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朝から濃厚過ぎる過剰なご褒美攻撃を受け続けた私はその勢いのままのミューゼ様と2時限目から登校した。
やはり階段はお姫様抱っこされ、教室では当然のように隣に座り、先生の授業そっちのけで私だけを見つめているミューゼ様の視線が痛い。
キャラ崩壊が半端なさ過ぎて『キャラ変わり過ぎてないかぁぁぁい!』と世界の中心で叫びたい気分だ。
私がこんなにも溺愛的に愛される理由が全くもって分からない。
多分ゲームのフェリーとこの世界の私はまるで別人だと思うけど、だからってここまで愛される理由に心当たりがなさすぎる。
ゲーム内のヒロインよりも愛されてる悪役令嬢ってありなの?
「ミューゼ...そんなに見られていると集中出来ないわ」
「気にするな」
いや、気になりますから!気にしない方がおかしいですから!
ふと別方向からの視線を感じてそちらを見ると、今日は宰相の隣を死守したらしいヒロインと目が合った。
とてつもなく睨んでいる。
そりゃねー、ヒロインからしたら私はヒロインが結ばれる予定の男を奪った憎き相手なんだろうから睨まれるだろうけども...宰相の隣死守しといてこっちも狙うの?!
昨日は王太子殿下に腕絡めて纏わり付いてたよね?
トゥーラバ(ゲームの略称)には逆ハールートは存在しなかった。
攻略対象は最初に選択して、選択したキャラをひたすらに攻略していく。
言動の選択次第でノーマル・バッド・ハッピー・トゥルーエンドの4通りのエンディングを迎える。
私はミューゼ様一択で浮気もせず、全部のエンディングを見て、全スチルも開放し、開放した後もひたすらにミューゼ様に会いたくて毎日毎日飽きる事なくゲームの世界にのめり込んでいた。
だから他の攻略対象者達のルートの事は知らないし、この世界に転生した今でも全く興味がない。
ただ、もしかして他のキャラルートでもミューゼ様が登場したりするのか、逆ハーなんてものが存在するのかは気になったのでネタバレ含むゲーム板はチェックしていたので、逆ハールートが存在しない事も他のキャラルートでミューゼ様が登場しない事も知っていた。
あー、そういえばそのゲーム板で同担拒否の子に「私のミューゼ様だから!」と私の存在そのものを否定するような言葉を投げられた事もあったなぁ...。
私は同担拒否ではなかったし、ゲーム機の中のミューゼ様は私だけのものだけど、他の人が温めたミューゼ様はその人だけのものだよね?って考えだったからあそこまでディスられるとは思ってなくて引いたっけ。
暫くこちらを睨んでいたヒロインだったが先生に指摘されて前を向いてくれた。
*
お昼休み、王太子殿下に呼ばれたミューゼ様が私の隣からいなくなったタイミングでヒロイン・リリン様が話し掛けて来た。
「フェリー様!少しお話し出来ませんか?」
いた場所(裏庭の四阿)が悪く、周囲には誰もいない。
正直関わりたくはないのだが、何となくここで逃げても何度も声を掛けて来そうだから話してみる事にした。
「何の御用でしょうか?」
そう答えるとリリン様は私の隣に腰掛けた。
「ねぇ?!悪役令嬢が結婚してるってどういう事?!」
怒気しか含まれない声でそう言ったリリン様の顔は到底ヒロインとは思えない程に悪人顔で『これじゃどっちが悪役令嬢か分かんなくない?』と思う程だった。
「悪役、令嬢?」
「すっとぼけるんじゃないわよ!あんたもどうせ転生者なんでしょ!」
「転生者?」
ここはすっとぼける一択である。
「じゃなきゃおかしいでしょ?!あんた、ミューゼ様に嫌われてるはずなのに!」
「仰っている意味が分からないのですが?先程から何を仰っているのでしょう?」
すっとぼけまくる私にイライラを隠すつもりもないリリン様が血走った目で睨んでくる。
『怖っ!顔怖過ぎっ!』
そんな事を思いながらも表情はあくまでも冷静さを保つ(淑女教育の賜物)。
「だーかーらー!そういうのいいんだって!どうせあんたトゥーラバ知ってて私が現れる前にミューゼ様攻略した口なんでしょ?!じゃなきゃ有り得ないから!」
「本当に、何を仰っているのか分からないのですが?トゥーラバ、ですか?攻略?」
「もうほんとそういうのやめろっての!何であんたと私のミューゼ様が結婚してんの?!ないから!マジでないから!」
「...何時からミューゼ様はあなたのものになったのでしょうか?」
リリン様の言葉にイラッとして思わずそう言ってしまった。
「はぁ?!最初からに決まってんじゃん!この世界は私の為の世界なの!私はヒロインなんだから!だからミューゼ様も私のもの!あんたのもんじゃねぇんだよ!」
「仰る理屈が分かりかねますが」
「だからさぁ、いいってば、そういうの!人のものかっさらっといてしらばっくれるとかマジないから!」
『うん、やっぱりこの人無理だわ、めっちゃ嫌いなタイプだわ』
「さっさと離婚してくんない?じゃなきゃミューゼ様ルート進めらんないじゃん!悪役令嬢なら悪役令嬢らしく惨めに断罪されろっての!」
「...あなたの為に私が離婚しなければならない謂れがありません」
「馬鹿なの?その頭の中に脳ミソ詰まってる?!あんたは悪役令嬢なんだから、ヒロインである私に攻略対象者を譲るのは当然だって分かんないの?!」
「...何を仰っているのか理解に苦しみますわ」
『これはない!性格悪過ぎじゃない?!』
「兎に角さ、さっさと消えてくんない?存在自体が不愉快!邪魔!目障り!有り得ない!」
その言葉に既視感を覚えた。
同じような言葉を投げられた事があったのだ、前世で。
「ミューゼ様最高!ミューゼ様しか勝たん!」との言葉を見て仲間がいた!と嬉しくなって「同感です!」と送ったらその後のやり取りで、「はぁ?!ミューゼ様私のだし!消えて!あんたの存在が不愉快!邪魔!目障り!有り得ない!あんたごときがミューゼ様を語るな!」って返事が来たのだ。
まさかこの子じゃないよね?
「ミューゼ様に邪魔だと、消えてと言われたならば考えますが、あなたに何を言われようと私はミューゼ様と別れるつもりはありません!」
「マジ有り得ない!」
リリン様が私を叩こうと手を振りかざしたのが見えた。
衝撃に備えてお腹を庇うように身を縮めたのだが衝撃は来なかった。
そっとリリン様を見ると、リリン様の振り上げられた手は騎士団長(後の)マリオン・グルーガー様にしっかりと掴まれていた。
「大丈夫ですか、フェリー殿!」
「はい、私は大丈夫です...ありがとうございます」
「は、放して!誤解なんだって!」
「言い争う声が聞こえたから来てみたが、まさか君が身重のフェリー殿に暴力を振るおうとするとは!」
「み、身重?!身重って?!え?妊娠?!」
「この事はミューゼにも報告させてもらう!」
「ちょ!ちょっと待ってよ!え?何?!妊娠してんの?!え?ミューゼ様に報告?!ヤダ!何で?!何でぇぇ!」
「申し訳ありません、リリン様...そういう事ですの...だから先程のお話はやはりお断りさせていただきます」
「妊娠...嘘でしょ...ミューゼ様の初めては卒業後3年経って式の後だったはずなのに...」
あぁ、ファンディスクでの後日談にそんな話が入ってたなぁ...何故だろう、綺麗に忘れてたよ。
卒業パーティでの断罪劇の後、順調に愛を育んだヒロインとミューゼ様は3年後に式を挙げる。
式の後は当然初夜がある訳で「この日をどれ程待っていたか」と色気ムンムンのミューゼ様がヒロインを抱き締めて2人の影が重なり夜が更けていく...的な感じだった、今思い出したけど。
あのファンディスクよりも濃厚な夜を私はとっくに味わっていて、その結果妊娠しているのだが。
打ち拉がれるように呆然としてしまったリリン様を後目にマリオン様が私を守るようにしながら教室まで連れて行ってくれた。
5時限目が始まってもリリン様は戻っては来なかった。
10万PV突破しておりました‼(•'╻'• ۶)۶
読んでいただいた皆様に感謝です(*' ')*, ,)ペコ
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