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第十四話 シナリオを画いた卵1――はじまりは誰?

 時期は七月になろうとしている。夏の暑さがじりじりと初旬でもひりついて、すでに熱気は上昇。

 真夏の夜を謳歌していると言わんばかりの室温に、竜道は自室の空調を整えた。

 若干古いエアコンは少しだけ面倒くさそうに風を送ってきて、冷ややかな空気が自室を満たす。

 マンションの一室なので、自室だけ空調を整えればあとは満足だと、部屋を閉め切りにした。


「狼、か」


 竜道は日記帳に何かを記していた。

 日記でありながら、日記にあらず、沢山の童話の解釈や物語を記していた。

 ここのところ狼が出てくる話ばかりを取り扱っている。

 童話において狼は絶対的な悪であり、悪者にしかなれない存在だ。

 というのも、西洋の方では狼は害獣だったので忌み嫌われているのだ。

 種族が減るまで追い詰めて行かれた狼は、とにかく物語に出れば愚鈍で間抜け。それが童話のルールだった。


「狼を主役にした話もいいな」


 狼が主人公の童話もあるにはある。

 その中で竜道は、ばかなおおかみ、という物語がお気に入りだった。

 狼が三回騙されて最後に召される話だ。

 ばかなおおかみでも、やはり狼は馬鹿で愚か者とされている。


「なんとなく楼香ちゃん思い出すんだよな……」


 学生時代、楼香は騙されやすく。

 それ故に付き合ってた頃も、浮気している間嘘のバーゲンセールしていても、楼香は気付かなかった。

 後ろめたい気持ちがどんどん増していき、最終的に竜道が自白したのが楼香と竜道の終わりだった。

 何を言っても相手を疑わない楼香の愚かさは幾つになっても気になる。


「……今度時間とってもらわないと」


 竜道は良い時間になっていると気付けば寝支度をしはじめ、電気を消してベッドに入った。

 日記帳は机の上に存在したままだ。


 しばらくすれば、誰かの気配がする。

 誰かの気配は何かを探していた。半分夢の世界でありながら、竜道が視線を向ければ、狐面の男がいる。

 狐面の男は、指先を口元にあてて、「シィ」と内緒話でもするように、声を秘めた。


 最近知り合った人に似ているな、と竜道はそのまま眠りに就いた。


 *


 意外な人物が宿に泊まりに来た。

 先日襲ってきた兎面の男がにちゃりと笑いながら玄関先にいた。

 何の冗談だろうと眉間の間を押さえていれば、楼香を押しのけて兎太郎は玄関にあがって、靴を脱いで中へ入ってきた。


「怪異専門の宿なんだろ、小生も対象のはずだ」

「いや、そりゃそうだけど。暴れないでよね」

「問題ない、努力しよう。なんだでけえ屋敷だな、成金か」

「そうね、親の代で大きな会社になったわ。親が死んで会社は伯母さんたちのものになったけど」

「そりゃ適任だ。和室借りるぜ?」


 どすどすと歩いて行けば慌てて階段を下りてきた鶯宿と出くわす。

 鶯宿は兎太郎がいるのに目を見開きぎょっとしてから、警戒心をむき出しに。楼香に追い出せのジェスチャーをしてから、楼香は無理だのジェスチャーで返す。

 この家のルールに客を選別する、はなかったので、ごねられたらそれこそ暴れ回るかもしれない。


「今日はとくっべつにうまい料理頼むワア」

「あたしの料理はいつだって美味しいの。今日はテリヤキチキンにしようかな」

「ほおう、鶏肉か?」

「夕飯までには間に合えばあとは好きにしてて。出かけてもいいからね」

「判った」

「それと。アンタの場合、対価は何にしておく?」

「――……そうだな、お前の幸せに関わってやる、怪異からの祝福も珍しいだろ」

「……なるほど。わかった」


 条件次第では魅力的な内容だ。

 叶えられれば確かに、対価は有難い。

 鶯宿が楼香を引っ張って、一緒に二階まで連れられていく。鶯宿の部屋に行けば、鶯宿はすごい剣幕で楼香に詰め寄った。


「なにやってんだおまえ!」

「いや、だって。無理だよ、断れないよ」

「いや断れよ、襲ってきた相手だろ!?」

「うーん、でも。なんとなく、断れなくて。話し合いで済むならそれがいいから」


 楼香の反応に鶯宿は理解できず、それが楼香の歪さだと、この頃はまだ理解できなかったのだった――。



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