばーっとその肉にタレをかける。
「うわ!タレかけすぎだよバカタレ!」
「え?いまのギャグ?」
「萌愛が韻を踏んだんだろ~~~~~~?」
「オヤジギャグとラップの境界線がわからなくなるわ」
みんなで賑やかなバーベキュー。どうやらボクらは仲良くやっていけそうだ。
そして、この難題に対して、一歩一歩と解決へ向けて歩いて行くのであった。
「ねえ、明斗くん。ねえってば~」
ボクの手を引く未来くん。なんか酒臭い・・・どうやら、飲まされたようだ。
「えっと、未来くん・・・ボクは葉月だよ?」
「あ!」
人の名前を呼び間違えた未来くんは赤くなった顔を手で隠した。なんか、先生に対してお母さんって呼んでしまう小学生のようだ。
「おいおい、失礼だぞ~」
っと、徹くんがいじる。まあ、飲ませたのは彼なのだろうがな。
しかし、未来くんはかわいい子だ。早く明斗くんとの再会の為に、ボクも全力で力を貸すんだ。そう、決心が固まった気がしたんだ。
つづく