第二十三話 脇役の矜持2――汚さも醜さも愛してる
楼香は布団を被って忍び泣きしていた。
あんな言葉出るとは思わなかったし、それはきっと。楼香の認めたくない気持ちだった。
楼香は美しくないのを自覚している故に、美しくありたいものだった。
だからこそ化粧品には拘りがあったし、肌の手入れも大事にしていた。
輝夜の本質から生き方はまるで理解できないし、したくない。
それを理解すれば、自分自身の美が覆る。
最初から輝夜であれば、何も要らないのだ。美しくいるための努力ですら。
それはどんな本質か。
(脇役と、主役みたいな関係だよな)
楼香はぐすぐすと泣きわめく。
自分の視点しかない人生に、他人の人生のほうが個性溢れて強いのだと知りたくもなかった。
これだけ自分は凡人なんだと、思い知りたくもなかった。
布団が捲られる――目の前には鶯宿がいた。
鶯宿が銀の折り紙で出来た鶴を差し出すので、ぷはっと噴き出し楼香は布団から出てくる。
明るい日差しが眩しい。
「あたし、あたしさ。きれいじゃないんだ」
「うん」
「でもさ、きれいがよかったんだ」
「うん」
「だって。誰だってシンデレラで産まれたいよ。しわくちゃ継母だったなんて、知りたくないよ」
「……そうだな」
鶯宿は今までの行いを見ていたのか、知っていたのか判らなかったが。
楼香は全部話してしまおうと。そうして嫌われようと決めた。
汚い女より、きっと輝夜みたいな女性のが全員男性は好きだろう。
鶯宿への八つ当たりでもあった。
「あたし、すごく。姐さんと息が合って。嬉しかった。でも、それは。お互い脇役同士の友情だったんだって、輝夜を見て思い知る」
「どうして?」
「脇役みたいだろ、あいつのそばにいると全員引き立て役になるんだ! だから嫌いだ、あいつ! 鶯宿もあっちにいけよ!」
「……楼香、俺は。言っただろ、綺麗な子より可愛い子が好きだ」
少しだけお茶目な口調で鶯宿は笑った。
布団を全部引き剥がしてしまうと、鶯宿は楼香の手を握った。
「お前の醜さも、汚さもひっくるめてお前だ。確かにお前は、美人じゃない。でも、それひっくるめてお前だろ。可愛くなろうとしている」
「……うん」
「お前の人生では、お前が一番綺麗で。お前が一番可愛いでいいじゃないか。他のやつの評価も気になるだろうけど。お前はそうでいろ」
「……鶯宿」
「お前が考えれば、思い込めば。お前は誰よりも美しくなれる、それがお前の人生だ」
鶯宿は楼香の頭を撫でれば、楼香は子供じみた涙を零した。
綺麗な物が好きな理由が分からなかった。
綺麗な関係や、綺麗とされるものがイイ理由も分からず、拘ってきていた。
それら全ては、楼香は自分が綺麗になりたいからなんだと、楼香にも。周りにも伝わり、楼香はこの日、自分の美への狂気を自覚する――。
*
後日市松に連れてこられた輝夜はぶすっとしている。
楼香も感情を爆発させたあとだ。
輝夜に何を言って良いか判らず気まずい。
輝夜はスマホを弄って、検索画面を見せる。
「どれがいいんだ」
「え?」
「私は美容に強い友達がいない。だから、その。とても君の生き方はいいなと思う」
「ばかにしてんの?」
「違うんだよ。私はほんとに、夢中になれたものが、たったひとつしかなかったから。趣味も最近やっと見つけてもいまいち本気になれなくて」
「……なにそれ、あんた、あたしが羨ましいってこと?」
「そういうことになる。私は、何かに夢中になれる君のがいい」
輝夜は拗ねた口調で楼香に検索画面を押しつければ、楼香は笑って検索画面に文字を打ち込んだ。
「まずは化粧水。あたしのおすすめはそれだけど、肌質によってはちがうから。まずは査定してもらおう」
「そんなものがいるのかね、ほう……」
「あんたが綺麗になるのはいやだけど、そのままってのもその顔がもったいないからね」
楼香はどや顔で市松を見やると市松は、輝夜の後ろでお詫びポーズをしていた。
楼香は少しだけ、そんな二人が羨ましくなる。




