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第十二話 特効薬2――悩める怪異

 楼香は自宅にて伸び伸びとテレワークをしていた。

 テレワークは伸び伸びと過ごせるし、分量もほどほどにおさまるので適度にさぼれると楼香は根詰めずに済んだ。

 昼の分が終わり、午後の分はさぼろうと思案していた頃合いに、チャイムが鳴る。

 玄関をあければ、つり上がった瞳が印象的の口元の笑みが特徴的な男だった。


「怪異の宿、の、白﨑さんち、ですか?」

「はいはい、そうですよ。おたくは何の怪異?」

「怪人マントと世間では言われてます」


 ぎょっとした。

 人殺しの怪異ではないか、と狼狽えるも楼香は目を見開くだけであとは反応に体が追いつかない。

 頬をぽりぽりと掻いて、改めて確認をする。


「あたしの言うこと守れる?」

「それがルールなのでしょう」

「この家では誰も殺さない?」

「我慢します」


 事前に知らせて置いたあのルールを守る気概はある様子なので、楼香は安心した。

 楼香は安心すると家に招き、靴はちゃんと脱ぐようにと指示し、怪人は従う。

 怪人はにたにたしていて妖しい笑みではあるが、動作自体はまったく丁寧で礼儀正しかった。


「部屋のリクエストある? 和室、洋室とあるけれど」

「なら和室でお願いします。皆さん和室、人気なんです、行った人は和室を褒めてました」

「んじゃ、そこの部屋泊まってていいよ。夕飯は七時頃かな、その間外に出たり入ったりしてもいいし。でも夜は外でないでね」

「はい、あっ、シャンプーの持ち込みいいですか」

「勿論いいよ、好きなの使いな。持ってきてるなら」

「よかった、痛みやすいんで、オーガニックのじゃないと駄目なんだ」


 怪人マントはにたにたしながら喜び感謝していた。


「対価はどうする、お金、あんたなさそうだよね。人殺してるんだし」

「そうですね、でしたら夕飯のお手伝いなんてどうでしょう」

「あ、じゃあそれで。それとお風呂掃除でもどうかな」

「任せてください。頑張ります」


 それじゃあそうしようと話を纏めて、楼香は怪人マントに和室を案内すれば自室のテレワークに戻っていった。


 *



「このご時世、中々一人にならないんですよね、子供も利口になって」

 怪人マントと一緒に野菜や魚を切りながら、一緒に料理を共にする。

 楼香はテレワークの終了後、台所にくれば怪人マントはしっかりと自前のエプロンをつけていた。色について言及するのは危険な気がしたので、黙っておく。


「大体対策ねってこられるので、小生はなかなかきついのですよ」

「あんたのって仕事じゃないなら、しなきゃいいじゃない」

「そういうわけにもいかないんです、純粋悪は生きてるだけで純粋悪なんです、他の行動したとしてもきっと悪い出来事起きますよ人間にとっての都合悪い出来事が」

「そういうもんなのかねえ」

「人間だって生きてるだけで豚や動物死ぬでしょう?」


 言われて見れば納得はする。

 家畜とは言え生きるために動物を殺すことはあるはずだ、自分の手で行っていないからといって、していないわけじゃない。

 楼香は刺身を綺麗に切れた怪人に褒め称えると綺麗に皿に載せ、食卓に並べた。

 その頃に鶯宿が帰ってきて、少しだけ気恥ずかしそうにむすっとしている。


「おかえり、今ご飯にするところだよ」

「お風呂も小生がやりました!」

「おお、今日は俺はお休みだったし有難いな。うまそう、刺身か」

「そうそう、サーモンと鰺が安かったから。鰺はこの人に捌いてもらった」

「三枚下ろし得意なんです、どんなものも」

「突っ込んでイイのか……いややめとこう、無粋な話になるな。んじゃ、いただこう。先に食べててくれ、手を洗う」


 鶯宿の言葉に、楼香と怪人は頷き手を合わせて食べ始める。

 食卓にあがったのは、サーモンと鰺の刺身に、野菜炒め。わかめとタコの酢の物に、ところてん。お味噌汁は茄子で、漬物は野沢菜だ。

 出汁醤油を使うのが楼香の好みだが、怪人は普通の醤油を好んだ。

 戻ってきた鶯宿も一緒に手を合わせて食べ始め、お茶を飲む。


「おお、すげえさっぱりしてていいな」

「今日は晴れてるけど、最近梅雨になっているし。流石に六月は暑さもじりじりきてるしねえ」

「この時期みんな油断してくれやすいんで、楼香さんも気をつけてクダサイ。お外で小生に出会わぬよう」

「そんときは見逃してよ」

「依怙贔屓だめですよう。とはいえ、このご時世このままでいいかどうかも、悩むんですけどね。居場所がなくなる」

「居場所ってどうして」

「もう小生らに怯えて騒ぐ人々はいないし、世の中はもっと小生たちより凶悪なものにあふれ出した」


 苦労しますよ、と怪人は鰺をしみじみと噛みしめた。

 そういえば――鶯宿だって、いずれは人を襲うくらい自我がなくなるかもしれない。

 このまま悪鬼という性質でいれば、それはいつか遠い未来、自我を失い人を襲う未来になる意味合いだ。


 ――鶯宿の人を襲う未来が、あまりしっくりこず楼香は鶯宿をじっと見つめた。


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