2-4 知欲、物欲、支配欲が人間の三大欲求と信じている
刹那くんが助けてくれたお礼がしたいと言うので、映画を一緒に見に行く事になった。なんか、デートみたいだぜ。待ち合わせ場所、向かうともう刹那くんは待っていた。爽やかコーデのかわいい感じの服装。しかし、刹那くんは服は何処にもっているのだろうか・・・いつもあちこちのネカフェとかで過ごしているというのに、謎である。
「やっほ~、待った?」
「ん~・・・そんなに待ってない・・・かな?」
「気になったんだけどさ・・・服って、何処に持ってるの?」
「ん?レンタルの倉庫部屋借りてるんだよ」
予想外。住所不定無職な刹那くんが倉庫レンタルしているとは・・・
「倉庫って言っても、雑居ビルの中に大きな物置がロッカールームみたいに並んでる所なんだけどね」
う~ん、想像つかないぞ・・・そういうの、あるんか~・・・
それはそうと、ボクらは小さな映画館へ行って、面白そうな映画があるなって、見ようと思ったら、満席で、渋々違う映画を見たんだ。なんか、予想外な映画だったんだ。妙にラブシーンが多い・・・これは、これは妙に気まずいのだ。こんな時、刹那くんはどんな顔をしているのか気になって、そっと横を向いた。刹那くんと目が合ってしまった。ボクはすぐに画面のほうに視線を戻した。き、気まずい・・・
すると、耳元に刹那くんが近寄る感覚が・・・
「ねえ、なんか調子悪そうだけど、大丈夫?」
耳元でこっそりと話しかける刹那くん。息が耳にふれ、ぞくぞくっとする。妙に、このこそこそ話しかけて来る刹那くんの声が、えろかった・・・
「ちょっと、お手洗い・・・」
ボクは席を立って、トイレに行って、手を洗って、精神を落ち着かせていた。途中、おっさんが入って来て、男トイレに女の子がいるとビックリしていたが、多様性の時代かと、納得したようで、そのまま小便器で用を足してた。
トイレから出ると、トイレの入り口近くで刹那くんが壁に腰かけて待っていた。
「あ、大丈夫?・・・なんか、映画、失敗だったね・・・出て、違うの見る?」
でも、この映画のチケットは、刹那くんが支払ってくれたのだ。こんな貴重なチケットを無駄にしたくない・・・
「大丈夫、せっかくさ、刹那くんが支払ってくれたんだもの・・・見ないと、勿体ないよ」
ボクらは座席に戻った。映画はしばらく、日常生活シーンや、すれ違いシーンや、回り道シーン、あと何回過ぎたら2人は触れ合うの~って言うシーン。それらは普通に見れていいのだが、やはり、問題のシーンが訪れた。主人公がヒロインの事を妄想して、1人でシュポシュポシュッポッポするシーンだ。このシーン、主人公の顔はあまり映さず、影絵のようなシルエット描写で、そして妙に長い・・・そんなシーンを見て、ボクは最低な事に、この主人公の体に刹那くんを重ねて考えてしまったのだ・・・刹那くんは、こんな風に一人ですることがあるのかなとか、どうやってするのかなとか、どんな顔して・・・ボクのお腹の奥がキュンっと締め付けられたような感覚がした。正直、あそこもギンギンだった。オス的興奮をしているのか、メス的興奮をしているのかわからないけど、リュクシール的な興奮。ボクはちらりと刹那くんの表情を見た。刹那くんはじっと見ていた。表情は無心に近い。いや、いつも表情は豊かではないけれど、無心な感じ。なんか、芸術的な視線で見ているのかもしれない・・・ボクはこの作品を低俗な感じで見ていたが、高貴なアート性みたいなのを感じ取っているのかもしれない・・・
しかし、後半はほぼからみ。からみながら会話と、描写で進む物語。下品の極みと思うのだが・・・ボクは何故か、刹那くんがこんな感じに自分の知らない女性とからみあったりなんかしたらどうなるのだろうとか考えてしまって、勝手に胸が苦しくなるわ、興奮はするわで、パニック。上映が終わって、スタッフロールが流れ終わった後、少しの間、前かがみで硬直していた。興奮を抑え込むためだ・・・
「・・・具合、よくない?」
刹那くんが手を差し伸べてくれる。
「あ、うん・・・大丈夫・・・ありがとう」
ボクらは映画館を出た。そして、休憩する為に喫茶店へ入った。
「あの映画・・・どうだったかな?」
刹那くんの質問、ボクは返事に困ってしまう。
「あ・・・いや・・・アート性が強かったっていうか・・・なんというか・・・実験作的な~・・・・・感じ?・・・・うん、そう・・ボクには・・・刺激が強すぎたぁ・・・・」
なんか、話してるだけでも恥ずかしくなってくる。爆死したい。はじけてちからつきたい。
「そういえば・・・」
刹那くんって、あんな風にオーナーヌーヴォーするのって言いそうになってもうた。欲望が言葉に出かけてしまったのだ・・・
「なにかな?」
刹那くんはボクの出かけた言葉が気になるみたいだが、その通り、ナニの話しだよとも言えず・・・別の話題で誤魔化そうと思った。
「あ・・・いや、あの・・・あの映画見て、刹那くんは・・・どうだったかなって思って・・・」
「どう・・・だった?・・・う~ん」
刹那くんは少し考える。というか、感想を聞くつもりが妙な空気になってしまう。もう、あの映画の監督を恨むぞ!末代まで!
「なんか・・・監督は何を考えて撮影しているのかなって、シナリオは、構成はどうしてこうなってるのかなってさ・・・」
おお、刹那くん、流石、真面目に考察して見ていたのか・・・
「でも、なんか途中でどうでもよくなって、ただエロいな~って思ってたよ」
まあ、そうだよね。あの映像から深い意味、読み取れないよね~・・・まだ、007ゴールドフィンガーのOPのほうが爽やかだよね~・・・
しかし、ここでボクは重大な事に気が付いてしまったのだ・・・ボクは・・・同性である刹那くんを相手にいかがわしい妄想をしていた事に・・・それは、自分の体の女性化がもたらしたものなのか、ナチュラルに刹那くんがかわいいからなのかはわからない・・・俺、素質あるのかな・・・?でも、複雑に考えた所でどうにもならん、仕方がない。すべてうけいれるしかねえ。なすがままにだぜ。れっといっとびーだぜ。なすが、なすが牛できゅうりが馬なのはなでだろうな・・・あれ、割りばし刺して
「葉月くん?」
「ふぁらんへ?」
ぼーっとしてたところ、刹那くんの呼びかけに思わずフランコ将軍の政党名が口に出たんだけど、それはほうっておいて、
「あ、ごめん、ちょっと、ぼーっとしてた~」
葉月くんはボクの目を覗き込むように、少し前のめり。
「う~ん、もやっとしてるみたいだね・・・こういうときは、すっきりさせたほうがいいと思うよ」
「す、すっきりとは?!」
カラオケだった。
ボクは思いっきり、メタリカのエンターザサンドマンを熱唱した。
「すごいね~、英語の歌、よくわからないけど、上手いじゃん」
ほめられちった。てれちゃうぜ。
「この前、葉月くんの歌、上手いな~って思ってさ、歌うの好きなのかな~って思ったんだけど~、まさかジャンルが違うとは予想代だったよ」
「あ~、この前のは・・・社交辞令で歌うレパートリーで、一番叫びたいのはこういうタイプかな~・・・」
「でも、ツヨシくん、確かこんな感じの・・・聞いてたことあったな~・・・なんって言ったっけな・・・・確か・・・・なんとかシュタイン?」
「ラムシュタイン?」
「あ~、そんな名前だった気がする」
おお、流石ツヨシくん。気が合いそうだ・・・
「あれ?刹那くんは何か歌わないの?」
刹那くんはしばらく考える。
「実はぼく、歌、下手でさ・・・全然歌えないんだよ・・・」
ありゃりゃ、そうなの?なんか、雰囲気軽く何か歌えそうな気もしなくはないけど、勝手なイメージ、フリッパーズ・ギターの恋とマシンガンとか似合いそう。
「じゃあさ、せっかくだから練習してみる?いっしょに歌うからさ、ほら、試してみようよ!」
ボクは刹那くんの隣によりそって、2人でマイクを持って歌う事にした。刹那くんは恥ずかしそうにしてたし、歌も下手だったけど、なんか楽しくひと時が過ぎて、心臓に悪い5分前を告げる内線がなって、楽しい時間はアインシュタインの言う通りにあっという間に過ぎて行ったのだ。
そんな、よくわからないけど、心が満たされた気持ちになった一日だったのだった。