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理狂う人  作者: たけしば
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1-1 労働する猿共、いまだ革命を知らず

お金は汚いものだから、幸せはお金ではないなんて、誰が言い出したのか、俺は今までこの価値観美徳詐欺師に騙されていた。お金はいかに美しい。お金が無いと、生きていけないし、何も出来ないし、大切な人も守れない。ボクは今日も、お金の為に頭を下げている。完全にいちゃもんだったクレームに、ボクは言い返さずに頭を下げ続けた。汚いのは人間そのものだ。お金がキレイでも、人の手の中で穢れて行く。小さなスーパーで、こっそりと働くボクは、多くの人から人として認識されていないように感じていた。客は偉そうだ。お客様は神様と言い始めた馬鹿は誰だ?客は人間だ。神様相手じゃ平等な取引は出来ないし、神様からお金を受け取るなんて事は不可能。すなわち、お客様は神様と言い出した奴は不届き者で、神の存在を汚す者である。

今日は無駄に疲れた。家に帰る途中、コンビニに立ち寄る。アルコール度数高めのチューハイ、アームストロングネオを購入。ついでにタバコ、ラッキーストライクの青色パッケージの8ミリを購入。店を出て、古いアパートに帰宅する。ポストにつっこまれたチラシを手に、部屋の真ん中に座り込み、ちゃぶ台の上のノートパソコンの電源を付け、アームストロングネオを開け・・・、シャワーを浴びてからにしよう。とりあえず、ノートパソコンでツイッターを開く。今日の愚痴をつぶやく。いいねは3つ。そんなもんだ。ポストに突っ込まれたチラシ、新しいコインランドリーの宣伝広告と、ここ葛西区が独自に出している葛西区だよりという新聞っぽい薄い読み物だ。それと、糞みたいな求人広告。全部、ゴミ箱に突っ込んだ。

ツイッターのトレンドは、相変わらず政治を語る陰謀論と左翼の活動家のツイートで蔓延してる。どうせ、俺の一票なんて世の中に何も影響を与えやしない。利権団体がどう動くかで決まる世の中だ。政治家の連中は口々に、雇用を増やすとか、賃金を上げるとかほざいているが、世の中、評価されている経営者は口々に人件費を節約すると言っている。まったく、矛盾した世の中だ。頭が痛くなる。俺は、シャワーを浴びる事にした。

シャワーを浴びる時は、ふと、嫌な記憶がよみがえる。小学校の頃、ウンコを漏らして、それ以降、ウンコマンとか、ウンコの力とか、色々言われ続けた。中学になっても、リバイバルブームが発生して、激しくいじめられた。高校は、同じ中学のバカが、この話を面白がって広めた為に、俺は中退した。家では兄弟が、特に兄が威張り散らかしニートをしていた為、俺までニートになりたくなく、親から金をもらって、1人暮らしを始めた。現在はフリーターだ。このまま孤独に死んでゆくのだろうか。シャワーを止め、鏡を見る。犯罪者予備軍の顔がそこにはあった。

俺はシャワーを浴びた後、冷蔵庫の中のピザトーストと、エシャレットを取り出して、ピザトーストをレンジで温め、チューハイの缶を開け、晩酌と夕食を一緒にとる。エシャレットにかじりついて、この球根の刺激を味わいつつ、チューハイを飲む事が今の唯一の幸せだ。エシャレットだけ食べて生きていきたいけど、エシャレットは食べすぎると鼻も痛くなるのが副作用。それに、コスパはよくない。俺、唯一の贅沢品。今、エシャレットを食う為だけに生きている。

ゴトンと音がした。ポストに何かが突っ込まれた音だ。確認してみると、中国からの郵送品。アマゾンとかで注文した記憶はない。いつぞや騒ぎになった不思議な種でも入っているのかと思って、少しワクワクしながら開封した。中には1粒の錠剤と、簡単な説明書が入っていた。これは、ヤバイ薬なのではないかと思って、説明書を見ると、美しくなるためのホルモン剤『メスニナール1993』と記載されていた。よくよく梱包していた包みを見ると、ここの住所とは違う住所が記載されていた。配送ミスなのだ。適当に仕事をするやつがいるものだ。真面目に頭を下げていた自分が惨めに思えて来る。ボクは、酒のまわった勢いで、面白がってこの錠剤を飲んでみた。美しくなれるとは、どういう事だろうか。イケメンになったら、気持ち少しは余裕がでるのかもしれない。ジャニーズのアイドルみたいなイケメンになったら、それはそれで面白そうだ。そんな悪ノリで、ボクは錠剤を口に入れ、チューハイで流し込んだ。そして、ボクはノートパソコンでゲームをして、夜も遅くなったと感じた頃に、布団に潜って眠りについた。

寝ていると、妙に体が熱くなってきた。変な汗が噴き出て来るようだ。それに節々も痛む。風邪か?いや、さっき飲んだあの錠剤、あれはヤバイ薬だったのでは・・・その予感は当たったようだ。次第に体中、激しい痛みがこみあげて来て、あまりの痛みに唸り声を上げてしまう程に苦しんだ。だが、力が出ない。動けない。やばい、このまま死ぬかもしれないと脳裏をよぎった。死にたくない。死にたくない。でも、生き続けるのも苦痛だ。そんな事をずっと考えながら、痛みに悶え、苦しみ続け、朝が来た。バイト、行かなきゃいけないのに、体が動かない。小人の国、リリパットで貼り付けにされたガリバーのように動けない。いや、ガリバーはまだましだ。あいつは痛みを感じていないかった。携帯が鳴る。鳴りまくる。電話を取りに行けない。動けないのだ。でも、最低、連絡はしなければならないと思い、携帯電話に手を伸ばそうとした時だった。

ボグンっというような鈍い音。腕が妙な方向にひん曲がる。恐怖した。自分の体で何が起きているのかわからない。この腕の変化はすぐに前身に現れる。ぼぎゃぼぎゃと鈍い音が部屋に響き渡る。ボクの体中の骨と言う骨が変形しまくり、ボクの視界も激しく揺れ動く。激しい激痛、ボクは叫べない。声が出ない。叫んでいるのに声が出ない。パニック。何が起きているのかわからない。死。それだけが脳裏で思い浮かぶ。どのぐらい時がたったのかわからない。骨以外にも、内臓のいたる所に痛みを感じ、糞は穴から噴き出し、小便はとめどなくながれ、吐しゃ物も吐き散らかした。何度も意識を失い、現実も何もわからない。ただ、痛みと苦痛と恐怖に飲み込まれ続けていた。死ぬなら、楽に死なせてくれと願うばかりだった。殺してくれと、もう俺を殺してくれと強く願った。でも、死ななかった。

永遠に続くかと思われた苦しみは、突然終わった。何も無かったかのようにさっぱりと、今までの痛みがウソのようだった。しかし、巻き散らかされた汚物が、現実であった事をボクに告げる。掃除が大変だ。そう思える躯体に余裕が生まれていた。ボクは、とりあえずシャワーを浴びた。やせ細った両手と両足、お腹もへっこんだ。とても貧相な体になった。腕毛、すね毛、ケツ下、陰毛、腋毛、胸毛、髭これらのムダ毛が全て抜け落ちた。シャワーで汚れを落とし、そして鏡を見て、ボクは驚き、叫んでしまった。

鏡には、見知らぬ少女のような顔が映っていた。ミシラヌガイド星3つぐらいに見知らぬ美少女の顔だ。ボクは自分の顔を手で触れると、鏡の少女も顔を手で触れた。これは、自分だ。自分は少女になってしまったのか?しかし、下を見ればティンポコが風も無いのにぶらぶらしている。それも、妙に若返ったつるつるティンポコだ。背も縮んだようだし、体の骨格も、肌の質も、全て変わってしまった。ボクは、男の娘になってしまったのだ。

突然の現象、全てはあの錠剤『メスニナール1993』の効果であったのだ。地獄のような苦しみの果てに用意されたご褒美の存在、これまでどんなに苦しんでも見返りがなかった人生で初めてのご褒美。それがこの美人化だったのだ。ボクは生まれて初めて、神様に感謝したぜ。これまでの暗いだけの自分、さようなら!なんて思ったんだが、外見は変わっても中身は中身だ。俺は俺のまま。恐る恐る携帯を手に取る。着信が沢山。ボイスメッセージも入っていた。それを再生するのに少し勇気が必要だ。なんて、思っていたんだが、妙な事実に気が付いた。日付である。ボクが布団に入ってから、1週間が経過していた。そう、1週間、ボクは音信不通の状態だったが、誰もボクの部屋に様子を見に来なかったのだ。そして、ボイスメッセージには、もう、来なくていいと一言、店長からのメッセージが入っていた。このままボクが死んでいたとしたら、遺体は放置、腐り果てていたのだろう。ボクは唯一の職場だったスーパーからも、人と思われていなかったようだ。妙な切ない気分に涙がちょちょぎれ、まるで孤独死の現場のような汚物で汚れた部屋を掃除した。布団はハサミできったりして、ゴミ袋にぶち込んだ。まるで、今までの自分の死体を処理しているような気分だった。

現在、貯金は32万円。仕事無し。でも、ルッキズム中のルッキズムたる美貌を手に入れた。美しい事、それはすなわち権力。

俺の名前は夏水(なつみず) 葉月(はづき)。25歳。童貞。彼女いない歴、年齢。

ここから俺の冒険が始まる。


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