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第八話 この違和感を知りたくない1――悪鬼の波動

 鶯宿はその後荷物を取りに地獄に行くと、上司が待機していた。

 荷物整理している自分のそばで物言いたげにいつまでも居るのだから、邪魔な気はするが心配しているのだろう。

 鶯宿は心配だけ有難く受け取り、荷物の整理を終えると、地上の楼香宅宛に送りつけ。あとは上司にお辞儀した。


「今までありがとう御座いました」

「……本当にそれでいいのか、おれたちはみたくねえよ、お前が人を襲うところ」

「それでも一時の感情にまかせたい相手がいるんです」

 鶯宿の何とも言えない笑みに上司は楼香を否定した。


「あんな人間に肩入れするのはやめろよ!」

「どうしてですか、貴方が楼香の何を知ってるんですか」

「こんなのミイラ取りのミイラになる状態じゃないか! どうせあんな人間地獄送りになって当たり前で――」

「それ以上は許さねえぞ」


 鶯宿は不穏な空気を見せる。

 赤みがかった瞳はきらりと何処か金色が交じりつつあり、瞳の中でミルクと珈琲が混ざるような動きをしている。

 上司は信じられなかった。守るべき者ができて、鶯宿は力を得つつある。

 自己分析の結果は、神格化しつつあるのだ。

 悟りを開けば開くほど神格化していく鬼という生き物は。鶯宿は自己分析していって、少しだけ力を得たのだろう。

 だが悲しくも牙を見せ威嚇する姿は、悪鬼そのものだった。

 上司が腰を抜かしへたりと床に座り込めば、鶯宿は唸りその場を後にする。


 賽の河原を最後に眺めてから地上に戻ろうとすれば、賽の河原に誰か居る。見知った姿が鶯宿を待っていた。

 長い間、会うことのなかった吉野だ――吉野は鶯宿を見つけると手を振って、嬉しそうな顔で笑った。


「やっとお前に会えた」

「市松から聞いたのか」

「そうだ、もうすぐ地獄からいなくなるって聞いたから、慌ててまだいるうちに来た」

「かなり久しぶりのわりにはお前は変わらないんだな、その人なつっこさ」

「お前もその警戒心は変わらないな、なあ……あのとき……俺は」

「よそう、昔の話は。現在の話なら聞いてやる。何か話したい話が現代でもあるから来たんだろう?」


 鶯宿の提案に吉野は思い詰めた顔を切り替えて、少しだけ破顔した。


「大事な人できたんだな」

「それも市松から聞いたのか、軽い口だな」

「俺も大事な人間がいるんだ。だからお前のことが他人事に思えなくて」

「お前と大分、立場は違うけどな。お前は神道を。俺は邪道だ」

「正反対の属性だけど、同じ道なのは何だか嬉しい。なあ、人間が好きか?」


 吉野の問いかけに鶯宿は考え込んでから、仄かに笑えた。

 鶯宿自身吉野を前にして笑える自信は無かった。

 行方をばれたくなかったし、会いたくもなかった。

 それでも今こうして落ち着くのは何なのだろう。

 同じ気持ちを共有していると、腐れ縁という関係も付き合いの長さも、悪くないような感覚がしてくる。

 そんな想いをくれた楼香にさえ、宝物をくれた感覚だった。


「人間は脆くて、狡くて、卑怯だとおもっていた。でも、なんていうか。そういうしょうもなさ含めて愛しさがある」

「っはは、俺も同じだ。脆さが好きなんだ、大事にしたくなる。壊れて欲しくないんだ」

「お前はお前の宝物を守れ、俺は俺の宝物を守るよ」

「久しぶりになんでもない、ただのお前と語れた気がする、有難う。良ければ、また会おう。よくない門出だけど出会えてよかった」


 吉野の言葉に鶯宿は無言で嗤った。

 これはきっと確かによくない門出だ。

 悪鬼となれば神が罰を与える未来にも繋がりかねない、吉野が敵になる確率も高い。


 それでも、この出会いは大事に感じる――賽の河原に石を投げて水切りをすれば、鶯宿はそのまま立ち去って地上に向かっていく。

 地獄のピンク色をした空を眺めるのはこれが最後だった。


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